手持ち無沙汰
翌日からルナの令嬢としての生活が始まった。
ルナにとっては、仕事がない、やるべき役目がない、という状況は初めてのことだった。
お願いしていた乗馬については、初心者のルナによい馬を選ぶ時間がいるとのことで、待たないといけないようだった。
「ルナ様、辺境伯御子息の婚約者様に相応しいドレスや靴を揃えましょう!」
マーゴは嬉しそうに、領内で一番の仕立て屋を呼び、布地やデザイン選びについてルナに聞いてきた。
ルナは、一時は仕立て屋が持ってきた色とりどりの布地のサンプルに心を躍らせたものの、すぐに「マージに任せるわ」「マージの気にいったものがいいと思うから」と言いだした。
〝神殿でも、食堂でも、お役目やお仕事があるって、ある意味ありがたいことだったのね…。〟
神殿にいた頃は、与えられた仕事でがんじがらめにされているような感じがあったけれど、役目を与えられているということは、能力を認められ、求められているということでもあったのだ…と、ルナは改めて思った。
〝かと言って、神殿に戻る気は全く起きないけれど…。〟
神殿の外での生活が長くなるにしたがって、様々なことへ興味が広がるのと同時に、自分にとって大切なことの優先順位が次第にはっきりしてきたことも、ルナは心地よく感じていた。
〝やっぱり、ユーゴと一緒にいることが、今の私にとっては一番大切かなぁ…。
そう言えば…婚約者を装うのよね!? 婚約者って、どう振舞えばいいものなのかしら!?〟
ぼんやりしたかと思えば、微笑んだり、かと思えば焦ったように手をバタバタさせているルナの姿に、
「ルナ様、お疲れが出ましたか?」
と、少し心配そうにマージが声をかけた。
「大丈夫よ。ありがとう。
……あのね、マージ、聞きたいのだけれど…」
「?はい? 何でございましょう?」
「こ…、婚約者同士って、どんな感じでどう振舞うものなのかしら?
私はすっと神殿の中だけで生きてきたから、わからなくて……。」
ルナの言葉を聞いて、マージがクスクス笑った。
「まあ、ルナ様。ご心配には及びません。ルナ様とユーゴ様はそのままで十分婚約者同士に見えますから。そのまま仲良くお過ごしになられていれば、何の問題もないと思いますよ。」
「え?!そうなの? このままで…いいの…?」
ルナは少し肩透かしをくらったような気がした。
〝ひょっとしたら、もう少し、何か特別なことがあるかもしれない?って、思ったんだけど…、って、違う違う! 私ったら!〟
またしても顔を赤くしたり、手をパタパタ動かしたりし始めたルナを見て、
「やはり今日は早めにお休みになった方がよろしいですわね。」
とマージが言った。
ルナにとって、ユーゴは昔も今もずっと、なくてはならない大切な人だった。
一人の人として見ても、好ましく、魅力的な人だとも思っていた。
ユーゴと触れ合うと、いつでもドキドキすることも自覚しているけれど、ただ、これがいわゆる恋愛の感情なのか、ルナは確信が持てないでいたのだった…。
城に来てから数日が経ち、ユーゴは一日一回は、ルナの様子を見に来てくれるものの、いそがしそうで一緒に食事をとったり、ゆっくり話をすることはできなかった。
マージに聞くと、早急に辺境騎士団を把握し、必要があれば訓練に参加したり、指導をするように…と、父である辺境伯に指示されている、とのことだった。
〝ユーゴは、頑張っているのね。〟
いっしょにいる時間が少なくなったのは寂しかったが、ルナはルナで何かユーゴやダフネの役に立つことを探したいと思っていた。
主人公の侍女の名前をマーゴから、マージに変更しました。
申し訳ありません。




