初対面(1)
「ルナ様、どこからどう見ても、良家のお嬢様でいらっしゃいますわ。」
支度が終わったルナに、マージが言った。
そこへ、ノックの音が響き、ユーゴが部屋に入ってきた。同行してきた執事はドアの近くに待機した。
「ルナ、体調は大丈夫…か…?」
ユーゴはルナの姿を見て、息をのんだ。
「大丈夫よ。ユーゴ、髪の毛を取っておいてくれてありがとう。」
ルナがそう言って、微笑むと、ユーゴは「ああ、役に立ったみたいでよかった。」とぶっきらぼうに返した。
「まあ、ユーゴ様、そこはさらっと『いつもにも増してきれいだ』とか、言っていただかないと。」
マージが、からかうように言うと、
「いつもにも増してきれいだ。」
と、ユーゴは真顔で、ルナを見つめ、そのままの言葉で言った。
しかし、ユーゴの言葉はルナにとっては、破壊力が抜群だった。
「あ、ありがとう、ユーゴ。」
ルナが頬を紅く染めながら、返した。
ユーゴは、仕立ての良い深い緑色の上着とベストを身につけており、ルナにとっては初めて見る貴族男性の恰好をしたユーゴの姿だった。
「では、辺境伯の元へ、挨拶に行こうか?」
ユーゴが左腕の肘をさし出し、そこへルナが右手を添え、先導をしてくれる執事の後を二人は歩いていった。
神殿では、そのようなエスコートの体勢をとったことはなく、ルナはとても新鮮な感覚を覚えた。
「緊張するわ…。」
ルナは、そっとユーゴに言った。
「大丈夫だ。朝のうちに先に俺だけ会ってきたが、話がわかる人のようだった。」
「まあ、ユーゴ…。」
ユーゴの言葉は自分の父親に向けるには他人行儀な印象があったが、神殿に入ってからは父親には会っていなかったようなので、無理もないのかもしれなかった。
執事が案内してくれたのは、応接室ではなく、領主の執務室らしい部屋だった。
出迎えたのは、ユーゴと同じ茶色の髪と新緑の色の瞳をもつ、壮年の男性だった。
国防を担う辺境伯にふさわしく、静かな佇まいの中にも威厳を感じさせる雰囲気をもっていた。そして、すらっと背が高い様子や、目元や鼻筋が通っている様子がユーゴに似ていた。
〝ああ、ユーゴのお父様なんだわ…〟とルナは感慨深く思った。
「よく来てくれた。ユーゴの父、バシル・ルーセルだ。」
「ルナと申します。この度は、誠にありがとうございました。」
ルナが神殿風のお辞儀の仕方ではなく、貴族令嬢のように両手でデイドレスの裾を持ちお辞儀をした。
ルナのお辞儀を見て、バシルは微笑んだ。
「まあ、座ってくれ。」
促され、ルナとユーゴは机の前に置いてあるソファに、バシルに向かい合って座った。
「単刀直入に言おう。君は脱走という、聖女にあるまじきことをしたかもしれないが、私にとってはよいことをしてくれた。大事な息子であるユーゴを故郷へ導いてくれたのだからね。ユーゴがやっと私に助けを求めてくれたのは、喜ばしいことだった。
そもそも、私は神殿へ幼いユーゴをやりたくはなかった。けれど、そのときはまだ存命だった私の母が信心深くてね。ユーゴに聖なる力があると分かった以上、神殿へ行かせるべきだと譲らなかったのだ…。
ユーゴ、お前の母親も10年前に病で亡くなるまで、お前のことを案じていたよ。」
バシルの目が寂しく昔を思い出すかのように細められた。
「さて、これからのことだ。ユーゴは元々、我がルーセル家の人間だ。不祥事を起こしたとしても、このまま神殿から籍を引かせてほしいと要望を出したら何とか通るだろう。」
「いえ、通らないかもしれません。その理由はまたお話しますが……。」
ユーゴがバシルの話を遮ったが、すぐに言い淀んだ。
「そうか…。とは言え、神殿側が取り戻そうとやっきになるのは、ルナさんの方だろう。聖女の存在は貴重だからな。」




