貴族のご令嬢?
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
ルナの耳に、ノックの音と共に、マージの声が届いた。
「起きています。どうぞ、お入りなって。」
ルナが答えると、マージが入室してきた。マージはルナの顔を見てほっとした顔をした。
「よくお休みになられたご様子ですね。」
「ええ。」
「お召し替えをいたしましょうか?」
ルナは、マーゴの誠実そうな人柄に心を許し始めていた。
何より、昨日は下働きのお仕着せのような恰好をしていたのにも関わらず、こちらを侮るような様子は一切見せることはなかった。ただ人としてルナを尊重し、気遣ってくれる様子が伝わってくるのが心地よかった。
着替えを手伝ってもらいながら、ルナはマージに話しかけた。
「マージ、聞いてもいいかしら?」
「はい、なんでございましょう、お嬢様。」
「まず私のことは、ルナと呼んでくれるとうれしいわ。」
「かしこまりました…ルナ様。」
「あのね…、ユーゴは辺境伯の跡継ぎというわけではないわよね?」
「はい、ユーゴ様は、3番目の御子息でいらっしゃいます。ただ、長兄のラファエル様は4年前に事故でお亡くなりに。現在は、次兄のジョセフ様が継嗣でいらっしゃいますが、病がちでいらっしゃいます…。」
「まあ、そうなの…。」
ユーゴはルナと同じように5歳で神殿へ入ったので、おそらく第1子ではないと、ルナは思っていた。そのことは合ってはいたが、現在ユーゴは微妙な立場なのかもしれない…と思った。
「それで、私のことはどのように聞いているの?」
「……、ルナ様が聖女であることは、ごく一部のものしか知りません。ご領主様とジョセフ様、執事と私と夫のトム、騎士団長だけです。」
「トムさんって、シドの町にいた大工のトムさん?」
「はい、実は騎士団に所属しておりまして、少しの間ユーゴ様をお助けする任務についていました。」
「そうだったのね!? じゃあ、マージはロイのお母さんなのね?」
「はい、ロイはルナ様にご迷惑をおかけしませんでしたか?」
マーゴがはにかむように聞いた。
「とんでもない! トムさんにもロイにもとてもお世話になりました。」
「お役に立てたのなら、よかったです。」
「城の中では、ルナ様は、ユーゴ様がお連れになった〝貴族のご令嬢〟ということになっています。」
「え!?今朝は私、下働きの恰好をしていたけど!?」
「そこは…、〝駆け落ちをしてきたのかしら?〟なんて周囲は勝手に誤解してくれるものですわ。」
マージがウインクをしながら言った。
マージは話をしながらも、手際よく水色が基調で、所々ピンクの差し色が入ったデイドレスを着つけていった。
「ルナ様、髪型は私にお任せいただいてもよろしいですか?」
「ええ、お願します。」
マージは、髪の毛を後ろにまとめて縛り始めた。
そしてしばったところに銀色の髪の付け毛をつけ、ピンで付け毛の毛束が前の方へかかるように流れを作った。付け毛はルナの髪の毛と同じ髪色と質感で、違和感なく茶色の染粉の色が残っている部分を隠してくれた。
「すごいわ、マージ、魔法みたい!」ルナは鏡を見て歓声を上げた。
「お気づきになりませんか?こちらの付け毛はルナ様ご自身のものですよ。」
「え?!」
髪の毛は神殿を脱出して早々に、ルナが思い切って自分自身の手で切った。
その後始末をユーゴが手伝ってくれたのを思い出した。
ルナは、ユーゴが髪の毛を捨てたとばかり思っていたが、ユーゴはルナに黙って拾い集めた髪の毛を、整え取っておいたらしかった。
「シドの町で、トムがユーゴ様のお手伝いをするようになってから、トムへ預けられておりました。」
「そうだったのね…。」
ルナは、髪の毛を切り落とした時の、ユーゴの残念そうな顔を思い出し、くすぐったい気持ちになった。
「マージ、このリボンもつけてもらっていいかしら?」
ルナはマージに、食堂の女将さんにもらったピンクのリボンを渡した。
「まあ、可愛らしいリボンですね。今日のドレスにも合いますね。」
マージはリボンを少しアレンジを加えた蝶々結びに整えた後、見栄えよくサイドの高い位置にリボンをつけた。
「ありがとう。これで勇気が湧いてきたわ。」
ルナは、ユーゴのお陰でできた付け毛と、女将さんからもらったリボンから、力をもらえる気がした。




