行き先
ほどなくして馬車が走りだし、ユーゴは、自分が座っている側の座席にバスケットが置いてあるのを見て、その上にかけられているナプキンを取った。
するとその中には、パンや干し肉、焼き菓子が入っていた。
「これは、本当に気が利いているな…。」
と、ユーゴはつぶやき、「食べるか?」とルナにパンを差し出した。
気がつけば、朝食もそこそこに、村人のために食事を配り、怒涛のように村から出ることになったルナであり、空腹を覚えた。
パンを受け取り食べていると、やっと気持ちが落ち着いてきた。
「ダフネ、大丈夫かしら…?」
ルナがつぶやいた。
「大丈夫だ。騎士2人が事態の収拾のために残ってくれた。
ガスパールも君を神殿に連れ帰ることにとらわれていたから、ダフネの仕事と名誉を人質に取るようなことを言っていたが、それは意味のない状況になったからな。
ダフネに無体なことはしないだろう…。
それに、昔はガスパールとダフネは仲がよかっただろう? 騎士としては甘いが、友人としては、その辺りも期待したいところだな…。」
「そうね…。」
共に聖養母の元にいた頃から、ガスパールとダフネは馬が合っていたようだった。それは、2人は物事をしっかりと深く考える、という点において、似ていたからかもしれなかった。
ダフネは、ルナやユーゴに優しかったのと同じように、ガスパールにも優しかった。
だから、ダフネが神殿を去ることになったときには、3人それぞれが、寂しく残念な気持ちを抱いていたのだった。
「それにしても、今回の行先について、ルナからは何も聞かないんだな。
騎士団が現れてから、速い展開だったのに、何も言わずついてきてくれて助かったよ。」
ユーゴがあらためて言った。
「だって、神殿を脱出する前に約束したでしょ?
『君の好きにしていい』って、ユーゴが言うまでは、ユーゴの言うことを必ずきく、って。
だから、ユーゴの行くところが私の行くところ、でしょ?」
「そうか。そうだったな…。」
ユーゴは柔らかく微笑んだ。
「それで? これからどこへ行くの?」
ルナが、いたずらっぽく笑って言った。
「東の辺境伯の城へ…。ルナ、俺の父親に会ってもらっていいだろうか?」
「ええ。もちろんお会いするわ。
それにしても、ユーゴが辺境伯の御令息、だったなんてね。
数々の御無礼を、どうぞお許しください…。」
ルナが座ったまま、恭しくお辞儀をした。
「聖女様、無駄口はお控えくださいますよう…。」
ユーゴは、目でルナをたしなめた。
ルナが楽しそうにクスクス笑った。
しかし、ルナにつられてニコっと笑った後、ユーゴは真剣な声で続けた。
「すまない、ルナ。結局、俺の力だけでは君を守りきれなかった。」
ルナは、ふるふると首を横に振った。
「ユーゴは私を守ってくれている。逃げている途中なのに、好きなことをしている私がいけないの…。」
「いや、好きなことをしているルナを、そのまんま守りたいんだ、俺は。」
「ありがとう、ユーゴ…。」
ルナはユーゴの気持ちに、ただ感謝を伝えることしかできない自分がもどかしかった。




