撤収
その騎馬隊はおよそ20騎からなり、あっという間にガスパールが連れてきた兵士たちや隔離エリアを取り囲んだ。
馬の動きのすばやさと統制が取れている様は、ガスパールたちの寄せ集めの一団とは明らかに異なっていた。また、騎乗の男たちは揃いの騎士服を着て、武器こそ構えてはいないが、張り詰めた気を漲らせていた。
ルナ、ダフネ、ガスパールは、何が起きたのか全くわからなかった。
そして、先頭にいた男がひらりと馬から降り、ユーゴの元へ歩み寄った。
「ユーゴ様、我々は間に合いましたかな?」
男はユーゴに軽く頭を下げ、ニヤリと笑いながら言った。
その男はユーゴよりも背が高くがっしりとした体つきをしていて、右頬に斜めに入った傷跡と隙のない身のこなしが、歴戦の強者であることを示していた。
「まあな。」
と、ユーゴは軽く答え、声をひそめ続けた。
「俺より聖女を守ることを何より優先させろ。」
「心得ました。」
と、男が答えたところで、ガスパールが男に声を上げた。
「どこの騎士団の者だ?! 我々が中央神殿から遣わされている者と知っての振舞いか?!」
「おやおや神官様、どうぞお静まりください。
私は東の辺境騎士団の騎士団長 ローガン・ミュレーと申す者です。
我が主、東の辺境伯ルーセル卿の命により、参じました。」
その男、ローガンが冷静な声で答えた。
「ひ、東の辺境騎士団が何の用でここにいるのだ?!」
ガスパールは冷静になることはできなかった。
「ここは、我が主、東の辺境伯の領土、我々がいて当然の場所です。むしろあなた方の方が不自然な存在なのではありませんか?」
ガスパールは正論を言われ、だじろいだ。しかし、
「我々は今まさに中央神殿へ帰るところだった、問題なかろう。」
と、すぐに続けた。
「それでは、お早くお帰りください。ただしあなた方だけで。
ユーゴ様とお連れの女性は、我々が保護いたします。」
ローガンが言った。
〝え?!〟と、ルナがローガンの顔を見た。
「何を言っているんだ!? この二人は神殿から逃亡した罪人なんだぞ!」
ガスパールは、信じられない、とばかりに更に大きな声を上げた。
「いいえ、私は、5歳のときに行方知れずとなった辺境伯のご子息ユーゴ様が、領内で発見されたと報告を受け、お迎えにきただけでございます。そして、ユーゴ様と共にいる女性も一緒にお連れせよ、との、我が主からの命にございます。」
ローガンはニヤリと笑い、慇懃無礼に言った。
「さあ、疾く去られよ、神官殿。」
「辺境伯は、神殿を敵に回すおつもりか?」
ガスパールはローガンを睨み、悔しそうに言った。
「おや、神殿こそ、東の国防を担う、我が主と騎士団を敵に回すおつもりなのでしょうか…?
では、あなた方が去る気がないようなので、我らが失礼することにいたしましょう。」
騎士2人が馬から降り、1人の騎士が馬をユーゴの元に引いていった。
「ユーゴ様、この馬をお使いください。私はもう一名と村に残り、事態が収まるまで、薬師様の補助をいたします。」
ユーゴは、内心手回しのよさに感心しながら、「頼む。」と短く言った。
ユーゴは、すぐに、混乱したままのルナを馬上に乗せ、自分も騎乗しローガンに目で合図をした。
ローガンは「撤収!」と鋭く声を上げ、騎士団は来た時と同じようにあっという間にその場からいなくなった。
ガスパールは、辺りに漂う土煙の中で、唖然と立ち尽くすしかなかった。




