対峙(2)
ルナの言葉を聞いて、ガスパールの頭に血が上った。
「神殿には戻らないと言うのか!?」
悲鳴に近い響きをもったガスパールの声だった。
「ええ、戻るつもりはありません。」
ルナがきっぱりと言った。
「是非もなし!」
ガスパールが鋭く言うのと同時に、騎士2人がルナを拘束しようと両側から肩や腕を掴もうとした。
しかし、それらの手がルナに届く前に、目にも止まらぬ速さでユーゴが騎士たちを体術で弾き飛ばした。そして、ユーゴはすらりと剣を抜き、ガスパールに向けて構えをとった。
ユーゴが向けてくる気迫の中に、〝聖なる力〟を帯びる気を感じ、ガスパールは我知らず一歩後ずさりをした。
ガスパールの顔からも血色が引いていたが、
彼は「兵士たちよ。薬師ダフネを捉えよ!」と声を張り上げた。
村長と共に徒歩で馬についてきていた村の兵士たち4人が、ダフネに群がり、彼女の肩や腕を掴んだ。一人は縄を持ち出してきた。
「ちょっ、やめて!やめなさい。痛い!!」
と、ダフネが、兵士たちに抵抗しながら叫んだ。
「ダフネ!」
ルナがたまらず、ダフネのもとに駆け寄った。
ユーゴはすかさず、ルナと共に移動し、ダフネの傍にいる兵士たちの腕を取り、捻り上げ、弾き飛ばして排除した。
「ダフネ、大丈夫?」
「…ええ。」
ルナが、ダフネが怪我をしていないか確認していると、
村長がガスパールの前に進み出て、おずおずと口を開いた。
「神官様、すべてこの薬師が単独で行ったことでございます。この薬師は疫病を蔓延させた責があり、この村から追放するところでございました。この私は、神官様に全面的に協力させていただきます。」
村長は、ガスパールやルナたちとのやり取りの中で、「聖女」という言葉は、もれ聞こえていたが、ルナが下働きの恰好をしていたために、ルナ自身が聖女であることはピンときてはいなかった。
ただ、ダフネがこの村に逃亡者を匿っていたらしいということに、自分にも火の粉が降りかかるのではないかと焦っていた。
ガスパールはニヤリと笑った。
騎士としても突出した身体能力をもつユーゴ相手では、実力行使は難しそうだが、その手があったか…とガスパールは気がついたのだった。
「ルナ、君が神殿に戻らない限り、ダフネは今後薬師としての仕事はできなくするぞ。
国中に神殿より〝薬師を騙る偽物〟としてお触れを出し続けるぞ…。」
ガスパールが暗い瞳で言い放った。
「ガスパール!なんていうことを…!」
ルナは真っ青になった。
そして、息を一つ吐いて、唇を引き結んだ後言った。
「わかりました…。ガスパール、貴方と共に戻りましょう。
ただし、ひと時の猶予をください。村人のための治療薬を完成させます。
そして、ダフネに一切手出しをしてはなりません…。」
「治療薬…?」
ガスパールは嘲る様な表情をして首をかしげ、その後「構わない、捕らえよ。」とばかりに、よろめきながらも立ち上がっていた騎士2人に、目で合図をした。
騎士たちは再びルナの腕や肩を掴もうとした。
しかし、今度はユーゴが防御する前に、ルナの鋭い声が飛んだ。
「控えなさい! 聖騎士が、聖なる〝癒しの業〟を邪魔するのですか!?」
ガスパール!あなたも神職として恥を知りなさい!」
ルナの気迫が籠った声が、辺りに響き、シーンと静まった。
そのとき、ちょうど雲の切れ間から日が差し込み、ルナの頭頂部の元々の銀髪の色が戻ってきている部分を照らした。そして、ルナの紺碧の空色の瞳がきらめいたように人々には見えた。
「癒しの業?」「聖女さま?」
「ルーちゃんは聖女様だったのか??」
と、村人が騒ぎ始めた。




