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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
33/92

対峙(1)

ユーゴはルナを守るように一歩前に出た。

馬は柵の前で止められたが、その馬に乗っていた2人はひらりと馬から飛び降りると、あっという間に柵を乗り越え、ユーゴの前に迫ってきた。


彼らは、地味な騎士服を身につけていたが、ユーゴには見知った顔の聖騎士の同僚2人だった。

「ユーゴ先輩、聖女様をお引渡し願います。」

「断る…。」

ユーゴと、対峙する2人は剣を構えてはいなかったが、漂わせる緊迫感は並みの騎士とは全く違っていた。


「ここはまだ疫病患者が隔離されているエリアとされている場所だぞ、自らの身は守らなくてもいいのか? 騎士として不用意では?」

ユーゴ自身も、口元に三角巾はつけていないのに、不敵に言い放った。


「お前とダフネが口元を覆っていないということは、現在は感染の危険はない、そうだろう?」

地方神殿の神官が着るグレーの神官服を身につけたガスパールが、騎士のたちの後ろから歩いて近づいてきた。

少し離れた、煎じ薬の大釜の前にいたダフネは息をつめて、ユーゴ達を凝視していたが、不意に自分の名前が出たので驚いた。


「ガスパール…?」

地方神官の姿をしている青年の横顔を見て、ダフネがつぶやいた。

ダフネが、地方神官の服装をしている青年の顔を改めてよく見てみると、確かに幼馴染の面影があった。

そして、〝中央神殿の神官服は目立つから着ていないのね。〟と、ちらっと思った。


 ユーゴは、中央神殿からの追手には、いずれはガスパールが関わってくるだろうと予測していた。だから、一団の中にガスパールの姿があったことは、驚きはしなかった。


ユーゴがガスパールに言った。

「そうか、シドの町の情報から速やかにこの村にたどり着いたのは…。ガスパール、お前はダフネがこの村にいることを知っていたんだな…。」


「志半ばで神殿を離れた幼馴染の行方を気にするのは当然だろう?」

ガスパールがさらっと返した。


ダフネは、引っ越し好きの師匠と共に移動を繰り返していたので、自分から便りを出すことはなかった。ガスパールは、おそらく神官としての立場を利用して、ダフネの居場所や様子についての情報を入手していたと思われた。


「ダフネは優秀な薬師になったと聞いていたのに、よもや神殿を裏切って、脱走者の罪人を匿っていたなんて、思いもよらなかったぞ!」

ガスパールは、ダフネに聞こえるように声を張り上げて言った。


「裏切り…? 罪人…?」

ダフネとしても、覚悟を持ってルナとユーゴを村に招き手伝ってもらっていたのだが、改めて突きつけられる強い言葉に、ダフネは息を飲んだ。


馬に乗ってきた、神官や騎士たち以外の、走って随行してきた人員の中には、村長の他に、兵士たちや村の役人などがいて、いかにも寄せ集めの集団という雰囲気だった。


それでも、騒然とした物音に、テントから出てきた村人たちは、複数の騎士や神官の姿を見るのは初めてだったので、驚き、息を飲んで様子をうかがっていた。


 

「聖女様、お顔をお見せください。」

ガスパールは、神官らしく丁寧な言葉で、しかし強い口調でユーゴの後ろに向かって呼びかけた。


ルナは、口元の三角巾、頭につけていた三角巾とかつらを取り、ユーゴの横に進み出た。


「ガスパール、私は、自分の意志でここにいます。

ダフネは関係ありません。」

ルナがはっきりとした口調で言った。


ガスパールは、ルナの顔を見て、一瞬ほっとした顔をしたが、染粉の茶色の色が抜けきっていないルナの髪と、いかにも下働きのお仕着せのような服装を見て、眉をひそめた。


「ルナ? ユーゴにそそのかされたんだよな? そう言ってくれ。そうすれば罪に問われないように、私が副神官長にとりなすから…!」

ガスパールが、ルナに向かって歩を進め、声を落として言った。


「いいえ、ガスパール。私が、ユーゴを脅してここまで連れてきました。

重ねて言います。私は自分の意志でここにいます。」

ルナは凛とした面持ちで返答した。


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