できること
「ルナ、明日煎じ薬が出来上がったら、〝癒しの力〟を込めてもらえるかしら?」
ダフネがルナに聞いた。
「もちろんよ。」ルナは微笑みながら返事をした。
明日の朝、大人数の煎じ薬を一気に作り上げるので、その後ダフネは眠るために、別の部屋へ引き上げていった。
ルナは、ダフネには内緒で、煎じる前の調合された薬草にも〝癒しの力〟を込めようと作業部屋に残った。
ルナは、ユーゴの何か決意をはらんだような目の色に気づき、気になっていた。そして、もしかしたら、シドの町の食堂のときのように、急にこの場所に別れを告げなければならないことがあるかもしれない…と思った。
だから、その時その時で、できることをやっておこうと思ったのだった。
ユーゴが見守っている中、ルナは薬草の山に両手をかざし、
〝神様、祝福を…。〟と祈った。薬草の山は一瞬光を放った。
それから、「ユーゴ、この鍋は明日使うかしら?」と明日薬を煎じるのに使用する道具を確認し、それらの道具や薪にも「いいお薬ができるように、がんばってね。ありがとう。」と声をかけながら手をかざした。
「ルナ、今日はそのあたりで止めておいた方がいい…。」
ユーゴがルナの身体を心配して言った。
「大丈夫よ、ユーゴ。神殿にいた頃よりはるかに体力がついてきたんだから…。」
ルナは右腕を振り上げ握りこぶしを握ってみせた。
「ああ、そうだな…。」
ユーゴはそう言って、ルナに近づき、まだ茶色の染粉の色が半分くらい残っているルナの銀色の髪に触れた。
「もう休むわね。お休みなさい、ユーゴ。」
「お休み、ルナ。」
ルナは、少し赤くなった頬を隠すように、足早にダフネが休んでいる別室へ向かった。
翌朝ユーゴは石を積み、簡単な窯を作り、大鍋で煎じ薬を作る準備をした。
ダフネも40数人の煎じ薬を作るのは初めてであったため、ユーゴと相談をしながら窯に火を入れ始めた。
ルナはダフネとユーゴの様子を見た後、テントで療養している人のために食事を配る作業を始めた。療養している人たちの中にも次第に動ける人が増えてきて、手伝いに回ってくれる人が出てきた。
「お食事を持ってきました。おかげんはいかがですか?」
ルナは一人一人に丁寧に声をかけながら、手伝ってくれる人たちと一緒に食事を配っていった。
「ルーちゃん、ありがとう。」
「ルーちゃんの声を聞くと、元気が出てくる気がするなぁ。」
村の人たちも、ルナに笑顔で声をかけてきた。
昨夜、頭や口元を覆う三角巾についてどうするか、ダフネやユーゴと相談したが、2人は変装のためでもあるので、そのままつけているように勧めた。ルナはその言葉に従ったのだが、本音を言えば、変装はそろそろ嫌になってきたところだった。
「ルーお姉ちゃん、ここから出たら、いっしょに遊んでくれる?」
あるテントでは、5歳くらいの少女がルナに聞いてきた。
「ええ、もちろんよ。」
ルナは少女に優しく答えた。
「ありがとうございます。しばらくは薬師様の元にいらっしゃるの? できればずっといてくださいね…。」
少女の母親も、ルナに言った。
「……。」
できれば、ルナもそうしたかったが、その言葉にうなずくことはできなかった。
食事を配り終わり、後片づけをしていると、ユーゴがルナの方にやってきた。
「ユーゴ、煎じ薬はどう?」
「順調だ。もう少しでできるだろう。」
ルナは「よかった…。」と小さくつぶやいた。
そのときだった。村の中心部の方角から、馬6頭と10名くらいの兵士の一団が土煙を上げながら、一気にルナたちのいる隔離エリアへ向かってきた。




