処方薬
ダフネとルナが村人に処方する薬を検討し調合している夜、炭焼き小屋に密かな訪問者があった。シドの町の大工のトムだった。
小屋の中にいたユーゴは、合図にしていた犬の遠吠えをまねた声が、微かに聞こえてきたことに気づき、そっと小屋の外に出た。
すると、ユーゴの前に音もなく、トムの姿が現れた。
「本日朝、シドの町に、中央神殿からの追手と思われる一団が現れました。」
トムがユーゴに端的に言った。
「来たか…。それで、どんな動きを?」
「料理を食べると元気になる食堂〟について聞きまわっていました。」
「まあ、ダフネが評判を聞きつけてきたくらいだからな…。有力な情報としてとらえられてしまうのは当然だな。」
「追手の一団には騎士も混じっているようで、動きがスムーズです。この村までたどり着くまで多くの時間はかからないでしょう。」
そのトムの言葉に、ユーゴはわずかな時間沈黙した。そして、
「決心しなければならないときが来た、ということか?」
と言い、すでに書いていた手紙を一通トムに渡した。
「これを……へ、届けてくれ。
それと、シドの町からは撤収せよ。」
「心得ました。」
トムは、そう言い、その姿を再び闇の中に消した。
ユーゴは何かの思いを固めるかのように、しばらく夜の闇の中に佇んでいた。
ダフネとルナは夜遅くにようやく、薬の調合を終わらせることができた。
「ルナ、これでいいわよね?」
ダフネは、やや自信がなさそうにルナに聞いた。
「ええ。いいものができたと思うわ。解毒作用のある薬草2種を主にして、更に肝臓の働きを回復させるウルルの実を加えることができたのがとてもいいと思う。」
ルナの言葉に、ダフネはほっとした顔をした。そして、
「高位の聖女様にそのように言っていただくと、うれしゅうございます。」
と言って、いたずらっぽい顔をして笑った。
「もう!ダフネ、やめて。」
ルナはそう言いながら、ダフネのいつもの調子が戻ってきたようで、胸をなでおろした。
「明日朝一番に、煎じて皆に飲んでもらいましょう。ユーゴ、手伝いをよろしくね。」
ダフネがそう言うと、
「そこは、『騎士様、恐縮ではございますが、よろしくお願いいたします…』、じゃないのか?」
と、ユーゴがニヤリと笑いながら、ダフネに返した。
ダフネは、ぷっと笑いをもらし、続けた。
「あら、騎士様、騎士様がお小さいときに、私がおかずをわけてさし上げた恩をお忘れになったのかしら?」
「薬師様、あのおかずはご自身が嫌いなものを私の皿に移してきただけでは?」
と、ユーゴが返すと、ダフネがこらえきれずに声をあげて笑い出した。
「なんだか、昔に戻ったみたいね…?」
ダフネが笑いでにじんできた目じりの涙を拭きながら言った。
「そうね。」とルナが嬉しそうな顔で同意すると、
ダフネは「ガスパールは元気にしているかしら?」とつぶやいた…。




