隔離エリア(4)
「私が〝癒しの業〟を使ったときに感じたのは、腸などの消化器に主にダメージを受けているというよりは、右上腹部を中心に、全身に負荷がかかっているという感じだったわ…。」
ルナは、自分が受けた感覚を話した。
「右上腹部というと、肝臓かしらね…。」
ダフネがつぶやいた。
「ユーゴ、明日あなたの目で現地を確認してきてくれない? 何度も遠征に出たことがある貴方なら、何か私が見落としていることに気づくかもしれないわ…。
私は、商人の二人に、この村でどんな行動をとったのか、もう一度詳しく聞いてみるわね。」
ダフネが、明確にユーゴに指示を出した。
「あの…、ダフネ…、私は何をしたら?」
ルナはダフネに聞いた。
「あら、聖女様、段取りが悪くて申し訳ありません。明日はできれば、ご自身の判断で患者を診て、できれば治療をしていただけますか?」
ダフネが〝聖女様〟とからかって言ったので、ルナは「もう!」とダフネを軽く叩いたが、ふと思いついた。
「そうか、食堂と同じことをすればいいのね。お食事を配りながら、その人に応じて〝癒しの力〟を食事や飲み物に込めることはできるわ!」
ルナは自分の思いつきに笑顔になった。
「それはいいアイデアだわ!」
「いいな…。」
ダフネとユーゴは、ルナに微笑んだ。
ルナは神殿から出て、一歩一歩成長していると、ユーゴは感じていた。神殿では与えられた仕事をこなすだけだったが、今は、困難なことがあっても自ら考え行動していくルナの姿が、ユーゴには眩しく感じられた。
翌日、ルナは再び婦人会から差し入れてくれるようになった食事を、各テントに配りながら、患者たちに声をかけ、さりげなく状態を観察していった。そして、その人に必要だと思われる〝癒しの力〟を食事に込めた。これは、食堂でやっていたことよりも、より繊細な観察と力のコントロールを必要とした。しかし、〝その人のことを思う〟ということは食堂のときと一緒だ、と思うと、それほど疲労は覚えなかった。
〝食堂で鍛えてもらったお陰ね。〟ルナは食堂の女将さん、主人、サラを思い浮かべ、「ありがとう…。」と小さくつぶやいた…。
その夜また三人は、炭焼き小屋に集まり、それぞれの情報を持ち寄った。
まずはルナから患者さんたちの様子を話した。
「脱水症になっていた人たちは、脱水状態からほぼ回復していました。下痢や嘔吐の人もいなくなりました。ただまだ身体がだるそうな感じにしている人は多いですね。」
「ルナ、なぜ敬語なんだ?」
ユーゴがルナに聞いた。
「報告するには、なんだかこの方が自然な気がして…。だって私が一番この中では実地の経験が少ないでしょう? 言うならば、私が一番のペーペー?」
ルナがユーゴに答えた。
「そんなことない。ルナはちゃんと経験を積み重ねて成長していっていると思う…。」
ユーゴはルナの頭にポンと手を置いた。
「もう、ユーゴ、子ども扱いしないで!」
ルナが頬を染めながら、ユーゴに怒った。
「はいはい、いちゃつくのはその辺りにしていただいて…。ルナ、他に何か気になったところはないかしら?」
ダフネがクールに話を元に戻した。
「はい。まだ母乳を飲んでいる赤ちゃんの症状が軽いことが気になりました。患者さんの中に赤ちゃんは2人いるのですが、1人は軽い下痢だけ、もう1人は嘔吐が数回と軽く発疹が出ただけとのことでした。大人の症状と比べて軽いので、この点は消化器症状を呈する疫病の病像とは合致しないと考えます。」
ルナがよどみなく話した。
次にダフネが話し始めた。ルナにつられたのか敬語だった。
「私は、村の外から来た2人の商人に話を聞いてきました。2人とも別々の地方からやってきて、この村に入るまでは異常がなかったそうです。もちろんそれぞれの地元の地方でも疫病らしい気配はなかったと聞いています。2人は別々の農家の家にリンゴの買い付けのために訪問しました。それらの2軒は、患者が発生した村の西側のエリアの家です。そこでは、主人と話をしただけで短時間の滞在だったそうです。酒を酌み交わしながらいっしょに食事をするといった濃い接触はありませんでした。
ただ、2人に共通していたのは、それぞれの家でお茶を振舞ってもらったことでした。」
「お茶…。」「お茶か…。」
ルナとユーゴがつぶやいた。




