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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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隔離エリア(3)

そして、ユーゴはあっという間に柵の外の村長に近づき、長剣をすらりと抜き放ち、村長に切っ先を向けた。

それは、村長の周りにいた護衛の兵士が一切反応できないくらいの速い動きだった。


「その口を閉じて、疾く去るがいい…。」

ユーゴは鋭い目で村長を一瞥しながら言った。そして、すぐに兵士たちも睥睨し、兵士たちの動きを制した。ユーゴも口元に三角巾をかけているため、顔は、その鋭く光る緑色の目しか見えず、ユーゴの漂わせる迫力が増していた。


「なっ…、何者だ!? お前は!?」

村長がうろたえながら言った。


「俺か?俺はただの用心棒さ。けれど、割といろいろなところと繋がりがあってな…。貴様の勝手な所業が領主に伝わらないといいがな?」

ユーゴは村長に剣を向けたまま言った。


疫病が発生したと思われる事態は、早急に領主である東の辺境伯の元へ報告されるべき事案だった。にもかかわらず、領主側からの調査官や他の薬師などの応援要員の姿が全く見られないので、ダフネが言っていたように、村長は領主に報告をしていない…と、ユーゴは考えていた。


村長が領主への報告をしていない理由は、村への風評被害を恐れているためだけなのか、現時点ではわからなかった。しかし、村長には、領主からの調査官が村に入ってきて欲しくない、何か後ろ暗い理由があるのかもしれない…と、ユーゴの勘は告げていた。


「……、ダフネ!あと一週間したら出て行ってもらうからな!?」

村長はそう言い放ち、護衛の兵士たちを引き連れ、あたふたと去っていった。


「あと一週間で事態が収束しなければ…って、さっき言っていたのに…。」

ルナは呆れた顔でつぶやいた。

村長は事態が収まるとは全く考えていないようであり、村民のために何かしようとも考えていないようだった。


呆れ顔のルナを見て、ダフネが、ふふっと笑みをもらした。

「まさに、エセ村長よね…。 ありがとうルナ、言い返してくれて。うれしかったわ。」


「あら、当たり前のことですもの。ダフネは立派な薬師だし、天にいるお師匠様も私たちもダフネの味方よ。」

ルナはダフネに力強く言った。


「ありがとう、ルナ…。」

ダフネは自分の胸が温かくなり、新たな力が体に湧いてくるのを感じた。



その夜、ルナとユーゴとダフネは、出現している症状の傾向や発生状況を整理してみることにした。


「今まで症状が出現したのは、45人。よく出ている症状として、腹痛、嘔吐、下痢、喉の違和感や痛み…。」ダフネが今までの記録を元に話を始めた。

「主だった症状に消化器症状が多いから、これだけを見ると、急性胃腸炎を引き起こす疫病のように思われるのだけれど…。喉の違和感や痛みというのは、主に消化管で増殖する病原体が原因とするならば珍しいと思う…。

それから、何人かに皮膚や粘膜の病変があった。発疹や口内炎や指先の皮膚の表皮剥離などね。これらも、疫病にしては皮膚病変が目立つ気がする。」


「ダフネ、患者が発生している家を地図の上に書きだすことはできるか?」

ユーゴはそう言いながら紙とペンを取り出した。


ダフネは、この時代では珍しい紙を見て、目を見張った。

「きれいな紙ね。使うのがもったいないくらい…!」


「ダフネ、道具は使ってこそ意味があるぞ、さあ。」

ユーゴがダフネを促した。


「そうね。」とダフネは言い、ブイエ村の中心部の、家の配置をまず書きだした。

ルナはそれぞれの家の並びまでよく覚えているものだ、と感心した。

ダフネは次に、患者が発生した家に×印をつけていった。


×印は、村の西側に集中していた。

「この、離れたところにあるバツ印2つは?」ユーゴがダフネに聞いた。

「それは、村で唯一の宿屋よ。林檎の買い付けの商談に来た商人2人が発症した。症状は軽いけれどね。

この商人2人は別々に村の西側の農家を訪れたのだけど、短時間の滞在だったのよね。それなのに感染したのかしら? でも短時間の軽い接触でも感染してしまうような疫病だとするならば、もっと感染が広範囲に広がってもいいと思うのよね…。」


「そうね。ダフネの言う通りだと思う…。」ルナはダフネに同意した。


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