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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
23/92

隔離エリア(2)

ルナは、男性の腹部の中心に両方の手のひらを当てた。

そして、目を閉じ、祈りに意識を集中させた。「神様、この方に祝福を…。」

眩い光がルナの手のひらから男性の身体に流れ込み、男性の身体全体が一瞬光った。


光が収まると、先ほどの男性の落ちくぼんだ目は元に戻り、顔色の悪さも改善していた。

ダフネが「ヨハンさん、目を開けてください。」と声をかけると、男性はゆっくりと目を開けた。

「よかった。頑張ってお水を飲んでください。あとでパン粥を持ってきますから、そちらも食べてくださいね。」

ダフネの言葉に男性は頷いた。


ルナとダフネがテントの外に出ると、ユーゴがすぐに女性を再び抱えてテントの中に入った。そして、ダフネが何も言わなくても、男性と女性に、「最初は、少量ずつの摂取でスタートし、段々量を増やしていきましょう。」などと、細かい水分摂取の注意事項を話しているようだった。


ユーゴがテントの中で話している声を聞き、ダフネは「ユーゴも流石ね…。」とつぶやいた。


「ダフネ、私は重症の人を続けて治療したことがないの…。だから…。」

ルナが言いづらそうにダフネに言うと、

「わかっているわ、ルナ。今みたいに、ますは状態の底上げだけしてもらえば十分ありがたいわ。ルナが倒れてしまったら大変だから無理はしないで…。」

と、ダフネが言った。


神殿では、ルナは〝癒しの力〟を発揮することをセーブすることは考えなくてもよかった。ルナの目の前に来るのは、そのほとんどが慢性的な症状をもつ人であり、その人数もルナの負担にならない程度に調整されていた。

神殿の中では、自分が管理されている感覚がとてもあり、ルナはそれが嫌だった。しかし、ある意味ではルナを守ってくれていたのだと、ルナは改めて思い当たった。


〝ここでは、自分の力の量をしっかり推し量りながらやっていかなきゃね…。〟

ルナは、馬車で少年を助けた時のように、倒れたくはなかった。

〝大丈夫。今は薬師のダフネがいる。ユーゴももちろん傍にいてくれるわ…。〟

ルナはダフネを見つめると、ダフネは〝わかっている…〟と言うように、ルナに微笑み返してくれた。


ルナは引き続いて、残りの重症者2人にも〝癒しの業〟を施し、水分や食事を取れるところまで回復をさせた。ユーゴはルナのサポート役に徹してくれていた。


そして、ダフネとユーゴがパン粥を皆に配り終え、一段落した頃、招かれざる客がやってきた。それは、兵士を3人引き連れた、背が低い小太りの中年の男性だった。その男性は、三角巾を口元にかけ、木の柵から少し離れたところから声をかけてきた。

「ダフネさん、部外者を村に入れてもらっては困るんだがね!」


「これはこれは、村長さん。私が少し留守にしている間に、病人をこんなところに追いやるだなんて、よくもこんな非道なことができたものね。」

ダフネは怒りを抑え込み言った。


しかし、村長は火が付いたように怒鳴りだした。

「この、エセ薬師がっ!何とでも言え。儂は村長として当然のことをしているだけだ。疫病は封じ込めるのが一番だからな。

それより、お前は患者の心配より、自分の身を心配した方がいいかもな?

あと一週間で事態が収束しなければ、お前にはこの村を出て行ってもらうぞ!

お前の師匠は、あの世で弟子の不出来を嘆いているだろうなぁ?!」


ダフネは、唇を噛みしめ、握りこぶしを握り、何も言い返さなかった。

村長の罵詈雑言は許しがたいものではあるが、薬師としての教えを施してくれた師匠がもし今の自分の姿は見たならば、何というかという不安をダフネは持っていたからだった。


「ちょっと、そこのエセ村長!!ダフネになんてこと言うのよ!

ダフネは立派な薬師よ!天にいるお師匠さんだってダフネのことは誇りに思うに決まっているわ!」

ダフネの隣にいたルナが、急に声をあげた。


それは、聖女としてはあるまじき大声だった。しかし、ルナは少女時代に、間違ったことを見たり聞いたりしたときは、こんな風に声をあげて憤っていたことを、ダフネは思い出した。


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