変わらぬ仕草
「そうだったの…。随分と思い切ったことをしたのね…。」
ダフネはルナの話を聞き、驚いた様子を見せた。
「さて、次は君の番だ、ダフネ。どうしてこんなところに来たんだ?」
ユーゴはダフネに聞いた。
「そうね。男の子の変装をしているルナを見て、きっと事情があるんだと思って、あの場では名乗らなかったから、驚かせてしまったわね…。
実は、私の方も大っぴらには動けない事情があるの…。」
ダフネの話は結果として、ルナの話より長いものになった。
ダフネは聖なる力が成長と共に弱くなってしまったため、聖女見習いとして2年経過した後、神殿から去ることとなった。ダフネの家族は聖女になれなかった彼女を受け入れてくれなかった。そこで、神殿側は、ある薬師と交渉しダフネの身元引受人になってもらったようで、ダフネはその薬師のもとで薬師としての研鑽を積んでいたとのことだった。
「その薬師のお師匠さんは、とても人格的にも優れていた方だったから、私はとても幸運だった。研究と引っ越しが大好きな師匠だったから、あちらこちらの土地を2、3年おきくらいに移動していたの。でも、その師匠が昨年病で亡くなられてしまって、私はそのまま村の薬師として居ついていたの…。」
「村とはどこの村だ?」
ユーゴがダフネに聞いた。
「ブイエの村よ。」
ブイエの村は、今いるシドの町から馬で半日ほどの距離にある村だった。
古くから細々と林檎の栽培が行われている田舎だったが、大きな湖があり、貴族の保養地として人気があり、別荘が立ち並ぶ土地でもあった。
「ブイエの村と言えば、風土病かはわからないが、病にかかる人が多いことで知られている村だな…?」
ユーゴがつぶやくように言った。
「まあ、ユーゴ、よく知っているのね。」
「ああ、俺は遠征に出る騎士だからな…。」
ユーゴが表情を変えず答えた。
「そうなの、私の師匠もそこを研究したかったみたいで、3年前から村に住んでいたの。でも病の原因はわからなくて…。1年前に師匠が亡くなった後、私が村の薬師として働いていたのだけれど、1カ月前から村に急に疫病みたいな症状を示す人が増えてきて。」
「疫病みたいな症状って?」
ルナが聞いた。
「腹痛や嘔吐や下痢よ。喉の違和感を訴える人も多い。
けれど、患者さんを隔離しても、接触がない人から発症することもあって…。
村長さんに、領主様に援助を求めるようにお願いしたのだけれど、村の産業の風評被害に繋がるからって言うことを聞いてくれないの。そればかりか、私も他の薬師に助けを求めてはいけないと言われてしまって…。
そんな中、この食堂の噂を聞いたの。『料理を食べると、元気になる食堂がシドの町にある』って。
もしかすると、何か滋養強壮にいい薬草を料理に使っているのかと思ったの。もしそうなら村のために分けてもらうか、教えてもらおうと思って…。
それで、村長につけられた監視の人の目をかいくぐって来てみたら、ルナ、あなたがいたって訳……。」
ダフネは少しいたずらっぽくルナをうかがい見るような顔をした。
「そうだったのね。でもよく私だってわかったわね。変装はまあまあ良くできていたと思うのに。」
「そうね、変装はね。でもね、人間の体の使い方や仕草はそうそう変わらないものよ。ルナはいそぐと小股になってチョコチョコ歩く癖があるのよ。それに、ルナが運ぶ料理には〝聖なる力〟が感じられたわ。それで確信したの。」
ダフネは〝聖なる力〟を感じとる能力はまだ持っているようだった。そして、体の使い方や仕草はそう変わるものではない、ということはルナにも納得できるものだった。
なぜならば、ダフネがポトフを食べるときのスプーンの使い方もそうだったが、食べ終わった後、花の模様が刻まれているスプーンの柄を見て、ダフネが「かわいい…」と言いながら、ふふっと微笑む様子が10歳くらいの頃と変わっていなかったからだった。
ルナがダフネのことを覚えていたように、ダフネもルナのことを覚えていてくれたことがルナにはうれしかった。




