面影
食堂の夜の営業が始まる前に、マントの人はやってきた。
マントの人が食堂のドアを開け中に入った途端、ユーゴは待機し観察を続けていた外からスルリと中に入り、その人物の背後を取り、首元に短剣を突き付けた。
そして、「顔を見せてもらおうか?」と鋭い声で言った。
ルナは食堂の中で待っていたが、ユーゴの闘う人間としての動きと剣を扱うところを初めて目にしたので驚き、思わず「ユーゴ!」と声に出してしまった。
すると、マントの人は、無抵抗を示すように、両手を上げ、落ち着いた声で言った。
「やっぱり一緒だったのね。ユーゴ。」
そして、ゆっくりとフードを脱いだ。
「ダフネ…?」
フードから現れたのは、後ろで一括りにしたクリーム色の髪と、ルナにとって懐かしい榛色の瞳であり、やわらかく微笑む表情には同じ聖養母の元で育ったダフネの面影があった。
ユーゴもそのことにすぐ気づいたのか、短剣を収めた。
ルナが最後にダフネに会ったのはダフネが神殿を去った14歳のときであり、そこから7年という年月が経過していた。ダフネはすっかり大人の女性の顔になっていた。
「そうよ、ルナ。」
ダフネは、ルナの瞳を見ながらはっきりと言った。
「ダフネ、ダフネ…。」
ルナは、ぽろぽろと涙をこぼしながら、ダフネに抱きついた。
ダフネはルナを抱きしめ返した。
そしてしばらくして、ルナの体を優しく離して、
左手を胸に当て、ルナとユーゴに向かい膝を折り礼をした。
「聖女様、聖騎士様、お久しゅうございます…。」
ダフネの礼に、ルナは慌てた。
「ダフネ、やめて…。いっしょに育った仲じゃないの…。」
ルナにとっては、ダフネは姉のような存在であったので、他人行儀なやり取りはとても違和感があった。
「いいえ、私は修行から脱落した只の平民で、貴女方は神様から認められ、貴い役目をいただいた存在なのですから…。」
そう言ったダフネだったが、ルナが悲しそうな顔をしたのを見て
「でも、ルナが悲しそうな顔をするから、畏まるのはこれでやめるわね。」
と言って、ニコっと笑った。
「それで、2人はどうしてそんな恰好をして、こんなところにいたのかしら…?」
ダフネが改めて聞いてきた。
「ダフネ、すまないが、込み入った話になるから、場所を移してもいいか?
ここへは一人で来たんだよな?」
「ええ、一人よ。」
ユーゴは、ルナとダフネを先にルナの部屋に向かわせ、ユーゴは作り置きしてあったポトフを3人分厨房から取ってきた。
「ユーゴ、ご主人におことわりしてきたの?」
ルナがユーゴに聞いた。
「ああ、実は今日の夜の営業は、俺たちの貸し切りにして急遽お休みにしてもらうことにしたんだ。
それでも、食堂では人が来るかもしれないからな…。」
「そうね…。ダフネ、狭くてごめんね。」
ルナは、いっしょにベッドの端に座ってもらったダフネに言った。
ユーゴは椅子を持ってきて、ドアの近くに座った。
「大丈夫よ。聖養母様のお部屋で過ごしたことを思い出すわね?」
ダフネはそう言って微笑んだ。
「いただきます…。」
ダフネは、ポトフを口にして、「美味しい…、なんだか優しい味ね…。」
と口元を綻ばせた。
ダフネの大きな口は開けず上品にスプーンを使う様子が、昔のままで、ルナは胸の奥が温かくなった。
「それで…、どうしてこんなところにいるの…?」
ダフネの問いかけを受けて、ルナはユーゴの顔を見た。
ユーゴはルナの顔を見て小さく頷いた。
ルナは、ユーゴと二人で神殿から逃げ出してきたこと、当面の潜伏先としてこの町を選び生活していたことを話した…。




