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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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訪問者

 ルナは、自分の声がけや、そっと料理に込めている〝聖なる力〟により、食堂の評判が上がっていることは知っていた。そしてその評判により、自分やユーゴが人目につきやすくなってきていることも理解していて、そのためにユーゴが町を離れようとしていることは仕方がないと思っていた。


それでも、ルナはこの食堂と町を離れる最後の日まで、今していることを変える気にはならなかった。自分ができることを精一杯やることが、ルナにとっては生きることそのものであるような、そんな気がしていたからだった。


 その日もルナは朗らかに食堂の客に声をかけていた。

「おじさん、一昨日は右の足首が痛いって言っていたけど、どう?大丈夫?」


「ああ、昨日からだいぶ痛みが引いてきたんだ…。

ここで料理を食べると、何故か調子よくなるんだよね。ここの料理は魔法でもかかっているのかな?ははははは。」

その男性は、冗談めかして笑った。


「あははは…。」ルナもつられた様にぎこちなく笑った。



 そして、シドの町でのルナの平和な時間の幕切れは、突然訪れた。


その客は初めて食堂に来た客だった。マントのフードを目深にかぶったまま黙って席についた。そして、サラが注文を取りに行くと、ぼそっと「ポトフを。」と答えた。

その客の料理が出来上がったとき、サラは他の客の清算をしていたので、ルナがそのフードをかぶったままの客のテーブルへ、ポトフを届けた。

ルナがポトフの皿を置き、「ごゆっくり。」と言った途端、ルナの腕はその客に掴まれた。


その客はルナに向かって囁いた。

「聖女様。夕方また来る。必ずいて。」

ルナは驚き、その客を見返したが、客はやはりフードを目深に被り、顔ははっきりと見えなかった。

固まってしまったルナをよそに、その客は料理の代金をテーブルに置き、あっという間に食堂を出て行ってしまった。


料理も食べずに、急に席を立った客と、その場に立ち尽くすルナに気がつき、サラが急いで近づいてきた。

「ルナリス、何かあった?」

「いえ…。」

サラは、ルナが真っ青な顔をしていることに気がついた。

「顔色がすごく悪いわ。大丈夫?」


「あの…、すみませんが、先に上がらせてもらってもいいですか?」

「もちろんよ。早く休んで!」


ルナはサラの言葉に返事をすることもできず、呆然自失となりながらも、自分の部屋に戻った。そして、ベッドの端に座り、ドアノブにかけて乾かしている夏祭りの花の腕輪を眺めていると、少し気持ちが落ち着いてきた。


〝あの人、『聖女様』って、言ったわよね? 女の人の声だった?? 神殿からの追手なの?〟ルナは、そこで、ユーゴに言われていたことを思い出した。

〝そうだ、昼間に何かあったら、大工のトムさんの所に行けって言われていたんだ…。〟


 ルナは裏口からそっと出て、教えられていた2ブロック先の店を目指した。その店は通りに面した場所に売り物の椅子やサイドテーブルなどが置かれていたので、すぐにわかった。ルナが店先にいた少年に声をかけた。


「あの…、ユーゴはいますか? 僕は…。」

と、ルナが言いかけたところで、少年は明るい顔で言った。

「ルナリスさんですね! ユーゴさんは今日は別のところで働いていますが、僕がすぐに帰るように言います。先に戻っていてください。」

少年は、賢そうな目でさりげなくルナの様子とルナの背後の様子も探っているようだった。


「あ、僕の名前はロイです。大工のトムの息子です。では、また!」

そう言ってロイという少年はあっという間に走り去ってしまった。


ルナは、ロイに言われた通り、自分の部屋に戻った。

そして、旅支度と荷物の整理を始めた…。


 しばらくして、ユーゴがルナの部屋のドアをノックした。

ユーゴは部屋に入ると、ルナが部屋の荷物の整理をしている様子を見て言った。

「追手か?」


ルナは食堂でのことをユーゴに話した。

「ごめんなさい。追手かどうかは、私にはわからなかったの。しっかりマントを着こんでいたから服装もわからなかったし…。ただ、声はどこかで聞いたような気がする…。」


「聞いたことがあるというなら、やはり神殿関係者で追手かもしれないな。

ルナ、今すぐここを出よう。」


「待って。あのマントの人と話がしたいの。夕方会ってはだめかしら?」

ルナは、自分が危ない橋を渡ろうとしていることはわかっていた。けれどマントの人の声を頭の中で、反芻してみると、ルナの勘は危険を訴えてはこなかった。


「わかった。けれどそのマントの人間の他に追手と思われるものたちがこの食堂に近づいてくる気配があれば、すぐに脱出するからな。」


「ありがとう、ユーゴ。」


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