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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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夕闇の風景

「おじさん、ありがとう。いただくわ。」

ルナは代金を払い、出店の主人が勧めた対の腕輪2つを手に取った。

ルナは食堂の給仕の仕事をして得たお金を初めて使うのが、些細なものではあるが、ユーゴのためになり、心が浮き立った。

しかし手に取ったものの、ルナには花の腕輪の付け方はわからなかった。


「おや、お嬢さん、この町の祭りは初めてだったのかい?」

腕輪を見つめたまま、動きが止まったルナの様子を見て、主人が言った。

「腕輪に細いリボンがあるだろう?それを一回ほどいてから腕に合わせてまた結ぶんだよ。

ほら、兄ちゃん、お嬢さんに腕輪を結んであげな。恋人同士なら左の手首にだよ。」


「こ、恋人同士!?」

ルナが声をあげたが、ユーゴは動じず「ああ、左だな。」と言って、

ルナの左手を取り、左手首に腕輪をつけた。


そして、ユーゴはすぐに自分の左手を差し出した。

「ほら、つけてくれるか?」


「ひ、左手でいいの?」

ルナはドキドキしながら、ユーゴに聞いた。


「ああ。」ユーゴは微笑みながら言った。


ルナは胸のドキドキが指先まで伝わるような気がして、手つきがおぼつかなかったが、どうにかユーゴの左手首に腕輪を結びつけた。


「ありがとう。ルナの給料からの初プレゼントだな?」

と言って、ユーゴはうれしそうに笑った。


ユーゴの笑顔を見て、ルナの胸の音がまた一つ大きく跳ねた…。



「ルナ、連れて行きたいところがあるんだ。」

ユーゴはそう言って、ルナの右手をとった。

「はぐれるといけないからな。」

そう言うユーゴの緑の瞳を見て、やっぱりドキドキしてしまったルナは、

〝私の心臓は大丈夫かしら…?〟と思ってしまうのだった。


 人々の喧騒の中を潜り抜け、町はずれにある階段と坂をいくつか昇っていくと、見晴らしのよい場所に出た。足場が石畳になっていたり、ところどころ石壁が立っていたりしているので、どうやらはるか昔に砦か狼煙を上げる場所として使用されていたようなところだった。

はるか遠くの地平線には夕日の名残の赤色が広がっており、眼下には夕闇に沈みつつあるシドの町が広がっていた。


「きれい…。」ルナが地平線の赤色と紫色と藍色のグラデーションを眺めているうちに、町並みのあちらこちらで、かがり火の明かりが生まれてきた。祭りの期間ならではの光景だった。

ルナは目の前に広がる、自然と人の営みが生み出す美しい景色にそっとため息をついた。


「ルナ、もう少ししたら、この町を出ようと思う…。」

ユーゴはルナに静かに言った。

「うん……。」

ルナは、小さく返事をした。


 ユーゴにとっては、今働いている食堂の評判が高くなってしまったことが一番気になっていた。ユーゴは昼の間は、町の大工や荷運びの手伝いに入り込みながら、情報収集をしていた。特にシドの町にある地方神殿へ食料を運び入れている業者には、まず最初に臨時雇いで入り込んだ。


 地方神殿には、逃げ出した聖女と騎士の捜索依頼が具体的に発せられてはおらず、今のところは中央神殿から捜索に訪れるような人間はいないようだった。

ただ、神官たちには〝銀色の髪と紺色の瞳を持つ女性と男性の二人連れの情報があれば、速やかに報告するように〟との指示が出ているらしかった。


なぜユーゴがそれを知ったかといえば、神官の一人がユーゴに「こんな女性を見かけたことはないか?」とルナの人相が描かれた羊皮紙を見せて聞いてきたからだった。


「いえ、見たことはないですね。誰なのですか?そのきれいな人。」

ユーゴは知らないふりをして、逆に神官に聞いてみた。


人相描きは、まあまあ良くできてはいたが、ルナの顔立ちが元々整っているだけに、人相描きとしては特徴が出ておらず、人探しにはあまり機能しなさそうだった。ルナの際立った特徴と言えば、好奇心と生気に輝く瞳とくるくる変わる豊かな表情なのだが、それを表現するのは無理な話だった。


「ルナと言う名前だけで、どこの誰かは知らされていないんだ。駆け落ちしたどこかの貴族のご令嬢かもしれない…。」

その神官はさらっと言いつつも、その人相書きを改めてじっと見つめた。


〝中央神殿は、聖女が逃げ出したなどということは、極力明らかにしたくないようだな…。〟とユーゴは思った。


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