花の腕輪
祭り3日目の夕方、女将さんが、売り物の串焼き肉を食堂から出店に運んだルナとユーゴに声をかけてきた。
「下ごしらえもしっかりできているし、今日はもういいから、祭りを楽しんできたらどうだい?二人はこの町の夏祭りは初めてだろう?」
「ええ~!? いいな~。」
店先にいたサラが途端に声をあげた。
「あんたは昨日休みをあげただろう?」
女将さんがサラに言った。
「え~、ユーゴと一緒がよかったのに~」
サラが口を尖らせた。
「たまには兄弟でゆっくり過ごすのもいいもんさ。さ、行っておいで。」
女将さんは、サラの言うことを全く意に介さず、言った。
「お言葉に甘えさせていただきます。」
と、ユーゴは、女将さんに挨拶をしてから、ルナに言った。
「ルナ、一回部屋に帰ってもいいか?」
「もちろん。」
ユーゴはお金でも取りに行くのかな?と、ルナは思った。
食堂の厨房で一休みをしている主人に、今日この後は休みをもらった旨を伝えると、主人も「楽しんでおいで。」と快く言ってくれた。
ルナも自室に戻り、お金をもっていこうと、小さな巾着袋に硬貨を入れていると、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、ユーゴがルナに服を差し出して言った。
「ルナ、これを着てくれないか? 今日だけは幼なじみのルナに戻って一緒に町を歩こう。」
それは、スカートがふんわりと広がる町の娘たちが祭りで着ているような、普段着よりおしゃれなワンピースだった。
「ああ、いつか着てもらいたいと思って買っていたんだ。」
「ありがとう、ユーゴ。」
ルナはいそいで着替えた。久しぶりに着る女性用の服は少し光沢のある水色の生地でできていた。スカート部分の滑らかな生地を触ってルナはうれしくなった。
しかし、ふと自分の短くしている髪を触り、すぐに気分は沈んだ。
数日に一回、染粉で髪を染めているため、ルナの髪の毛はすっかり艶を失い、ぱさぱさになっていたからだった。
部屋を出てルナはユーゴに言った。
「きれいな服をありがとう。でも、この髪では不自然ね…。」
「ルナはどんな格好でもきれいだから、大丈夫だ。」
ユーゴはそう言って、ワンピースと同じ色調の水色だが、もっと薄くて軽い生地のケープを頭にそっとかけた。
「この水色は、君の瞳に合うと思ったんだ。」
そして、ユーゴは、ルナの長い前髪を優しくかきあげ、ピンで止めた。
「わ、視界が広いよ。ユーゴ。」
深い青色の目を見開く、ルナを見て、ユーゴは微笑んだ。
「うん、やっぱり似合う。」
「ありがとう。」
ルナは頬を染め、ユーゴに言った。
「でも、前髪を上げてしまっても大丈夫かしら?」
「今日は特別だ…。」
ユーゴはルナに優しく言った。
シドの町の夏祭りは、男性も女性も花で作った腕輪を腕に巻くという風習があった。親しい間柄では腕輪を作って贈りあっていた。
そして、決まった相手がいたり、既婚者の場合は左の手首に腕輪をして、恋人募集中の場合は右の手首に腕輪をしていた。
町の中の出店や屋台が立ち並ぶエリアに来ると、ルナは花の腕輪を売っている出店を見つけて、ユーゴの手を引いた。
「ユーゴ、せっかくだからお花の腕輪を私が買ってあげる。」
祭りでは、手作りができない人のために、作った腕輪を売っている出店が何軒かあった。
台に並べてある色とりどりの花の腕輪に近づいたルナとユーゴを見て、店の主人が声をかけた。
「君たちのような若い二人には、この腕輪がいいんじゃないか?」
主人がピンクと白の花をいくつも通して作られている対の腕輪2つを差し示した。




