夏祭り
サラは流石に接客に慣れており、ルナがしている客への声掛けは、客も喜んでいることがすぐにわかった。そして、ルナほどは客の観察は詳しくできないが、すぐにサラなりの声掛けをするようになった。
自分の仕事にとってよさそうなことをすぐに取り入れる、そんなところに大人の女性の柔軟さを感じて、ルナはサラのことを好ましく思った。
ある日、夕方の営業時間の前にルナが一人でまかないを食べていると、サラがルナに話しかけてきた。
「ねえ、ルナリス。お兄さんのユーゴって、決まった相手はまだいないわよね。」
「え?!ユーゴですか? 決まった相手って?」
「恋人とか、結婚を決めた相手がいるのかって聞いているの!?」
「い、いないと思いますよ…?」
「よかった。ねえ、私、ユーゴにアプローチしてもいいわよね!?」
「ア、アプローチって?!」
「もう、何なのよ、さっきから!あなた、どこの箱入り坊ちゃんよ!?
ユーゴの恋人になれるように、ユーゴに迫ってみるわよ、って言っているの!」
「な、なんで僕にわざわざそんなことを聞くのですか?」
「あなたたちって、なんか仲が良さそうじゃない?私とユーゴが恋人同士になって、ルナリスからお兄さんを取ることになったら、かわいそうかなぁ、って思ったの。」
「はあ…。」
もちろん、ユーゴはルナのものではない…、そんなことはわかっているルナだった。
けれど、自分の替わりにサラがユーゴの隣にいることを想像すると、胸がモヤモヤする感じはあった。
「ユーゴってさ、不愛想なんだけど、優しいよね…。
夜の客の、仕事の愚痴とか悩み事を真面目に聞いてあげているんだよね…。
だからさ、ユーゴに話を聞いてもらいに来る客もだんだん増えてきていてね。
ああ、私もじっくり話を聞いてもらいた~い。」
サラがうっとりした目をして言った。
ユーゴには、なぜだか話をしやすい…というのは、ルナにとっても、よくわかる気がした。
〝どんな人でも、細やかに人の話を聞いてあげるなんて、さすがは私の幼なじみ!〟と思った。しかし、サラの話を微笑みながらしっかり聞いてあげているユーゴの姿を想像すると、やっぱり胸がモヤモヤしてくるルナだった。
ルナたちがいるシドの町の夏祭りの時期が訪れた。町は4日間にわたり、祭りの様々な催しものが行われるようだった。食堂では、肉の串焼きの出店を広場の一角に出すことになっていた。ルナとユーゴは主人と一緒に、裏方として、串焼きの下ごしらえや焼きの担当をして、女将さんとサラが売り子をすることになった。
ルナとしては、下ごしらえをしながらユーゴと久ぶりに話すことができて、とても嬉しかった。
ルナはユーゴに思い切って聞いてみた。
「ユーゴ、サラさんからアプローチを受けた?」
「はあ?アプローチ、なんだそれ?」
ユーゴは、ルナが何を言っているのか、本当にわからない様子だった。
「え?サラさんがユーゴに迫ってみるって言っていたんだけど…。」
「迫ってみる?? ああ、最近なんだか、よく手を握ってきたり抱きついてきたりっていうのはあるかな…?」
「サラさん、すごいっ!?
…それで、ユーゴはサラさんのこと好きになった?」
ルナはおそるおそるユーゴに聞いてみた。
「好きって、なんだそれ? サラは、仕事仲間だろ?」
ユーゴは、呆れたような口調でルナに返した。
「う、うん。仕事仲間よね…。」
〝そうか、ユーゴはサラのことは仕事仲間としか思っていないんだ…。〟
ルナは、ほっとした気持ちになった。




