やりがいがありますよ
自信がついてきたルナは、食堂に来てくれた客のそれぞれの状態に応じて、料理についてもアレンジを加えてもらえるよう、調理担当の主人に話すようになった。
「肉野菜スープをご注文のお客さんは、今日はたくさん汗をかいてきたようなので、濃いめの味付けでお願いします。」
「煮込みをご注文のお客さんは、歯が痛いと言っていたので、具材を細かくカットしてもらってもいいでしょうか?」
等々…。主人の方も、素人のルナが言うことではあるが、ルナがよく客を観察し、客を思いやってのことだとよくわかっているので、ルナの言う通りにしてくれた。
そうしているうちに、店の評判がまた上がっていき、昼の客の数は更に増えてきた。
女将さんは宿を休みにして、食堂の仕事にかかりきりになったが、それでも大変になってきた。
そこへ、ようやく元々食堂で働いていたサラが地元から戻ってきた。
昼の営業時間が終わった頃に、挨拶に来てくれたのだった。
「サラ~、良く帰って来てくれたね~。」
女将さんは、サラに抱きつき、涙を流さんばかりに喜んだ。
サラは、ルナより5つくらい年上の黒い髪の毛と茶色の瞳をもつ、すらっとした体型だが、胸は大きめの、落ち着いた雰囲気をもつ女性だった。
「女将さん、長いこと申し訳ありませんでした。おかげ様で祖母は良くなりました…。
あの…私はまた引き続きこちらで働かせていただいてもよろしいのでしょうか…?」
サラはルナのことをチラッと見ながら言った。
「もちろんだよ! 今、店は連日大繁盛していてね。人手はいくらでも欲しいくらいなのさ。もちろん、よろしく頼むよ。」
サラは女将さんの言葉にほっとしたようだった。
「サラさんですか? 僕はルナリスと言います。よろしくお願いします。」
ルナはサラに、にこやかに話しかけ、握手のために右手を差し出した。
「ルナリス? 私はサラ。よろしく…。」
と、サラも右手を差し出し、握手をしようとした。しかし、ルナの手に触れ、目を合わせた瞬間、サラは無意識のうちに膝を折っていた。
「あれ??」
我知らず、膝を折って、貴人に挨拶をするような格好になりかけたサラは、自分で自分の動きに驚いていた。
「やだ~、サラさん、つまずきましたか?」
ルナはおどけて言ったが、内心少し焦っていた。ルナが神殿にいたとき、民に接する機会があったときは、サラがやりかけたような挨拶を受けていたからだった。
〝もしかして、聖女っぽく手を出してしまったのかしら? それともサラさんが聖なる力に敏感なのかしら?〟
ルナは頭の中では、いろいろな考えが駆け巡っていたが、顔に出さないように、無理やり微笑んだ。
「いえ、なんか、神殿で神官様に挨拶しているような気になっちゃって…。
いやね。私ったら、ぼーっとしていたみたい……。」
「サラさんは、移動でお疲れなのではないですか?」
と言うルナの言葉に、女将さんが同意した。
「そうだね。サラ、今日はゆっくり休んで、明日から頼むよ。」
サラは、ルナたちが来る前と同じように、昼の営業時間も、夕方からの営業時間も働くことになったようだった。
食堂が忙しくなってくるにつれ、ユーゴと話す時間はどんどん減っていっていた。ルナとユーゴが朝食を食べた後は、ユーゴはすぐに町へ出て行ってしまい、ルナは野菜の皮むきなどの食堂の下ごしらえを手伝うようになっていた。
そして、昼の営業時間が終わると、ルナは後片づけの手伝いをした後、夕方の営業が始まる前に早めの夕食をいただいていた。ユーゴは夕方の営業時間に入るギリギリの時間に帰ってきて、そのまますぐに給仕の仕事に入るので、ルナと話しをする時間がなかったのだった。
〝仕事はとってもやりがいがあるのだけれど、最近ユーゴと話せていないわ!〟
そのことに気づいてしまうと、途端に寂しい気がしてくるルナだった。




