お料理を運びます
ルナはユーゴと一緒に1階に降りた。
「女将さん、今日は全然役に立たなくて、申し訳ありませんでした!」
ルナは女将さんに開口一番あやまり、勢いよく頭を下げた。
「いいんだよ。慣れていないことを、最初からできるなんて思っていやしないよ。少しずつ慣れていってくれれば、それでいいんだ。」
女将さんが優しくルナに声をかけた。
「はい。僕…がんばりますから…。」
ルナはそう言いながら、しかし自分自身の情けなさにまた涙が滲んできた。
女将さんはルナの頭を撫でてきた。
「真面目な子だね。ゆっくり、ゆっくりでいいんだよ…。」
「はい…。」
ルナは答えながら、こぼれてしまった涙を手で拭ったのだった。
次の日から、ルナは少しずつ仕事に慣れていった。最初は腕や体のあちこちが筋肉痛になったが、それも収まってくる頃には、食器の後片付けで重くなったお盆を運んでも、苦ではなくなってきた。
そして、10日も経つと、料理や飲み物の注文も取れるようになった。
女将さんもルナの慣れてきた様子に安心したのか、客が集中するとき以外は食堂を離れ、宿屋の仕事にかかることもできるようになった。
そしてユーゴも昼は町中へ出かけるようになった。
ルナは食堂の接客を一人で任される時間が増えてくるにつけ、自分が進歩しているようで、うれしく感じていた。
そして、余裕も出てくるにつけて、食堂のお客さんをよく観察するようになった。
すると、お客さんのいろいろな様子が目に入ってくるようになってきた。
〝この人はいつも人参を食べ残している。〟
〝この常連のおじさんは、今日は疲れた様子かしら…?〟
〝このお兄さんは、とっても眠そうな顔をしている…?〟
ある日、人参をいつも残す中年男性の客に、ルナは注文のポトフを運んだときに勇気を出して声をかけてみた。
「おじさん、今日は人参を残さず食べてみてください。うちは甘い人参を使って調理していますから。」
その客はルナに声をかけられて、驚いた顔をした。
「人参を食べろ、なんて、久しぶりに言われたな…。」
ルナは、〝しまった、お客さんに余計なことを言ってしまった!〟と思った。
しかし、その客はにっこり笑って言った。
「なんだか、故郷のおふくろを思い出したよ。おふくろにもよく言われていたんだよ。
『体にいいから、人参を残さず食べろ』って。」
そして、その客は人参も残さずきれいに完食し、空になった皿をわざわざルナに見せ、得意げな顔をした。
「お客さん、すごいです! 偉いです!」
ルナが思わず言うと、客は更にうれしそうに頬を緩めた。
「ごちそうさん。確かにここの人参は、人参が苦手な俺でも甘くて食べやすかった。」
ルナはそう言ってもらえて、自分が少しでも役に立った気がして胸の奥が温かくなったのだった。
それから、ルナは食堂に来た客に、積極的に声をかけるようになった。
もともとは物怖じしない性格だったので、ルナはたちまち食堂の人気者になっていった。
そして、客とのやり取りが増えるにつれ、ルナの中で、〝お客さんにこの食堂に来たお客さんに元気になってもらいたい〟という思いも増してきた。
ルナは自分ではっきり意識しないうちに、料理を運ぶときに〝この料理で元気がでますように〟という祈りとともに、〝癒しの力〟を料理に込めるようになっていた。
すると、〝食べると活力が湧いてくる料理を提供する食堂〟として少しずつ町中に口コミが広がっていくのだった。




