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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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お仕事が始まりました

次の日の朝、ルナとユーゴは宿屋の1階に朝食を食べに行った。

 ルナは少年の変装を続けていたが、ユーゴは付け髭が面倒になってきたのか、外すようになっていた。

2人が食堂に入ると、宿屋の主人と女将さんが深刻そうな顔をして、話をしていた。


「…、あの子がいつ戻ってくるか、わからなくなっちまった。5日間だけだと思ってたから、私だけで頑張ってきたんだけどね……。」

「そうだな…、人を雇うか? でも今から探してもすぐ見つかるかどうか…?」


 ルナが、ご主人と女将さんに話を聞いてみると、宿屋といっしょに営業している食堂の人手の話だった。いつも手伝ってくれている女性が、数日だけ3つ隣の町へ里帰りする予定だったところ、祖母の病気の具合が急に悪くなり、看病のために帰れなくなった、とのことだった。

彼女は、昼食と夕食の営業で、主人が作った料理や飲み物を客に提供したり、テーブルの後片付けをしていたらしい。


「その仕事、私…じゃなくて、僕にやらせてください!」

ルナが声をあげた。

「おい、ルナリス!接客なんて、君にできるのか!?」

ユーゴが、慌てて、ルナの腕をとって言った。


「だって、飲み物とか、お料理を運ぶんでしょ?

そんなの共同生活の当番でやっていたじゃない?」


「子ども時代の当番とは、訳が違うぞ!」


そのルナとユーゴのやり取りに、女将さんが割って入ってきた。

「手伝ってくれるなら、ありがたいね。

ただ、あんたは昼ならいいけど、夜は難しいね。うちは酒も出すからね。たまに気が荒くなる連中もいないわけじゃないからね。」


おかみさんは、ルナのことは、まだ成人前の少年と思っているようだった。

そして、言葉の最後の方で、ちらりとユーゴの方を見た。


ユーゴが女将さんの目線の意を解して、答えた。

「~~、わかりました。じゃあ、弟は昼手伝って、俺は夜手伝います。愛想笑いとかはできませんが、いいですか!?」


「いいよ、いいよ。助かるね~。」

女将さんは、思わぬところで人手を確保でき、満面の笑みを浮かべた。


 そして当面の間は、住み込みで働くことになり、宿屋としてほとんど使用されていない3階の奥の部屋2つを使わせてもらうことになった。


 ルナとしても、すぐに働く場所が見つかったので、自分はなんて幸運なんだろう、と思っていた。


 その日の昼から、食堂での修行は始まった。

 慣れるまで数日は、女将さんがいっしょに仕事をしながら、教えてくれることになった。

 ユーゴは、本当は早めに情報収集のために街に出ていきたかったのだが、ルナのことが心配で、初日はいっしょに昼も働くことにした。


 当然のことだが、子ども時代の共同生活の時と違い、覚えなければならないことが山のようにあった。初日は、注文取りは女将さんが行ってくれ、ルナは料理を運ぶだけだったのだが、それでもとても大変だった。


 ルナは長年の聖女生活で、重いものはほとんど持ったことはなかったので、料理がのったお皿を2つ持つだけでも、重い、と感じた。お客が食事をした後の後片付けなどは、食器を重ねてのせたお盆を持つと、その重さで腕が振るえた。


 〝早く料理を運ばなきゃ〟と思い、テーブルの脚に足を引っかけてしまい、料理ごと皿を床に落としてしまったとき、ルナは頭が真っ白になってしまった。


幸い、皿が割れ、料理が床に飛び散ったが、客に料理のソースがかかったりすることはなかった。

「ごめんなさい…。」

青い顔をしてその場に立ちすくんでしまったルナに、女将さんは優しく声をかけた。

「怪我はなかったかい? 今日の仕事はもう終わりにしていいよ。上で休んどきな。」

そして続けてルナ以外に指示を出した。

「あんた、急いで肉の煮込みをもう一回出しとくれ。」

「兄ちゃん、床をきれいにしておくれ。」


そして、新しく料理を提供しなおしたお客にも声をかけた。

「お待たせしてすまなかったね。今日のお代はいらないから、これに懲りずにまた来ておくれよ。」


ルナは自分の部屋に戻り、ベッドの上に突っ伏した。

そして、自分の情けなさに、涙が滲んできた。

〝私って、こんなに役に立たない人間だったの…? もしかして〝癒しの業〟以外はダメダメ人間ってことなの…?〟〝こんなダメダメ人間がユーゴのそばにいたら迷惑ばっかりかけることになる…? 早くユーゴから離れた方がいいの…??〟と、ルナの思考は悪い方向にぐるぐると回り始めていた。


しばらくして、ユーゴが部屋のドアがノックしてきた。

「ルナ、大丈夫か? まかないができたみたいだ。いただきに行こう。」


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