働いてみたいのです
5歳で水晶玉を光らせ、神殿に集められる子どもたちの境遇は様々だった。
聖養母が養育を担当する5歳から10歳の間は、里心がついてはいけないと、家族との面会は制限された。しかし、家族との関係がよい子どもは、家族との手紙のやり取りがあり、年始めだけは、家族からの贈り物を受け取ってよいことになっていた。
しかし、ルナの家は没落した貴族であり、ルナが神殿に入った後、すぐに家族は離散してしまったようだった。
同じ聖養母の元で養育を受けていた4人の中で、家族から手紙が来ないのはルナだけだった。
そして、7歳くらいのときに、ダフネが家族からきた手紙を読んでいるのを、ルナがうらやましそうに見ていることにユーゴは気がついた。
それ以来、ユーゴはルナの前で家族からの手紙や贈り物を開けることはしなかった。また、自分の家族の話をルナにすることもなかった…。
幸い、ルナの体力は一晩寝ただけで回復していた。
「ルナ、急いでこの街を出ようと思う。馬を借りて、俺と一緒に乗ってもらうことになるが、いいか?」
「ごめんなさい。私が〝癒しの業〟を使ったせいね…?」
「いいんだ。ルナはどこにいても聖女なんだ。それはわかっていた。
そんなルナだから、俺は守りたいと思っている。」
「…、ありがとう。」
ユーゴの言葉に、ルナは頬を染めた。
ルナとユーゴは、当初の予定を変更し、東へ向かうことにした。現在いる町から東へ向かう道はあまり整備されておらず、人の流れも少なかった。このため、人目を避けるには好都合と思われた。
ルナは少年の変装をしているということもあり、足を広げて馬にまたがった。ルナの後ろにユーゴが乗り手綱を引く。
「馬の上って、高いのね!」ルナが嬉しそうに声をあげた。
「ルナリス、ここはまだ町中だ。言葉に気をつけろ…。」ルナの耳元で、ユーゴが小声で囁いた。
「ひゃっ、はい、兄さん。」
〝ユーゴが近い…。耳元の声が……。〟
ルナは、ユーゴが後ろから話しかけてくる度にドキドキしてしまったので、落ち着いたら必ず乗馬を習って、一人で馬に乗れるようになろう…と決心したのだった。
そして、2人は東の辺境で2番目に大きな町である、シドの町に着いた。ルナとユーゴは、その日は、町中の簡素な宿屋に泊まることにした。
部屋の中でユーゴが言った。
「できれば、この町でしばらくの間、落ち着きたいと思っている。
神殿の反応も探りたいしな…。」
「それは、いいわね。夢に見た町中での生活ね!
私、一度、働いてみたかったのよね。」
「ルナ、働くって、君は何ができるんだい?」
「え~っと、お針子は…できないわね。お菓子屋は…美味しく食べることはできるけど…、作物も育てられないし…、掃除とか、薬草を育てる、とか…?」
ルナの話す声がどんどん小さくなっていった。
人がどんなことをしてお金を稼いでいるかなど、ルナにとっては、本で読んだことと、神殿の中で習ったことしか知らなかった。
「掃除と薬草を育てるって、神殿で修行として、やっていたことじゃないか…。
まあ無理に働こうとしなくていいから、ゆっくり外の生活に慣れていこう。」
ユーゴは、ルナを優しく諭すように言った。
けれど、ルナは、早く働いてみたいという気持ちを抑えることはできなかった。




