【短編545文字】幽霊がいた 『2分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
カクヨムにも掲載中
幽霊がいた。彼は事故にあった現場に縛られていた。
当然だが幽霊なので足がない。
しかし、歩いてる感覚はある。
ある日、彼は雨の日だけ自分の足跡が水溜りを弾く事に気づいた。
独り寂しかった幽霊は雨が降ると道行く人々の周りを走り回った。
「なんだ水溜りが勝手に跳ねるぞ!」
「気味が悪いな。別の道を作ろう」
あっという間に新しい道が作られ、その場に縛られている幽霊はまた独りになった。
それから随分経って、国の人々が全員足を悪くした。
どうやら作られた新しい道は地面が柔く、皆の足を悪くさせたようだった。
全ての国民が外に出れなくなり、気持ちは塞がり、体力が落ちて病気がちになった。
そして数年の間に全ての国民が死んでしまった。
彼らは全員が幽霊になったが、他の者たちの存在を認識することができなかった。
皆が自分は孤独なのだと痛感したのだ。
しかし、ある日の雨上がりの事だった。
もう誰もいないはずの国なのに、地面に綺麗な足跡が残っている。
綺麗な足跡には綺麗な水溜りが出来ていた。
それはかつて水溜りが勝手に跳ねる、あの不気味な道まで続いていた。
皆がその足跡を追いかけていく。
そして、そこで気づいた。
『独りきり』である事と、『一人一人』である事は全く別の事なのだと。
今日もその国では雨が降っている。
それがたまらなく愛おしい。