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第8話 風は風を呼ぶ

キョウト・ホワイトの学園入学最初の授業は、強敵との模擬戦(タイマン)だった。

「使える道具はこの中から選んでね。複数所持も可だけど、あまりお勧めはできないかな」

 バトルフィールドに上がると、魔力が体を包み、外の世界と隔離されたような感覚に陥る。これが結界型防御魔法の効果で、この中で発生した攻撃はフィールドの外へは通らないようになっている。これで思う存分やり合えるというわけだ。

 俺は机に置かれたいくつかの道具から、レナとの修行時に使っていたモノに似た造形の木でできた片手剣を選択する。安全のために刃はついていないが、硬さと質量は十分にあり、ある程度の危険度ではあるだろう。

「俺はこれにするけど、レオはどうするんだ?」

「わかってて聞いてるね。僕はなぁんにも無しだよ」

 冗談めかしてレオがひらひらと何も持ってない手を振る。

「それじゃ、お手柔らかに」

「こちらこそ、お互い初めてだしね。ゆっくり行こうよ」

 そう言いながら俺を見据えるレオの目は、とても穏やかとは言えないモノだった。

「あああ!キョウト君がレオ君と模擬戦してるー!!」

「バフ・メイカーとキョウト・ホワイト……なんつー対戦カードだよ!?」

「おい!はやく射影具回せ!」

 俺たちがフィールドの中央まで行くと、だんだんと注目が集まり始め、ためらいなく射影具を回されるほどに、闘技場内を興奮が包んでいた

「悪いね、こんなにギャラリーが増えちゃって。嫌だった?」

「いいや、これでいいよ。あくまで“模擬戦”だからな」

「そうだね。確かにその通りだ。――それじゃあ、始めようか」

 そうして始まりを迎える模擬戦の審判はレナが行うようで、模擬戦の予定を変更したことは今度ご飯をおごることでチャラになるようだ。我慢しよう。

「両者、準備は良い?」

「いいよ」

「俺もだ」

「それじゃ――始めッ!」

「「「「うおおおおおお!!!」」」」

 合図と歓声の中、俺たちは弾けるように距離をとる。

 フィールドの広さはかなり広く、十分に走り回れるだけの広さはある。

 俺たちの纏う空気が変わったことに気づいたギャラリーたちは、皆食い入るようにフィールドに佇む二つの人影を見ている。

(まずは様子見ってところか……)

 レオは構えたままじりじりとこちらににじり寄って来る。

 まだ互いに手の内がほとんど開かされていない状況だ。今飛び込むのは愚行中の愚行だ。

 ――なんて、そう思うよな。

「行くぜレオ!!!」

「何っ……!?」

 魔力を巡らせ、身体能力を底上げした俺がレオに向かって走る。

 魔力量の関係でレナほどの身体能力の底上げはできないが、それでもアスリートの速度なんかは余裕で超えている。

 予想外の俺の行動に一瞬怯んだ様子のレオだったが、すぐに切り替え、迎撃態勢に入る。

(逃げなかったのは愚策だぜ、レオ?)

「【導け――結論(パラドックス)】!!」

 俺は速度を下げないまま、詠唱と共に魔法を使用する。

 俺の代名詞ともいえる魔法、こいつに何度世話になってきたことか。

「――っ!どう来る……!」

 レオまであと数m。レオがより一層強く構えたその瞬間、

「グハッ――!?」

 突然レオの身体がくの字に曲がり、横に突き飛ばされる。

「っ!?しま――」

「もらったっ!!」

 そしてレオが吹き飛ばされた方向を予期して方向転換した俺は、そのまま宙を舞うレオに向かって加速のついた飛び蹴りを放つ。

 詠唱する時間すら与えられないレオが、とっさに腕を交差させて蹴りを防ぐ。

「くっ……!」

 しかしそのダメージは大きく、さらに後方へ弧を描いて飛ばされたレオは、受け身をとるのに精いっぱいのようだ。

「先手は取らせてもらったぜ。レオ」

「は……はは……予想以上だよ……キョウト・ホワイト……!」

 ふらふらと立ち上がるレオと、再び突進の構えをとる俺。

「待て……今何が起こったんだ!?いきなりレオが吹き飛ばされて……!」

「噂以上だよ……キョウト君……あのレオナルド君に一歩も引かないどころか完璧に一本取ってるんだもん……!すっごい……」

「【結論(パラドックス)】……?いや、でも……煙は見えなかった……キョウト、まだ私に隠してることあったね……?」

 ざわつく観客席。この様子からすると、まだ俺の【結論(パラドックス)】のことはあまり知られていないようだな。

 まぁ誰にも見せてないしな。初めてこの応用をしたのは真奈が絡まれてたのを助けるときだ。

 ()()()()()()。不意打ちにはもってこいの攻撃方法だ。

 人間は予想外のことが起きた時、周りを気にしている余裕なんかなくなってしまう。特に敵が目の前まで迫っている時なんかは完全な無防備と言ってもいいだろう。

「完全にやられたよ……僕もまだまだ甘いなぁ……でも、もう見くびらないよ。全力で行こうじゃないか」

「……っ!」

 レオが片側の髪をかき上げ、これから起こることに打ち震えるように不敵に笑う。

 ギラリと俺を見るレオの琥珀色の瞳は、獲物を狩る狩人(ハンター)の眼をしていた。

「【靡け――風乗り(エアライド)】」

 その時、フィールドに風が吹き始める。やがてその勢いは強くなり、強力な向かい風となる。

「行くよ!キョウト!」

(っ!?速い!?)

 俺にとっての向かい風なそれは、レオにとっては自身の速度を底上げする追い風だった。

 とても人の出せる速度とは思えない突進を間一髪で避けた俺は、何とかレオから距離を取り、【結論(パラドックス)】で再び死角からの攻撃を試みる。

「その手はもう見切ってるよ!」

 レオは見ることすらなく死角からの【結論(パラドックス)】の攻撃を回避する。

「ちっ……通用しなくなるの早すぎだろ……」

「流石にあんなのを何度も食らってたら身が持たないからね」

 しかしこれではっきりした。レオは()()()に強い適性を持つ魔術師だ。

 さっき【結論(パラドックス)】の攻撃を回避したのも風の流れで察知したのだろう。これではもう奇襲は不可能だ。

 俺は魔力の節約のために【結論(パラドックス)】を解除する。

(さて――どうするか……)

 レオには悪いが、もう俺の切れるカードは切った。これ以上の手札なんか一つしか持ち合わせちゃいない。

 しかしその能力(ひとつ)は使うつもりはない。その時は、まだ先だ。

 このまま膠着状態が続けば魔力量と手数の差で俺が圧倒的不利になる。

 なら、残された選択肢は……

「来ないの?ならこっちから行かせてもらうよッ!」

 風に乗ったレオが瞬きすら許さないスピードで間合いを詰める。

 ここまでは、()()()()だ。

「【導け――結論(パラドックス)】ッ!」

 レオの後方に出現した【結論(パラドックス)】は、俺と挟み撃ちにする形でレオに襲い掛かる。

 これが俺の残された唯一の選択肢『二対一のインファイト』だ。

「【留まれ――空気操作(エアロック)】」

 ついに発動したレオの【空気操作(エアロック)】で、前と後ろの拳が防がれる。空気の壁を殴ったのは初めてだが、強度はこれ以上ないほどに硬い。撃ち込んだ拳がじんじんと痛む。

「まだまだ!!」

 間髪入れずに風が靡く。厄介なことに、【空気操作(エアロック)】で固まった空気は視認ができない。それ故にどんな攻撃が来るかは食らうまでわからないといった凶悪仕様だ。俺が言えたことじゃないが。

「グハァッ!?」

 腹部、右足、左腕に同時に走る確かな鈍い衝撃。巻き上がる埃の軌道から、どうやら俺を襲った衝撃は固定された無数の空気の柱のようだ。トラックにはねられた錯覚さえ起こすほどの威力は、俺の身体を吹き飛ばすには十分な威力だった。

「おいおい……戦況逆転してきてねぇか……?」

「この勝負……まだまだ分からないってこと……!?」

 目まぐるしく変わる戦況。その流れを掴んだ方が勝利をも掴むことができる。

 俺は手放してしまったようだ。その流れを。

 朦朧とする意識の中立ち上がり、いまだ吹き荒れる目を閉じたくなるほどの向かい風の中、レオを視界の中央に据える。

「はぁ……はぁ……」

「その症状……もう魔力が残り少ないんじゃないかい?――決着は早そうだ」

 俺の魔力量程度、こうやって身体能力強化をフルタイムで使っていたなら5分ちょっとで切れる。

 少し休めばある程度回復するのだが、目の前の敵はそんなこと許してくれるような二流ではない。

「僕も誇りがあるんだ。……この勝負、僕がもらうよ」

 息を整え、逆転の手段を考える。

 そして俺は覚悟を決め、片手剣を正面に構える。

「いい姿勢だ……行くよッ!!!」

 吹き荒れる暴風。俺は片手剣を振り上げ、レオは受け止める構えをする。

「【導け――結論(パラドックス)】ッ!!!」

 迫りくるレオと俺の間に出現した()()()()()

「っ!」

 レオは一瞬だけ俺の姿を見失う。しかしすぐに霧を風で散らし、俺の姿を補足する。

 一瞬のこと、そう、一瞬のことだったが、それが致命的なミスだった。

「なっ――!?」

 既に俺は片手剣を捨て、レオの懐まで潜り込んでいた。

 どんな打撃を与えても、【空気操作(エアロック)】で無効化されるのは目に見えている。

 しかし、この状況を打破し、一瞬でひっくり返す技を俺は持っている。

 日本人である、俺だけが。

「――!!!」

 【風乗り(エアライド)】によって、レオの速度は風と見まごうほどのものになっている。

 俺はその推進力の方向を、前から()に変更した。

 レオの身体を掴み、ありったけの力を込めて地面へと()()()()()()のだ。

 所詮俺程度の素人の投げの威力なんかはたかが知れている。しかし、この投げは相手の()()によって威力が上がるものだ。

 俺のちっぽけな小細工が、レオの硬い壁を打ち破ったのだ。

「かは……っ……なに……が……おこって……」

 【空気操作(エアロック)】で衝撃を和らげたのか、クレーターさえできている床から、レオが身体をゆっくりと持ち上げる。

 しかし、それでもなお、身体へのダメージは大きかったようで、レオは再び床に倒れ込む。

 その様子を、俺は見下ろしていた。

「レオナルド・ジェイル戦闘不能!勝者……キョウト・ホワイト!!」

「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」

 闘技場が揺れるほどの大歓声が響き渡る。

 勝者への祝福を受け取ったのは、俺だった。

「あはは……負けちゃったね……」

「レオ、大丈夫か?ほら、肩貸すぞ」

「ありがとう……じゃ、お言葉に甘えて……」

 レオの腕を肩に回して立ち上がる。

「いい勝負だったよ、おめでとう。キョウト」

「こっちこそ、最高の勝負だった。……正直マジで危なかったぜ……」

「あはは、惜しかったなぁ……」

 互いに健闘を讃え合い、いまだ続く歓声の中、静かにフィールドから降りて行く。

 そして二人ともへたり込んでしまう。俺は魔力不足で、レオは物理的なダメージで。

「いったた……ははっ」

「ちょ……何だよ……」

「いや、本当に二人ともギリギリだったんだなーって」

「……確かに」

「……あははっ」

「……ははっ」

 救護班が駆け寄って来るまでの間、俺たちは寝転んで空を見上げていた。

 ――良く聞く話がある。互いにぶつかり合って、殴り合って蹴り合って、最後には肩を組んで一緒に笑い合う。

 そんな、古っちぃ友情物語だ。

 そんな、最高の友情物語(タイマン)だ。


 × × ×


 学園の授業は一つ100分ほどであり、実技の授業……模擬戦が終わるころには既に12時を回っていた。

 模擬戦を終えた俺達だったが、魔力が回復しきってない俺は、レオとの戦いの後、模擬戦をすることができなかった。レナとの約束破っちゃったな……なんて思っていたが、レナはにこにこしながらしょうがないにゃ~と許してくれた。師匠としては、弟子が成長したことに嬉しいものがあるのだろう。

 そんなわけで、午後の授業に備えて長い長い昼休みの間に昼食をとりにレオと一緒に食堂へ向かうこととなった。レナは少し用事があるので後から合流するそうだ。

 レオとはあの模擬戦でかなりわかり合えた気がする。拳で語り合ったと言う奴だ。真の友情に過ごした時間など関係ないのである。

「ほら、ここが食堂だよ」

「おぉぉ……」

 まるで大聖堂のような装飾が施された、アンティークな白い大広間。わいわいがやがやと談笑の花が咲き、色とりどりの料理のなんともおいしそうな香りが食欲を刺激する。これが食堂……これがカフェテリア……!

「あそこのカウンターで料理を注文するんだよ。購買で昼食を買う生徒もいるようだけど、僕は断然こっちかな。なんてったってどれも絶品なんだよ!」

「じゅるり……」

 期待に胸を膨らませながら、俺とレオはカウンターに並ぶ生徒の列の最後尾に立つ。

 並んでいる間にもメニュー表は見れるので、俺はその中から『あっさりシーフードパスタ』なるものを選択し、その名前を何度も口の中で転がす。

 そして注文の後、俺の前に出されたのはきめ細やかな麺に絡みつくようなソースが香り、新鮮な海の幸の皆様一人一人が輝きを放つ、食べなくてもウマさが伝わってくるようなパスタだった。

「お、それおいしいんだよね~でも僕は今日はこれだね」

「『神のふわとろオムライス』……たしかにおいしそうな匂いが……」

「一口食べる?」

「たべりゅ!!」

 そんなやりとりをし、空いている席に座ってすぐさま食事を開始する。

 魚介特有の味わいが……あぁもういいや、うまうま……やば……おいし……

 語彙力が無くなるほどに俺の舌を支配してしまったパスタに舌鼓を打ち、夢中になってパスタを啜っていると、食堂内に設置されている、離れた場所からでも声を届けられるスピーカーの様な魔法具から、元気な声が聞こえてくる。

『食堂のみなさーん!こんにちはー!お昼の放送の時間がやってきました!今回はわたくし、アイシャ・トレインがお届けいたしまーす!』

「「「「ふぅううう!!!」」」」

 お昼の放送ってこんなんだっけ……?これもうラジオじゃん……

 俺の困惑をよそに、食堂内の生徒たちは最高に盛り上がっている。

「この放送も、食堂が人気な理由の一つだと思うよ。放送部の子たちが日替わりでやってるんだけど、今日は特に人気の高いアイシャさんだったからこんなに盛り上がってるんだろうね」

「なるほど……なんかいいな、そういうの」

 皆でわいわい盛り上がれるイベント的なものが多いのは俺としてはありがたい。友達も増えるかもだしね。

 盛り上がりはそのままに、アイシャさんの放送は続いた。

 何を放送するのだろうかと思っていたが、その内容は最近の学園の行事予定の連絡など、普通にありがたい物だった。

 しかしこの程度で何をそんなに盛り上がるのだろうか。

『さぁて、ここからは皆さんお待ちかね!“本日のベストバウト”のコーナー!』

 そのコーナーが始まった瞬間、生徒たちは待ってましたと言わんばかりに声を張り上げる。

「なぁレオ、もしかしてこれが模擬戦の映像を流すってやつか?」

「うん、そうだよ。僕も結構楽しみにしてるんだ。見てて楽しいし、勉強にもなるからね」

「なるほど」

『さぁさぁ皆さんスクリーンの前に集まってください!』

 食堂内にいくつか設置されたかなり大きめの長方形。アイシャさんの言葉と共に、その長方形のスクリーンに映っているのは、スポーツ観戦でよく見るような『司会』と書かれた札のある席に座っているアイシャさんだった。その隣には『解説』と書かれた札もあるが、誰も座っていない。

『今回のベストバウトは珍しく放送部満場一致での決定でした!』

 レオから聞いた話によると、放送部は全員で30人ほどいる大所帯なので、それの満場一致となるとよほどの熱い試合だったのだろう。あ、試合って言っちゃった。まぁ同じか。

『そして解説は皆さんお馴染み!(いかづち)の生徒会長、レナ・レストンさんでお送りしていきまーす!』

『どうも~レナです~』

 ニコニコと手を振りながら入場し、『解説』の席に座るレナ。レナの言ってた用事ってこれだったのかぁ……

「なぁレオ、アイシャさんの言ってた『雷の生徒会長』って……もしかしてレナの二つ名ってやつか?」

「そうだよ。彼女は雷魔法を得意としているからね。それでつけられた二つ名さ。そしてこの学園の生徒会長は代々炎や水なんかの属性魔法を得意としている人たちばかりだから、属性魔法プラス生徒会長って感じの二つ名が付くようになったのさ」

 要するに〇〇の錬金術師みたいな感じですね。……俺だったらどうなるんだろうか。

 属性魔法は無理だし……【結論(パラドックス)】くらいしかまともな魔法がない俺が生徒会長になったとすれば……霧の生徒会長?……アリだな。

 などとくだらない妄想をしているうちに、放送は進行する。

『今回のベストバウトは異色中の異色!編入生対二つ名持ち!対戦カードは……こいつらだ!ズバリ!“キョウト・ホワイトvsバフ・メイカーこと、レオナルド・ジェイル”!!!』

 食堂は一瞬静まり、やがて一気に歓声の波が押し寄せる。

「キョウトって、あの会長のパーティーメンバーの!?編入って聞いてねえよ!」

「それにあのバフ・メイカーとの試合がベストバウトだなんて……!」

「……何、この盛り上がりよう」

 小さく呟いたその声がかき消されるほどの熱気に当てられ、パスタを啜る手が止まってしまう。

『それでは早速行きましょう!レディ……ファイト!!』

 アイシャさんの掛け声とともに、映像が切り替わり、あの模擬戦の映像が映し出されている。

 俺なんであんなに笑ってんの……?完全にイカれてるやつの目じゃん……

「あの奇襲は痛かったねぇ……不意打ちとは卑怯だよ、キョウト」

「しっかり対応してきたからノーカウントってことで」

「あはは」

 今映像は俺がレオを蹴り飛ばしたところが流れており、不敵ににらみ合う姿が無駄に上手いカメラワークで映されていた。

 なんだかこっ恥ずかしくなり、食堂の入り口の方へと目線を外すと、見覚えしかない小柄な俺の『契約者(パートナー)』が、少し高めな身長で、明るい髪色のポニーテールの女子生徒にぐいぐいと引っ張られて食堂へ入って来た。

 少し心配だったが、入学早々友達ができたようで俺は嬉しいぞ。真奈。

 そして手を引いている女子生徒はかなり離れた俺にも聞こえるほど大きな声で、真奈に向かって何かを力説している。

「見たら絶対ハマるから!毎回ベストバウトはすごい熱い試合なんだって!」

「でも私喧嘩とか苦手だし……」

「スポーツ!スポーツと同じだと思えばいいよ!」

 どうやら真奈のお友達はこのコーナーの熱烈なファンの様で、すぐにスクリーンの前までマナを引っ張っていく。

「えーっと、対戦カードが……なになに?……えぇ!?すごいよマナちゃん!バフ・メイカーだって!レオナルド様だよ!二つ名持ちだよ!!」

 スクリーンの下に表示された名前を見て盛り上がるお友達。一方の真奈は慣れない食堂、それに人の多いところに困惑してそれどころじゃないようだ。

「対戦相手は……キョウト・ホワイト?」

「――っ!?」

「へぇ……編入生だって。マナちゃんと同じだね。……マナちゃん?」

「本当だ……京斗が戦ってる……!」

 急にスクリーンしか見つめなくなった真奈と、それに困惑するお友達。

 攻守逆転、というような状況。

 せっかくできたお友達を困らせるようなことにならないよう、俺は口を開けたままスクリーンを見つめる真奈の元へと歩く。

「こら、真奈。お友達困ってるだろ」

「え?……キョウト……!?」

 俺の声にすぐさま振り返った真奈。まるで飼い主が帰って来た時の愛犬のような目をしている。かわいいやつめ。

「友達、できて良かったな」

「うん……優しい人」

「そんなぁ……照れますよ~……ではなくて!編入生と聞きましたが、マナちゃんとはどういったご関係で!?」

 模擬戦の様子が気になるのか、スクリーンをちらちら見ながら俺にそう聞いてくるお友達。

「友達だよ。な、真奈?」

「………………うん」

「なんか結構間ありませんでした?」

 いらぬ誤解が生まれそうだ。なぜそんなに間が空いたんだ。え、なに?俺と友達嫌?あ、やばい病みそう。

「……パートナー……だもん」

 ぷいっと拗ねたように顔を反らしてそう呟く真奈。

 口の向いている方向の関係で俺にだけ聞こえた呟きだったが、真奈は言い直そうとはしなかった。

 ……少なくとも、嫌だったわけではなさそうでよかった。

「まぁなんにしろ、仲良さそうで……おぉ!?【風乗り(エアライド)】!!……失礼しました。それで、キョウトさんは……おおお!!ついに出ましたか【空気操作(エアロック)】!!……失礼しました」

「……話なら後で聞くから、大丈夫だよ?」

「……ありがとうございます」

 やはり気になっていたのか、目まぐるしく変わる戦況に一喜一憂しながら、お友達はスクリーンへと釘付けになっている。

「それで、真奈はクラスに馴染めたか?」

 と、俺は近くに寄ってきた真奈に話しかける。あの……何か近くない?

「うん……みんな優しい人たちだったよ。京斗の方は……随分楽しそうだね」

「あはは……まぁ、レナもいるしな」

「そうだったね」

「キョウト、いつの間に居なくなって……えっと、何してるの?ナンパ?」

「ちがわい」

 放置していたレオが駆け寄ってきて、俺と真奈を交互に見やる。

「こいつはマナ・エンドノーツ。俺の――パートナーだ」

「っ……うん、パートナー……です」

「……わぁお。そういう関係?」

 なんか的外れなことを考えている気がするが、まぁいいや。

『キョウトさんの投げ技が決まったぁあああ!!まさかの逆転劇ぃいい!!』

「すごいね……京斗……強すぎ……」

「えへへ~……俺ん事誰や思うてはるの~……」

「京斗、出ちゃってる出ちゃってる」

 いかんいかん、つい。

「改めて、本当に見事な試合だったよ。キョウト」

「そっちこそ。あと一歩だったぜ?」

「ははっ、言うね~……」

 煽り、煽られ。勝負とは本来そういうモノだ。

 それをどう受け止めるかによって、勝負としての本質が決まる。

 それを知っているレオだからこそ、俺は楽しかった。

「うおっ!?バフ・メイカー!それにキョウト・ホワイトも!」

「え!?はわわわ!!レオナルド・ジェイル先輩!?」

 誰かが声を上げ、連鎖するように視線がこちらへ集まり始める。

「あばばばばばば」

 んでお友達ちゃん荒ぶりすぎでしょ。何があったし。

「バフ・メイカーさん……じゃなかった、レオナルド・ジェイル先輩!そ……その、握手してください!」

「え……あ、うん、いいよ」

 どうやら彼女はレオのファンだったらしい。

 二つ名持ちの生徒は、いずれも学園内では高い人気を誇る生徒ばかりだ。

 生徒会長であり、あの容姿を持つレナは当然として、面倒見のいい頼れるお兄さん的な存在のレオにも相当なファンがついているようだ。

 中にはファンクラブまであるとかないとか……

「ねぇ京斗……二つ名ってなんなの……?」

「なんか高い実力を持った生徒に与えられる称号?みたいなもん。例えばレオならバフ・メイカーって言う二つ名で、レナは雷の生徒会長って二つ名がついてる」

「へぇ……なんか京斗そういうの好きそう」

「……ちょっとな」


 × × ×


 その後、俺たちを中心に騒ぎは大きくなったが、放送室から戻ったレナの仲介によって一瞬でその場は収まった。生徒会長ってすげぇ……

 しかし、無名の新入生が二つ名持ちに勝ったという話題は着々と広まり、二つ名候補と言う単語がちらほらと出始めた。

 真奈のお友達(名をレイン・フィリアという)は、やはりレオのファンだったようで、ファンクラブ会員番号一桁だと誇らしげにしていた。やっぱりあったんかいファンクラブ。そんで一桁で誇れるほどに会員がいるのか……二つ名持ちってすげぇ……

 今は残り30分ほどある昼休憩を、食堂にてレナ、レオ、真奈、レインさん、そして俺の5人で机を囲んで、雑談に花を咲かせながら過ごしていた。

「あ、そういえば、レオナルド君は『パレード』に出るの?」

「当然だよ。そういう君こそ、出る気満々みたいだね」

「それはそうだよ!」

「……えっと……パレード?」

 レナとレオが俺の知らない話題を持ち出し始める。

「学園の毎年恒例の行事だよ。簡単に言ったら……二つ名を持っていることが参加条件で、決められた敷地内でバトルロワイアルをして、最後まで残った人が勝ちっていうルールなの」

「京斗……知らないの?」

「いや知らねぇよ。何で真奈の方こそ知ってたんだよ」

「いや知らなかったけど」

「知らないんかい!」

 俺と真奈のやり取りに、説明を中断されたことへの怒りからか、しかめっ面でご機嫌斜めな様子のレナさん。そんなレナの様子にレオは我関せずといった様子でコーヒーを啜っている。あ、でもちょっと笑ってんなこいつ。許せねぇ……

「こほん!それで、その『パレード』の優勝者にはいろんな景品が与えられるの。流石にお金とかは無いんだけどね。例えば、内申点が上がったり、実技の成績が上がったり、そう言う感じ」

 おぉ!それはなんとも魅力的だ。……でも、二つ名がつくってことは実技の成績は足りてるだろうし、あんまり意味ない気がしないこともない。

「あと、これが一番重要かも。『パレ―ド』は学園内外問わず人気なイベントなの。だからいろんな人が見に来るんだけどね?その中には貴族の方々だったり、すごいときには国王陛下が直接お見えになることだってあるんだよ!」

「陛下!?……マジかよ……」

「だから、『パレード』はそんな人たちの前で実力を示すチャンスでもある場なの。ほとんどの人はそれが目当てかも」

 学園を卒業して、その先の道を歩むとき、その時見せた実力を求める人がいるかもしれない。国王までお見えになるほどの一大イベントだ。どんな職業のプロが来てもおかしくはない。

「まぁそんなわけで、二週間後に迫った『パレード』へと向けて、私は練習中なのです!」

「会長さんは……なぜ『パレード』に参加しようと思ったのですか?もらえる景品を聞いた限りだと、会長さんは参加する意味がない気が……」

 恐る恐ると言った様子で問うレインさんの疑問はもっともだ。レナの成績や学園外での活動を鑑みても、『パレード』で得られるものは特にないように感じる。

「……私ね、どうしても超えたい人がいるの」

 あぁ……なるほど。

 レナのその言葉で、俺は全てを察した。レナの超えたいその人の名を、俺はことあるごとにレナから聞かされてきた。

「『パラディン』……シリウス・オールドノアさん……ですね……」

「……うん」

 レナの口から幾度となく聞かされた。ずっと、シリウスさんが私の超えたい人なんだと。

 目標とは言わず、憧れともまた違った。本気(マジ)本気(マジ)で追いつきたい人。

 それが、冒険者最強……シリウス・オールドノアだと。

「シリウスさんの名を……この学園で知らない人はほとんどいません。学園のあらゆる科目の最高記録の値にその名が刻まれているのですから。まさに伝説の二つ名持ちです……」

「あの人が卒業する前に、一度だけ『パレード』で戦う姿を見たの」

 レナは楽しかった思い出を懐かしむような、淡い笑みを浮かべる。

「……すごかった。圧倒された。相手も相当強いはずなのに、それでも余裕で勝利を重ねていって……すぐに優勝した」

「あの『パレード』は僕も見たよ。……正直、次元が違うとしか言いようがなかった」

「一体……どのような戦いだったのでしょう……」

 そしてレナは、そのシリウスさんに追い付くために、『パレード』で勝利するのだと、力強く語った。

「二週間後かぁ……その時には俺達も学園に馴染んでる頃だろうし、応援ずるぜ。レナ」

 とりあえずの楽しみができたな。強者たちから戦いの仕方を学べるまたとない機会だ。やはり学園に入って正解だった。

「え?キョウトは参加しないの?」

 俺がそんなことを考えていると、レナが不思議なことを言って来る。

「俺はって……二つ名ないじゃん」

 参加資格は二つ名を持っていること。編入したての俺がそんなものつけられているわけもなく、今回は観客ルート一直線だ。

「あー……えっと……キョウト、二つ名っていうものにはとあるルールがあるんだ」

 どこか余裕そうなレオが、レナの代わりに話を進める。

「二つ名持ちの人に実力で勝った人には……必ず二つ名が与えられるんだ」

「「……え?」」

 俺と真奈がシンクロする。めちゃぽかーんてしとる。……って、え?

「あれ?言ってなかったっけ?」

 レナが首をかしげて悪気無くそう言いのける。

「聞いてねぇ……」

 悲報?朗報?……これにて二つ名、ゲットだぜ。

「京斗」

「はい」

「中二病、乙……っ!」

「やめてくださいっ……」

 真奈渾身の煽りを受けながら、俺はレナ達に『パレード』の話を改めて聞いた。

 え?なんでかって?

 ――もうこうなったら成績上げ(さんかす)るからに決まってるだろ!!


 × × ×


 二週間後。もう学園への道のりも歩きなれて来た今日この頃。俺は授業の鬼畜さにも慣れて毎日教科書とにらめっこしています。常識すら知らないんですよ僕。そりゃむずいよ。

 魔導書とかいう教科書の亜種みたいな見た目の奴には、ほとんど俺の使えない魔法がいっぱい載ってました。俺の魔力量の少なさはクラスで一番らしいです。不名誉っ!

 あぁ、あと、多分これが一番話すべき内容かなぁと思ったやつがあります。

「ねぇ、京斗……じゃなくて、『白霧(ファントム)』さん」

「ねぇ何で言い直したの?何で馬鹿にするの?ねぇ?」

 どうも。『白霧(ファントム)』です。はい……二つ名ゲットです。

 俺の髪や肌の色から白の文字が入り、俺のよく使う【結論(パラドックス)】の性質から霧と言う文字が、さらに俺の相手の思考を逆手に取り、予想外の攻撃を仕掛けるという幻影(ファントム)のような戦い方から名付けられた二つ名、白霧(ファントム)

 付けられる前は中二だ何だと嘆いていたが、今となってはかなり気に入っている。

 実力を示す俺だけの二つ名。なんとも中二心をくすぐるじゃないか。あ、結局中二だ。

 なんてことはどうでもよく、これで俺も『パレード』に参加できる権利を得たわけだが……

 俺は今回、ある目的を持って参加することにした。

「……いよいよだね、京斗」

「あぁ、何人か()()()()()()いいんだけどな」 

 俺は左目を手で覆って、浮かび上がって来た文字を確認する。

【残り人数――23人】

 もう四分の一以下にまで減少した『喰雲(クラウド)』。こまめにチェックしているが、冒険者狩りを倒した時辺りから人数の変動がない。

 既に安定した暮らしを手に入れている『喰雲(クラウド)』達と、ばったり出会うと言ったようなことはそうそう起きないだろう。

 俺は行動しなければならない。そのために俺は『パレード』に参加しているのだ。

 『パレード』を見に来る観客の中に紛れているかもしれないからだ。他でもない『喰雲(クラウド)』達が。

 そいつらを炙り出して――()()

 ――情けは捨てた。この命はもう、俺()()の命じゃないから。

 程よく走る緊張の中、学園へとたどり着き、正門に立っている先生に挨拶する。

「おはようございます。オーロ先生」

「おはようございます……」

「はい、おはようございます。ホワイト君、エンドノーツさんも」

 グリス先輩より少し年上の、真新しい教員用の服に身を包んだこの男性教師は、オーロ・ロータス先生。数学の授業を担当していて、高身長に穏やかな立ち振る舞いと言った、大人の魅力の溢れる人であり、女子生徒からはかなりの人気を誇っている。

「ホワイト君は『パレード』に参加するんですよね。頑張ってくださいね」

「……はい!」

 編入して初日で二つ名を獲得した俺の名は学園中に知れ渡っており、学園新聞という学園で起きた出来事を掲載する新聞なんかにはしばらく俺の名前が載り続けた。

 先生と挨拶を交わし、学年が違う俺と真奈はそれぞれの教室に向かう……前に、正面入り口の右側にできている人だかり。その奥に設置されている掲示板を二人で確認する。

「えーっと……『パレード』参加者は……12人かぁ……結構多いね……」

 掲示板には今日の『パレード』のことが書かれており、参加者の名前や学年、顔写真などの個人に関する情報から、『パレード』の戦場となる敷地の情報など、当日になって明かされることばかりが書いてある。

 戦場となる場所は半分を森が覆っており、もう半分には丘と平原、そしてそれを隔てる川があるという環境になっており、高所から戦況を窺うもよし、森に隠れて罠に誘うもよし、平原での一騎打ちを行うもよしと言った、いかにもバトルロワイアルらしい最適な地形だ。

「二つ名で名前が載るんだな…お、白霧(ファントム)あった。やっぱ俺の二つ名が一番かっこいいんですわぁ……」

「確かにかっこいいけど……私はこっちの『重戦車(アーマード)』って方が好き」

「え、真奈こういう男のロマン系的なのが好み?」

「ごつくてしゅっとしたデザインのロボットとか好きだった」

「……さいですか」

 真奈の意外な一面を発見したところで、掲示板の前から離れ、それぞれの教室へ向かう。

 『パレード』がある日は学園は休日と言うことになっている。それでも『パレード』見たい人は別に学園に来てもいいよと言うことなのだが、平日となんら変わらない登校人数だった。

 私服姿の生徒たちが学園内をわいわいがやがやと闊歩する様には文化祭めいたものを感じたが、学園祭自体は別にあるらしい。楽しみです。

 今日制服を着ているのは『パレード』参加者だけで、それぞれの教室で『パレード』を見に来た私服姿の生徒たちと共に説明を受けて、参加者は戦場に、それ以外は、戦場のいたるところに設置された射影具から中継された映像が映る観客席(学園の闘技場)にて、学園外の観客と一緒に勝負の様子を見るらしい。

「おぉ!白影(ファントム)だ!この前の模擬戦もすごかったぞー!」

「今の所無敗の二つ名持ちじゃん!がんばってねー!」

「あ……ありがとう」

 今廊下を歩いている制服姿の生徒は俺だけだ。なのでこうして応援の声をかけられている。

 不思議なもので、名前も知らない人からの応援でもやってやるという元気が湧いてくる。

 これから戦う奴等は学園でもトップの実力だ。レナやレオだっている。あいつらレベルの強敵たちを相手に、どう戦えばいいか。

 その答えは、戦場の中だけにある。

(今回は本気で行くぜ?なぁ――管理者(モデレーター)?)

 その時の俺には、緊張などかけらもなかった。

 俺の中にある能力(ちから)()()()()と、そう決めたから。


 × × ×


「お、来たねキョウト!」

「よ、レナ。それにレオも」

「おはよう、キョウト。また君と戦えるんだ……この日をどれだけ待ちわびたことか」

 教室に入り、クラスメイトたちに囲まれている二人と挨拶を交わす。

「雷の生徒会長にバフ・メイカー、そんで今度は白霧(ファントム)……改めて思うけど二つ名が3人もいるってこのクラスすげぇよな……」

「出ましたねキョウトさん!あなたの活躍のおかげで新聞部の評判が上がって部費が我が放送部よりも上になっちゃいましたからね!今回はレナに勝ってもらいますよ!」

「それ俺悪いかなぁ……?」

 シャー、とレナの陰から威嚇するアイシャさん。放送部と新聞部はライバル同士と言うのがこの学園の名物?だそうで、ことあるごとに小競り合いに発展しているらしい。

「はいはい皆~、『パレード』の説明を行うわよ~」

 しばらくクラスメイト達と話していると、今日も変わらずおっとりとした雰囲気のリリーラ先生が入って来る。

 生徒たちは各々好きな席に、俺達参加者は3人近い席に座る。

「はい、お休みの日なのに皆いい子ね~。それじゃ、今から『パレード』のいろんな説明を行いま~す」

 それから先生は、ルール説明なんかの基本的なことを説明していった。

 それらをまとめるとこうだ。


・『パレード』が開始されると、参加者12人が、腕に小型の射影具の付いたリングを装着し、壁で仕切られた敷地内のランダムな場所にそれぞれテレポートされる。


・腕に着けたリングを壊されるか奪われるか、参加者の身体が少しでも場外に出るかしたら、その参加者は脱落となってしまう。気絶や大けがをした場合は、自分からリタイアを宣言するか、運営側の教師が続行不可能と判断しない限り、脱落はしないものとする。


・使用する武器は自由だが、模擬刀や先の尖っていない弓矢など、殺傷力の低いものに限定される。


・制限時間は『パレード』開始から3時間。時間以内に最後の一人となった参加者を優勝とする。


・制限時間内に勝負がつかなかった場合、残っている参加者が破壊、もしくは奪ったリングの数で勝負をつける。


 ルールを聞いた生徒は、皆それぞれ違う表情を浮かべていた。

 ある者は自分の応援する生徒が勝てるのかという不安。またある者は早く熱い戦いを見たいという焦燥。

 表情は違えど、内に秘めたる興奮は、誰も隠せていなかった。

 休みの日にまでわざわざ見に来るほどだ。楽しみじゃないわけがない。

 その期待に応えるのは……他でもない、俺達だ。

「……ふぅ……」

 レナは深い息をついて闘志を高め、

「……次こそは……」

 レオは倒したい相手を心に思う。

 そして俺は……

(いつか必ず……君の元へ帰る)

 故郷の家族に思いを馳せ、

(そして……君に打ち明けるよ。あの悪夢(ゆめ)を)

 消えない罪の背中を、後悔と懺悔の手でさすった。

 横にいる()()を、ちらりと見て。

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