第9話 バトル・イン・ザ・パレード
何もかも、信じられなくなった。
手は震え、立っていることさえできなくなった。
それでも、手に残るあの感覚だけが消えなかった。
『クソ……が……!』
『なんで……なん……で…………』
僕の目に映る君は、まるで他人の様で、
『君達!何をしているんだ!!』
『……が……っ……』
『君!おい!!返事をしろ!!!』
今まで見た夢の中で、一番酷い悪夢で……一番鮮明な現実だった。
『お前は……何をしたかわかってるのか!?』
誰が上げた声かすらもわからない。自分で上げた声かすらも、わからない。
ここに居る3人……いや、2人の中の誰かだ。
一人は……もう死んだのだから。
僕が……俺が……殺したのだから。
× × ×
「キョウト!」
「っ!?」
顔を上げると、そこには心配そうに俺の顔を覗き込むレナの顔があった。
前に同じようなシチュエーションをグリス先輩で味わったけど、断然こっちの方がいいな。
って、俺何してたんだっけ?
「結構うなされてたみたいだけど、大丈夫なの?」
あんま覚えてないけど……多分、またあの夢だろうな。
全く、これから大事な時だってのに。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっとやーな夢見てただけ」
「それならよかった……あれ?よくないか」
説明を聞いた後、俺たち参加者は馬車で『パレード』の戦場となる場所へと移動を始めた。
一大イベントだというので、選手側の待遇もかなり良く、二人乗りの豪華な馬車は揺れをほとんど感じさせない高級仕様だった。
昨日は緊張であまり寝付けなかった俺は、その馬車の中で眠りこけてしまったらしい。
「もう~そんなので私に勝てるの~?」
「か……勝てるシ?」
「……声裏返ってるよ」
体面に座るレナとそんなとりとめのない会話をしていると、すぐに目的地へと到着する。
馬車の扉を開け、外に出ると、肌を刺す日差しにさわやかな風。
見渡す限りの広大な自然が俺達参加者を包んでいた。
『パレード運営本部テント』と書かれたテントの下には、リリーラ先生やオーロ先生が座っている。
そして男女大小さまざまな参加者がいる中、特にちっこい女の子が、会場に設置されている台に上がり、声を張り上げる。
「諸君!本日はお集まりいただき誠に感謝する!私こそがミラレス王立学園学園長!メルク・ステラ・メテオールだ!」
(……は?)
大げさに腕を上げてそんなことを言い出す、確かに教師用の服を着た女の子。
身長は女子中学生くらいだろうか。真奈より少し低い身長であり、光を受けてきらきらと光る銀色の髪。童顔っぽい顔は非常に整っており、将来美人さんになること間違いなし……じゃなくて!
「なぁレナ……あの人が学園長ってマジ……?」
俺は自分の目と耳を信じられず、横にいるレナに小声で真相を尋ねる。
「え?そうだよ?知らなかったの?」
「会ったことないからわっかんな~い♡」
出張中とは聞いていたが、まさかこんなにも幼い女の子だったとは……!
「あ、ちなみに100歳は余裕で超えてるから」
「……うそん」
ロ……ロリババアだ……!本物のロリババアがここに居る……!!
「むぅ……今なんだか失礼なことを心の中で呟いた奴がいるな……まぁいい。これより『パレード』開始の準備を行う!長ったらしい前置きなんぞ知らん!まずは腕輪の配布を行う!」
勘が鋭いとかそういうレベルじゃない学園長の指示に従い、各々射影具付きの腕輪を受け取っていく。
もうこの人の悪口は言わないし思わないでおこう。
「私は私のことに関してであれば心を読むことができる。せいぜい注意することだな……」
「……はい、すいませんでした」
だって受け取る際にそんな事耳元で言われちゃったらもう観念するしかないじゃん……
開始前から精神がすり減った俺は、力なく腕輪を装着した。
かなり高級感あふれる彫刻が施された金の腕輪の真ん中には、赤い宝石がはまっている。これが模擬戦に使った時とは別物の、特別な射影具らしい。
なんでも、その空間を立体的に録画することができ、例えるなら、いい感じに斜め後ろから撮影してくれるカメラマンがいるような感じなのだそう。便利ぃ。
そして腕輪を受け取ったら次は敷地内へのテレポート。
テレポートも学園長が行うらしく、12人同時にテレポートさせることだってできるのだそう。
そしてそのテレポートが完了した瞬間、『パレード』は開始する。
戦地に赴く参加者たちは、皆強者の佇まいだ。俺が場違いにさえ思えるほどのプレッシャーを常に放っている。
弓、剣、はたまたハンマーまで、皆様々な武器を持っている。この場で素手なのはレオと俺だけだ。
「キョウトは今回は素手なんだね。模擬戦のときはいつも片手剣を持っていたような気がするけど」
「生憎、俺の相棒は今日お留守番なんでね。真剣勝負で他の武器に浮気するくらいなら素手の方がマシだよ」
「……一途だねぇ、霧断ちちゃんも喜んでることだと思うよ」
レオが冗談めかしてそう返すが、その目は笑っていない。
「……次は負けないよ。キョウト」
「こっちこそ。俺と戦う前にくたばんじゃねぇぞ」
この場には、いくつもの意志が交差している。
それは戦場の基本であり、今この状況においてもそれが言える。
自分の勝利。それを一身に願っている。求めているのだ。
「準備は良いな……?それでは!始めるぞッ!!【送れ――転送】!!!」
さぁ、戦いの始まりだ。
「始まったね……マナちゃん」
「そう……だね」
教室での説明の後に連れてこられた闘技場には、大勢の人が座っていたり立っていたりで、野球観戦っぽいなって思った。だって売り子さんとかいるんだもん。
私とレインちゃんは、生徒用と仕切られた席に座って、売り子さんから飲み物を買った。ミルクおいしい。
その売り子さんでさえも視線を向けているのは、腕輪についてるっていう射影具から送られてくるいろんな視点の映像で、たった今『パレード』が始まった瞬間の映像だった。
それぞれが持っている二つ名と共に分けられた12個の映像が映される中、私の目線はただ一人を捉えていた。
「京斗は森スタートなんだ……」
「っていうか、参加者の半分くらいが森スタートだね。開けたところに転送したらそのまま戦いになっちゃうからって、毎年こうらしいよ」
確かに、あの戦場での森が占める面積は結構広い。大きなスクリーンの右上に映るミニマップ的なので動き回っている参加者を現す赤い点は、それぞれかなり離れている。
「あ!!早速レオナルド様が戦ってる!!!」
「え……?」
バフ・メイカーさんファンのレインちゃんの張り上げた声に反応してその画面を見ると、他の参加者の画面とは全く違い、早くも激しい攻防を繰り広げている二つの視点があった。
『っ……!まさか最初の相手があなたとは……!僕も運が悪いですよ』
『はっははは!!俺は運がいいぞバフ・メイカー!強者との戦いはいつも血が滾るッ!!!』
片方は木や岩などの地形を利用して相手の攻撃をするりと躱し、もう片方は木ごとその手に持った大きな大剣でなぎ倒している。
片方はお馴染みバフ・メイカーさんで、もう片方は『武装錬金』と言う二つ名の高身長の男子生徒だった。
懐かしい漫画がでてきたなって思ったけど、読んで字のごとくの戦い方をするらしい。
「武装錬金こと、ミラレス王立学園3年生のディルック・ユードリック先輩は魔法による武器の錬成を得意としていて、今持っている大剣もその錬成によるもので、彼の本気のたった一部に過ぎない。まだまだ武器のレパートリーはあるからね」
「えー……っと、あなたは?」
いつの間にか私の横に座って解説を始めている、どこかで見た気がする女の子の先輩。
「あ、どうも、放送部部長でありキョウトさんのクラスメイトの、アイシャ・トレインです!」
「あ……放送部部長さん……」
そう言えばお昼の放送で一回だけ見たことがある。キョウトの模擬戦の実況してた人だ。
「アイシャ先輩!おはようございます!もしよろしければ、私たちと一緒に見ませんか!?参加者さんの話とかいろいろ教えて欲しいです!」
レインちゃんはすっごく歓迎ムードだ。
私もそういう情報は聞きたいので、うんうんと頷く。
「可愛い後輩ちゃんたちの頼みとあらばそうさせてもらいましょう!第一、元よりそうするつもりでしたし」
「え――?それってどういう……」
何やら気になることを言われて、思わず私の疑問が漏れる。
「まぁその話は後で。今は激闘です」
やんわりとはぐらかされて、話は今なお続く戦闘へと移る。
「レオナルド様……押されてる……!?」
さっきまでは地形を利用してうまく回避していたバフ・メイカーさんだったけど、森の中でも開けた場所に出て、なおかつ背後には大きな木があり、退路を断っているという絶体絶命な状況に置かれている。
本人もそれを自覚しているのか、その表情からは焦りが感じられた。
他の参加者はまだ誰かと接敵すらしていない状況で、バフ・メイカーさんただ一人が窮地に立たされていると言った異例の状況だった。
「なんて、普通は思うでしょうね」
「どういう……ことですか?」
闘技場内がざわめき始めているが、横にいるアイシャさんは冷静に戦況を見据えている。
「レオ君の得意とする風魔法……例えば、【風乗り】なんかなら、大振りな攻撃を仕掛けてくるディルック先輩から逃げることなんて容易なはず。なのにそれをしなかった」
「あ……確かに……」
「レオナルド様、それどころか魔法すら使っている様子はありませんでした!」
「あれがレオ君の戦い方だよ。ほら――獲物は針にかかったっぽいよ」
「バフ・メイカー……もう逃げ場はないぞ!」
今この場にある音は、先輩の上げる声と僕の息だけ。
それが途絶えると、とても静かで、戦場には似つかわしくない静寂が包む。
その静寂の中には――風すら吹いていない。
「【変われ――錬成!】」
その魔法を使用した瞬間、先輩の纏う魔力が先輩の構える右腕に収束する。やがてそれは物質に変化して、光沢を放つ鋼の弓矢となって僕の眼前に姿を現す。
さっきまでブンブンと振るっていた大剣は、手から離した瞬間に魔力の塵となって消滅した。
これがこの人が武装錬金と名付けられた所以。状況に応じて近接、中距離、遠距離と言った武器を作り出すことができる。そしてその腕前も群を抜いていて、錬成する武器全てを極め、完璧に使いこなしている強敵だ。
「これで逃げられないぞ!なぜ魔法を使わなかったのかは知らんが、俺の弓から逃げられると思わないことだなッ!!」
「はぁ……はぁ……」
僕は息を切らすフリをしながら、弓を引く先輩を見据える。
(魔法を使わなかった……か)
確かにこの人は強い。
でも、強いだけだ。
自分の強さを過信して相手の策を潰さないような人間に、僕は負けない。
「くらえッ!!!」
魔法、そして詠唱と言うモノには、いくつかの応用がある。
詠唱の省略や、口を閉じての詠唱など、その多くは威力が落ちたり、飛距離が伸びなかったりと、あまりお勧めはできない。
しかし、応用の中には、デメリットを鑑みても非常に強力で、切り札にさえなりうる可能性のある、創造魔法と言う魔法が存在する。
その原理は単純。いくつかの魔法を組み合わせることによって完成する、からくりのようなものだ。
今から僕が使う創造魔法は、元になった魔法の合計より魔力の消費が少し増え、詠唱が長くなるだけだ。その分難易度は高いのだが、その点は問題ない。
今まで――何度練習したことか。
(すいません、先輩。あなたをキョウトと戦う前の準備運動とさせていただきます)
僕は二つの風魔法、【空気操作】と【旋風撃】の詠唱を改変し、その魔法の詠唱を唱える。
「【風よ、止まれ……牢の中を無に帰して……!朽ち果てよ――風牢獄】」
「――っ!?」
放った矢は僕には届かず、空中へと姿を消す。
「な――ッ!?なんだこれは!!!」
先輩の周りを囲うようにに出現した風の牢獄は、草を巻き上げ、地面をえぐり取りながら、その牢に囚われた先輩を中心として、徐々にその範囲を縮めて行く。
「まさか……創造魔法ッ!?そんなバカな!!!」
先輩は何度も矢を放つが、全てその風の牢に消滅していく。
次に出した大剣も、見えない風に触れた瞬間にその部分だけ削り取られる。
「そ……そんなバカな……い……嫌だ……来るな……!!」
触れた何もかもを削り取る虚空が眼前にまで迫り、先輩はとうとう力なく膝をつく。
「リ……リタイアだ……」
そしてそのまま弱弱しく脱落した先輩の周りから、一切の風が消えた。
僕はその姿を一瞥し、先輩の腕輪を破壊した後、また森の中へ戻る。
ひとまずは魔力の回復だ。準備運動とはいえ、創造魔法を使ってしまったのだ。体力にはまだ余裕があるが、万全の状態とは言いにくい。
勝利の余韻は次に生かすものだ。僕はそれを――何度も体験してきた。
『バフ・メイカー 武装錬金を撃破 残り人数 11人』
「なんだ、脱落者は先輩だけか」
腕輪に付いた機能の一つである、残り人数の確認を行い、僕は手ごろな木の根っこに腰を下ろす。
「僕の全力で、今度こそ君を打ち破ってみせるよ――キョウト」
好敵手を己の中に置きながら――僕は深く息を吸った。
『バフ・メイカー 武装錬金を撃破 残り人数 11人』
「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」
絶体絶命かと思われたバフ・メイカーさんの、完璧ともいえるようなスタイリッシュな勝利に、闘技場中が湧く。
そんな中、私の左右は……
「レオナルド様ぁぁぁ……はぁぁぁあああ……あぁああ……かっこよすぎぃぃ……」
なんか一人は溶けてるし、
「そ……創造魔法……!?レオ君そんなことできたんですか!?こ……これはまた新聞部の活躍が……まずは独占取材か?いや……――が――を――して――――」
なんか一人はぶつぶつ言い始めて、普通にリアクションしてる人が周りに居なかった。
でも、気持ちはわかる。何あれ?どうやって勝つのさあんなの。
「京斗……大丈夫だよね……?」
私は無意識に手を結んで祈る。
最強の『契約者』の勝利を、一身に願って。
「バフ・メイカーが武装錬金を倒した!?……やるね、レオナルド君。これは私も負けてられないかな~」
戦場全体が見渡せる丘の上。そこで私は脱落者の確認をしていた。
「さてと、そろそろ行こっかなぁ~」
腰から下げた片手剣を撫でながら、私は丘から平原を見下ろす。
「ん?あれは……キリエちゃんか……獲物発見だね」
私は平原を警戒しながら進む、黒髪の小柄な少女を発見する。
1年生、キリエ・ミカヅキ。二つ名『影泳』。
海の中に位置する国、ペストリーゼ帝国からの留学生であり、一年生でありながら、その特殊な能力が評価され、二つ名を獲得するに至った超実力派。
その実力は知ってたけど、まだ戦ったことが無かった。
せっかくの機会に、私は丘の上から勢いよく飛び降りる。
「【浮かべ――電磁浮遊】」
地面に直撃する寸前、魔法を唱えた私の身体は、一度ふわりと浮かんでからゆっくりと落ちる。
「うん、きれいな着地。スカートでも一安心……」
そんな軽口を言いながら、私は前方に見える背中を追いかける。
「って、消えた……?」
しかし瞬きをした一瞬で、彼女は姿を消す。
「――――なんてねッ!!!【浮かべ――電磁浮遊】」
「……流石に一筋縄じゃ行きませんね」
と、その時私の背後から刃のついていない小太刀を突き出したキリエちゃんの姿を捉えることもなく宙返りで躱し、自身を浮かせる魔法、【電磁浮遊】で距離をとって体制を立て直す。
「私が君を前にしてペラペラしゃべる訳なんかないでしょ。流石にそこまで馬鹿じゃないからね」
「誘い出されましたか……」
この子の特殊な能力の一つ、それは異常なまで発達した感覚を持っていること。
視覚、聴覚、嗅覚など、そのどれもが並の人間とは比にならない精度を誇っている。
その謎は彼女の家系に関係があるそうだけど、流石に踏み込みすぎた情報と言うことで真相は定かではない。
とはいえ、その家が普通じゃないことくらい誰でもわかる。それはこの子の実力を見れば明らかだった。
「【影狼】」
両手を結び、高速で手の形を組み換え、詠唱無しに魔法を発動する。
あれが彼女の魔法の使い方。詠唱の代わりに“印”と言うものを使用する。
彼女は頑なに魔法だと言い張っているらしいけど、その真相も定かではない。とにかく謎の多い女の子。
そんなキリエちゃんの使用した魔法は、影しか見えない狼を生み出す魔法で、攻撃しようにもうまく実体がつかめない厄介な魔法。
でも、私との相性は最悪だった。
「【捕らえよ――雷牢】」
本来は、電気でできた檻で敵を捕らえるための魔法を、私は周囲に展開させ、広範囲にわたって電気の流れるフィールドを作り出す。
「くっ……」
感電を恐れたキリエちゃんは素早く私から距離をとるけど、キリエちゃんの出した【影狼】は逃げ遅れて電撃に当てられて消滅する。
「なるほど……これは厄介ですね……」
「ふふん、そうでしょ」
私の余裕の態度に、キリエちゃんは構えていた小太刀を背面の腰付近に付けた鞘にしまう。
「引きます。元々私は正面から戦うようなことはあまり得意ではありませんし、相性も悪いです。分の悪い勝負は好みません」
「逃がさないよ!」
私はさっき展開した【雷牢】を、今度は正しい使い方で展開し、私とキリエちゃんを取り囲む戦場を作り上げる。
「……」
沈黙するキリエちゃん。でもその表情は変わってない。
「正面切って戦いなよ――行くよ?」
私は構うことなく魔法の詠唱を始める。
「【痺れ続けろ――麻痺連弾】!!」
完全上位互換のこの魔法によって、いくつもの【麻痺弾】がキリエちゃんに向かって飛んで行く。
この魔法から私たちの勝負が始まる――と、思っていた。
私は――この子の二つ名の由来を、失念していた。
魔法が直撃する直前、印を結んだ彼女は叫んだ。
「【影泳】!!!」
「……ッ!?」
キリエちゃんの身体が地面に沈み、私の魔法が空を切った。
「……あちゃー……そういうばそうだった」
彼女が二つ名をつけられることになった最大の能力、それがあの魔法【影泳】の存在。
その効果はあまりにも単純であまりにも強力。一瞬で影と影の間を移動することができると言うものだった。
その移動を止められるものは誰もいない。例え壁があっても、谷があっても。
「魔力の流れ0。完全に逃げられちゃった……先輩みたいにはいかないなぁ……」
これが『パレード』、これがバトルロワイアル。
私は諦めて、再び脱落者を確認する。
『永久 岩霊を撃破 残り人数 10人』
『永久 炎妃を撃破 残り人数 9人』
「……え?」
もし『パレード』の優勝候補を聞かれたとき、多分、ほとんどがその二つ名を口にする。
「……やっぱり、あの子は厄介だね」
編入してあっという間に二つ名持ちにまで上り詰めた一人の女子生徒。
強力な魔法が扱えるわけではない。身体能力が高いわけでもない。戦いに馴れているわけでもない。
そんな彼女が何故優勝候補とまで言われるようになったのか。
理由は単純。彼女の持つ圧倒的魔力量という強さだった。
「みんなすごい……」
『パレード』が始まってまだ30分ほど。それなのに皆私には到底追いつけないようなバトルを繰り広げている。
特にすごいのが……
「やはりあの人が気になりますか?マナさん」
「はい……もう二人も倒しちゃうなんて……それにあの戦い方……」
永久と言う名の女の人は、まず出会った男子生徒の放ってきた岩を全て炎で溶かし尽くして、それでもなお止まることのない炎で男の人の腕輪を破壊。その後に出会った炎を纏った女の人には滝ぐらいの量の水を浴びせ続けて、そのまま意識を奪ってしまった。
その無茶苦茶な魔法を使った戦い方に、誰も言葉を出せなかった。
「ノルン・ストック。学年は2年生で、永久という二つ名を持ってるの。その由来は見たらわかる通り、無尽蔵とも言えるほどの魔力量にある。あんな魔法を使い続けていれば、誰でも魔力切れを起こしてしまう。でも、彼女はあの程度ではなんともないほどの魔力を持っているとか」
確かに、ざわつく闘技場のことなんかつゆ知らず、【永久】さんはご機嫌そうに鼻歌を歌いながら、森の中を歩いている。
「あの人がこの『パレード』における優勝候補、つまりはラスボスです。キョウトさんは勝てますかね」
「え、なんで京斗の名前が……?」
すっごく自然にいうものだから聞き逃すところだったけど、なんでそこで京斗の名前が出てくるのだろう。
「だ……って……ッ……はぁ……はぁ……マナちゃんとキョウトさんは、恋人なんでしょ?」
「こいび……え!?」
バフ・メイカーさんの戦いを見てからずっと溶けてたレインちゃんが復活(?)して、突然そんなことを言い始める。
「そ……そんなのじゃ……!ていうか、なんでそんなことになってるの……!?」
「だって一緒に登下校してるし……」
「私はレナと二股かけてるのかと思ったんですけど……え、もしかして違いましたか?」
京斗が最低な人になっちゃってる!
「違うよ……!私と京斗はただの友達で、レナさんも京斗と付き合ってるわけじゃ……多分ないしっ、だから……その……!」
必死に取り繕う私を見て、ニヨニヨと顔をほころばせている二人。
ちょっとむかついてきちゃった。助けて京斗……
「そういうことでしたら問題ありませんね。いや~良かった良かった。ここに来る目的はいい形で達成できました」
え、もとより私たちの所に来るつもりだったってこんなことのため……!?
「まぁ、私としても野暮なことは言いたくないし。見守ります!マナちゃん!」
「ほっといてよぉ……」
冷やかしに冷やかされ、多分私の顔はまっかっかになってることだと思う。
でも、そんな冷やかしがちょっと嬉しいと、そう思っちゃうのが余計に恥ずかしい。
「まぁそれはおいといて、今は『パレード』ですよ、永久さんやレオ君の活躍は確かにすごいです。でも、やっぱり引っかかるんですよね。あの人の存在が」
「レオナルド様に勝った実力者ですよ!まぁ次は負けませんけど。そんな人が何の活躍もないまま終わるなんてことありえませんよ!」
開始30分、まだ誰とも接敵していない何人かのうち、圧倒的に注目されている人物。
白霧――白鷺京斗。私を救ってくれたヒーローの活躍を、私は早く見たい。
「おやおや……!?」
その想いに応えるように、ミニマップ上の赤い点と赤い点が、接近していった。
「いよいよ始まりますよ……!『パレード』最大のダークホースの戦いが!!」
相手を視認したスクリーンの中の京斗は、楽しそうに微笑んだ。
やっとだ、やっと人に会えた!
学園の制服を着ている……ってことはやっぱりここは『パレード』の会場ってことだよな!?間違って俺だけ全然別の所に飛ばされたわけじゃないよな!良かった!ほんとに怖かった!
だぁれもいないんだもん!!
そんな情けない俺の心境など知る由もない目の前の大柄な生徒は、その手に持ったスレッジハンマーをゆっくりと構える。
「俺はガルーダ・シルク。2年生だ」
シルク……ってことは、あの武器屋のライオットさんの息子さんか!?シルクって苗字ここらへんじゃあんまりないっぽいし、前に霧断ちの点検しにライオットさんの所に行ったときに自慢してた息子さんで間違いないだろう。
学園にある寮で暮らしている息子がなかなか顔見せなくて寂しいって言ってたくらいには息子思いなライオットさんのことだ。きっとガルーダ君の活躍を見に来ているのだろう。
「俺はキョウト・ホワイト。同じく2年だ。ため口でいいよな」
「構わない。さて、挨拶も済ませたことだ。そろそろ行くぞ」
「……ははっ、いいぜ」
ここに来て初めての戦闘。しかも今日はあれもある。
俺は静かに拳を構え、目の前のプレッシャーから距離をとった。
「【護れ――全身硬化】!」
その魔法を発動した瞬間、ガルーダ君の全身がまるで鉄のように銀色に輝き、一種の彫刻のような姿となる。思い出した。どこかで見たことがある顔だなとは思っていたが、こいつ真奈のお気に入りの二つ名だって言う『重戦車』だ……!
まるで甲冑を着ているかのようなその鋼の身体は、日の光を眩く反射し、歩みを進めるたびにどっしりとした足跡が残る、構えたスレッジハンマーの迫力も相まって、高火力高耐久。まさに重戦車と言ったような姿だ。
まさに――サンドバッグにピッタリだ。
「――っ……!」
そんな俺の考えが漏れ出てしまったかのように、目の前の『重戦車』は歩みを止める。随分とゆっくり進んでくると思ったら、レオの時に見せたような不意打ちを警戒しているのか。
しかしそれは間違いだって気づいたということは、ガルーダ君はかなり戦闘に馴れているな。恐らく俺より何倍も努力してきて今に至るのだろう。
その努力に敬意を表して、俺は全力で相手をする。
「貫け、一射九撃!」
魔法に見せかけた、俺の全力で。
【100m14秒→999m】
【瓦割13枚→99枚】
【殴った回数1回→9回】
まだ誰にも見せてない俺の全力。
その速度に反応できない無防備な鋼の身体に、冒険者狩りをノックダウンした時と同じ殴打を叩き込む。硬いものを殴った時特有の痛みが全身に伝わるが、手ごたえは確かにあった。
そしてその叩き込んだ回数を、俺は9にした。見た感じは一発でも、身体を襲う衝撃は九発と言う技だ。
「――かはッ……!一体……何が……!?」
そんな無茶苦茶な衝撃を浴びてもまだ倒れない。流石は重戦車とだけ言われている。
なら、まだ殴るだけだ。
「貫け、一射九撃」
【瓦割13枚→99枚】
俺はもう一度同じパンチを叩き込み、能力を発動する。
俺の能力は数字を9にする能力だ。0を9にすることはできないが、1を9にすることができる能力。簡単な話、1を9にして、その9を何らかの形で10にすれば、また99にすることができるのだ。
俺がガルーダ君を殴った回数は合計10回。
――これで、終わりだ。
【殴った回数10回→99回】
「っ――――」
能力を発動した瞬間、ガルーダ君の身体は遥か彼方へ吹き飛んでいく。
99回のプロボクサー以上の殴打の衝撃はさすがに耐えがたかったようで、飛ばされたところまで能力を使って一瞬で行くと、白目を剥いて木にめり込んでいた。
俺はそんなガルーダ君の腕輪を外して、ガルーダ君が生きる確率を66%から99%にする。それでもまだ意識は戻らないが、普通に呼吸もしているので問題はないだろう。
(あっぶな……)
いくら真剣勝負だとは言え、俺は危険な技を使ってしまった。34%の確率で死ぬような目に遭わせたのだ。ガルーダ君を技の実験台に使ってしまったことに心の中で謝罪をしながら、俺は森の中を進んで行った。
「はぁ……はぁ……やっぱりか……」
この能力の代償……と言うわけでもないが、99発もの殴打を叩き込んだことになっているので、今の俺の体力はそれに比例するように消耗してかなり息が乱れてしまっている。
これは安易に連発できるような技じゃないな。9発程度ならどうにもないけど100発近いとなるとそうはいかないようだ。手もじんじんと痛む。
しかし、これで能力の威力、危険性を改めて認識できた。能力が通用することも知った。
あとは見せつけるだけだ。――俺を見ているかもしれない、『喰雲』へ。
【100m走14秒→999m】
俺は森を潜り抜け、平原と森とを隔てるように流れる川のかなり広い河原へとたどり着く。
その河原付近に生えている木の木陰には既に先客がいて、まるで予期していたかのように俺の方をまっすぐ見据えている。
「よう、バフ・メイカー。奇遇だな」
「……白霧、ようやく会えたね」
レオの後ろには川。前には俺。
いわゆる背水の陣と言う奴だが……やはり、レオは逃げる気などさらさらないらしい。
今から始まるのは、本気のリベンジマッチだ。
「逃げないよね?キョウト?」
「まさか、そんな訳ねぇだろ」
互いの構えは違えど、俺たちはよく似ている。
勝負開始の引き金に、両者はとっくに指をかけているのだから。
「……『重戦車』君は、強かったかい?」
「それは今からわかることだろ?」
「確かにそうだ。――それじゃあ、行くよ」
勝負の火蓋が――切って落とされた。
× × ×
戦場特有のピリピリとした空気が頬をかすめる。
しかし今ここで聞こえる音は二人の間を吹き抜ける風の音だけ。
そう、風の音だ。
「【靡け――風乗り】!」
レオの声と共に草木の動きが変わり、その方向は全て俺へと向いている。
「【留まれ――空気操作】!行くよッ!!」
出し惜しみは無しだと、強い口調とレオの眼鏡の奥の琥珀色に光る眼がそう告げている。
【空気操作】で俺の周りに壁が作られ、その壁は直線上のレオまで続いた一本道となっている。恐らくこれは【風乗り】と【空気操作】の組み合わせ技で、俺はこれから突撃してくるであろうレオの攻撃を真正面から受け止めなければならないようだ。
最初から容赦ない攻撃してきやがる……それなら俺はッ!
「はッ!!」
「――っ!」
俺の身体よりも少しだけ広い間隔で作られた壁は、左右と上と後ろにあり、完全に俺の逃げ場を塞いでいた。
なら、俺が進むべき道は一つしかない。
(こっちから行くまでッ!!)
レオは驚愕の表情を浮かべ、迫りくる俺に対して迎撃態勢をとる。
(――待て、違う、これは罠だ)
空気の壁の中で、俺は猛進する足を止め、再びレオと距離をとる。
窮鼠猫を噛む。この状況にはその言葉がぴったりとあてはまる。
確かに猫であれば、鼠はうまく不意を突くことはできるだろう。しかし、相手は人間。それも二つ名持ちの実力者だ。俺が突っ込んでくる事程度、予想できないわけがない。
「どうしたんだい?キョウト……怯えちゃったかな?」
「……【導け――結論】」
俺はレオの見透かしたような視線を受け、自身の分身を突撃させる。
「っ!!」
すると、レオとの距離1mと言ったところで、突然突風が巻き起こり、【結論】はただの霧となって森へと消えた。
「惜しかったんだけど……バレちゃったかぁ……【風地雷】」
俺の行動を読み、それに先んじた罠を仕掛ける。完璧な誘導に、まんまと引っかかるところだった。
やっぱり、こいつは強い。どうすれば戦況が動くか、それを知っている人間と実行できる人間には天と地ほどの差がある。
レオは、その天の部類だ。
「【機を待て――風地雷】……さぁ、仕掛け終わったよ。僕とてここでうだうだしていられないんだ」
「はは、厳しいな」
前以外には壁。前には地雷。その奥には何やら詠唱を唱え始めるレオ。
模擬戦の時なんかとは違う。これがレオの戦い方だったんだ。これがレオの全力だったんだ。
これが模擬戦の時なら、俺は間違いなく詰みの状況にある。
「【――朽ち果てよ――風牢獄】ッ!!」
「――っ!?」
追い打ちとして、俺の周囲の地面がまるで花びらを描くかのように、螺旋状にえぐれ始める。
その風は俺の周り全てを取り囲んでおり、じわじわとその直径を狭めていく。
「まさか、これで終わりとはね、キョウト。【風地雷】を見切った時はまさかと思ったけど、この状況は返せないだろう?――白霧!」
巻き上がる砂が、草が、俺の眼前にまで迫った時。レオのそんな声を聴く。
やっぱり、レオは強い。――もっと後に見せるつもりだったのだから。
【俺と魔法との距離1m12cm→9m】
「危ねぇな。俺じゃなかったら詰んでたよ」
冒険者狩りの時に使った、攻撃との距離を9にする技。この状況から抜け出す唯一にして不正規な手段だ。
予想外の魔法の不発に、レオは無傷の俺を見て固まっている。
「――っ……何を、したんだい?」
しかしすぐに冷静さを取り戻し、体勢を立て直す。
「手の内はバラさない主義なんだ。今度はこっちから行くぜ?」
「なるほど……『重戦車』君が負けるわけだ。こんな意味の分からないことをされたらね」
口でまだ余裕があるように思えるが、その額をかなりの汗が伝っている。
未知とは恐怖だ。そこに飛び込んで行くような愚かな人間こそが弱者で、理解するまで待つのが強者だ。しかし、今は待ってなんかやるつもりはない。
ここから先は、俺のターンだ。
ヒュンッ!!!
「何だ!?」
俺がレオに向かって一歩を踏み出そうとした瞬間、妙な胸騒ぎがしてその場を飛び退く。
そして俺が元居た場所に突き刺さっていたのは、だんだんと地面に放電して小さくなっていく、電気でできた矢だった。
レオにとっても予想外だったようで、俺を警戒しながら辺りを見渡している。
刺さった矢が消えた瞬間、またもや俺に向かってどこからか矢が飛んでくる。
次の矢は電気の矢ではなく、空中で展開されるワイヤーのような、何かを捕獲することに適した矢だった。
「何だよこれ……ってか何で俺にばっかり?」
「……この精度……なるほど、『スナイパー』さんか」
スナイパー……確かにテレポートされる前に弓を持った奴もいた気がする。
なぜか変な仮面をつけていて顔は確認できず、身長から女子だろうということ以外は何もわからなかった。あの時は変な奴もいるな程度の認識だったが、まさかこんな場面でエンカウントするとは。
いや、エンカウントはできてなかったわ。
(どこから狙ってんだ……?完全に真上から降って来たよな……)
ここは視界の開けた河原。そしてレオとの戦いで発生した音はかなり大きいものだった。
誰かがそれを聞きつけてくる可能性は十分にあるが、今はそんな簡単な話じゃない。
そう思考している間にも、【空気操作】での攻撃と謎の矢が俺を襲う。
「悪いなレオ。リベンジマッチはまた今度だ」
今のままじゃレオとの戦闘どころじゃない。飛んでくる矢は何故か俺にだけ。いくら能力を使っても俺が圧倒的に不利だ。
「逃がすと思うかい?」
俺に戦闘の気がないと見るや、レオは再び激しい攻めに転じる。
「【巻き上がれ――旋風撃】!」
俺を取り囲むように出現した3つの大きな竜巻が、それぞれ逃げ道を潰すようにうねり、河原の石を巻き込みながら俺に迫って来る。
これでは竜巻との距離を9mにしても、また別の竜巻に巻き込まれてしまう。3つ共を限界まで引き付けて9mにしようとする他なかったが、そんな俺の思惑を見透かすように、レオがまた新たに3つの竜巻を出現させた。そしてその外側を囲うように【風地雷】を仕掛けて回っている。その範囲は軽く9mを超えてしまっている。そんな無茶苦茶な包囲網を仕掛けられるあいつの魔力量をうらやましがりながら、俺はその包囲網の中にいる現実と向き合う。
どんどんと狭まる俺のテリトリー。それでもなお降り注ぐ電気の矢の雨。たまに捕獲用の矢が来るが、電気の矢よりは速度が遅めなのでまだマシだ。しかしそれに気づいた瞬間に電気の矢だけになったので、今俺を狙っているスナイパーは、やはり俺の状況をリアルタイムで把握しているということか。
「さぁ、これでもう逃げられないよ、キョウト!!」
俺のデタラメな能力を使っても、こんなに追い込まれてしまっている。レオもさすがにこれが全力のようで、魔力切れの予兆を感じる。
それでもまだ魔法を使う分の魔力は残っているようで、詠唱と共に再度俺の周りに【風牢獄】が出現する。
万事休す。そんな言葉が俺の頭によぎる。
(いや――もう……これしかない!)
あたり一面に吹き荒れる触れたらヤバそうな暴風の中、俺は使える中で最も厄介で、最も強力な魔法を使う。
「【導き出せ――終着点】」
「何をっ……この霧は……!?」
【結論】とは比べ物にならない量の黒い霧が俺を包み、その姿を遥か遠くへ移してゆく。
俺に残された唯一の手段。魔力が1週間無くなる代わりにどこへでもテレポートできる最強の魔法を使うほどに緊急事態に追い込まれるとは思っていなかった。
追撃の矢が飛んでくるが、もう遅い。俺の身体は既にこの霧の中にはない。今ここにあるのは俺の意識だけだ。
「結局、逃げられたか……全く、引き出しが多いな。君は」
転送先へ移り行く意識の中、そんなことが聞こえた気がした。
「す……すごすぎます……」
「強い……ね、二人とも……」
強い。二人を現す言葉はそれ以外に見つからなかった。
(『重戦車』さん、腹パンで殴り飛ばしてた……やっぱり京斗、能力使ってるんだ)
そしてその後のバフ・メイカーさんとの攻防。
いくつもの罠をかいくぐって、スナイパーさんの狙撃も躱して、私だったら絶対できないようなことを、京斗はやってのけていた。
バフ・メイカーさんばかり見ていたレインちゃんも、京斗のスクリーンを見るようになってたし。
それで……なんでか喋らなくなった人が一人。
「あの霧って……どう考えても創造魔法ですよね……?あぁもうスクープが多すぎます……!『パレード』はこれだからッ……!新聞部の連中めちゃ笑ってましたよ許せませんよ××ですよ××ッ!」
到底放送できないような事を吐き散らすアイシャさん。この人こんなキャラだったっけ?
でも、あれを見て私もびっくりしたのは本当。だってあれ魔力全部消えちゃう奴だったはず。
一応だとか言って練習してたからテレポートした直後に気絶はしないようになったけど、魔力はちゃんと使えない。だからこの『パレード』の中ではこの魔法は使うことないだろうなーって言ってたのに、使っちゃってる。
確かにあんな状況だったらそれしかないってことはわかってる。でも、魔力が無くなっちゃったってことは、【結論】はもう使えないってこと。京斗が最も使い慣れてる魔法が。
「大丈夫だよね……?」
ふと口からそんな言葉が漏れてしまう。
どのスクリーンを見ても、皆私みたいな一般人とは比べ物にならない実力者ばかり。
特に、あの永久さんが飛びぬけて強くて、開始から1時間の時点で既に2人、そしてさっき3人目を倒してた。
深くかぶったフードで、顔は全部は見えなかったけど、心底楽しそうに笑ってた。
まるで――心から戦いを求めているみたいに。