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5  一日二回の災難は多すぎます②

ブックマークありがとうございます。


ようやく物語が動きはじめました。

 

 目の前にいるのは麗しの王太子殿下。体を起こそうと右肘で体を支え、左手は頭を押さえている。


 「・・・おでこが痛い」


殿下も「おでこ」とか言うんですね。──じゃなくて!


私、何したっけ?

間違ってなければ王太子殿下のお、おでこを!思いっきり叩いてなかったっけ?しかも「王太子なんか辞めちゃえば?」的なこと言わなかったっけ!?


脳内を「不敬」「無礼」というワードがグルグル回っている。このまま気を失いそうだ。

どうすることも出来ないで固まっている私の手に、大きな手が触れる。


「考え中のとこ悪いが、手を離してどいてくれないか?」



さて、ここで問題です。

私はどこにいて何をしていたでしょうか?


答えは『殿下の上に跨がって胸ぐらをつかんで罵倒していました』。

はい正解です。


・・・。


ヒイィィィィッ!


「し、失礼致しましたわ」


光速で殿下の上から退いた私は、早口で捲し立てる。


「こちらの木陰で殿下が倒れているのを見つけまして、人を呼ぶにも講義中のため周りに人はなく、僭越ながら(わたくし)が介抱しておりました。ですが無事、意識がお戻りのようで安堵いたしましたわ。まだ日は高いとはいえ直に冷えて参ります。殿下の体調にこれ以上の差し支えがでては皆様悲しまれるでしょうし、早く中にお戻りください。(わたくし)ももう戻りますので。では失礼致します。おほほほほ」


自分でも何言ってるかわからないが早くここから立ち去ろうと身を翻した・・・のに、殿下がガシッと私の手をつかんでいるのは、なぁぜ?


「・・・講義中だというなら君は何故ここにいる?」


そこかー!そこいま一番気にしなくていいところ!


「具合が悪くなりまして。少し外の空気を吸うために出てきましたの」


よし、さすが私。淀みなく答えたから本当っぽい。そして手を放してほしい。


「君は、どこのご令嬢だ?」

「しがない貴族の娘にございます。殿下がお気にするような者ではありません」


私の素性なんか教える訳がない。お兄様にバレたらもう太陽の下歩けなくなっちゃうじゃん!

ここは早く逃げなければ・・・。よし!


「殿下!うしろに・・・!!!」

「なに!?」


パッと私の手を放し、後ろを振り返る殿下。


「うしろに、立派な木がありますわ」


「それでは失礼致します」と言いながらスタートダッシュを切った。嘘は言っていない。

早くここから離れるぞ!令嬢らしさなんて二の次で颯爽と駆けていく。あとは殿下が子爵令嬢といつも通りイチャイチャしてこの出来事をさっさと忘れることを願うばかりだ。



 いい天気だし、勉強する気分じゃないし、眠いからちょっとお昼寝しようと思っただけなのに。

もう今日はまっすぐ帰ろう。これ以上の災難はごめんだ。そしてもう殿下と関わらないことを祈ろう。


 だがこの祈りが届くことはなかった。

このとき私は、重大なミスを犯していることに気づいていなかったのだ。




■■■■■■




 一人残されたユーテリアは、呆然としたまま謎の令嬢が立ち去るのを見ていた。



──竜巻みたいな令嬢だ。

完全に彼女のペースに巻き込まれさっさといなくなってしまった。

なんだかすごいことを彼女に言われたような気がするが・・・。


 ここで倒れる前のことはおぼろげだが覚えている。

いつも通りミリアとランチをし講義が始まるので分かれたあと、強烈な頭痛が襲ってきた。なんとかこらえようとしていたがどうにもならず、人気のない方へ向かったのは覚えている。

そのままここで気を失ったのだろう。


 ここのところ体調が良くない。

体が重く、時々頭痛に襲われる。夜も夢見が悪いのかよく眠れないことが増えた。昼間もかすかに息苦しさが続き、陰鬱な気分に陥リやすく自分じゃない自分に支配されるような、不快感。


それが今は、少し楽になっている。

体にまとわりついていた不快感が薄らぎ頭痛も消え、呼吸がしやすい。久々の感覚だった。


いつもと同じ一日なのに、いつもと違うのは・・・。


「さっきの、令嬢か」


 早口で捲し立て立ち去ろうとした彼女の手を思わず掴んでしまったのは自分でも驚いた。ごまかすために「・・・講義中だというなら君は何故ここにいる?」なんて聞いていた。


 思い出すのは目を覚ました時に見た光景だった。

 

 柔らかく頬をなでる何かの感触が心地よくて目を覚ました。頬をなでていたのは金糸のように輝く髪。太陽の光で輝き「奇麗だな」と思った次に目に入ったのはペリドットのような瞳だった。


全てを見透かすような瞳。




どこの令嬢だろうか。なんとか調べられないものか──。


考えても仕方ない、中に戻ろう。

立ち上がろうと、芝生に手を置いたとき何かが触れた。 


手に取ってみると、それは赤黒いシミが付いたクリーム色のハンカチ。

彼女のだろうか。


ハンカチには『三日月と飛翔するカラス』の紋章が刺繍されている。

この紋章は。


「カロン家か」


カロン家は代替わりし、現在は長男のヒューゴ殿が当主を務めている。

彼には俺と同年代の妹がいるはずだ。確か名前は・・・。


「ナディア・カロン」


鈍っていた思考がクリアになる。

今まで眠っていた自分が起きたみたいだ。いや、本当に眠っていたのかもしれない。

()()()()ほどの自分は明らかにおかしい。



 自分に何が起きているのか。



 彼女なら何かわかるだろうか。


 俺はもう一度、彼女に会わなければいけない。




やっと名前が出せた・・・!(本人不在の場でだけど)

うちの主人公ちゃんは猫かぶりがとてもうまい行動力抜群のご令嬢です。


読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで見て見ぬ振りが出来ないから主人公になってしまうんだ、南無
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