29 進入者②
キィ••••••、キィ••••••、キィィ••••••。
メイドの前を横切った瞬間、耳障りな音が聞こえてきた。
キィィ••••••、キィィッ••••••!
ナディアはたまらず足を止める。
なんとも不快な音が響くなか、ナディアは後ろを振り返った。
思わず、ぎょっとする。
先程まで廊下のくぼみにぼんやりと立っていたメイドが、廊下の真ん中にいたのだ。
やはりというか、音はそのメイドから発せられているようだった。
突然立ち止まり、後ろを気にするナディアをユーテリアは不審に思う。
「どうした?」
「••••••」
無言で返すナディア。ユーテリアはナディアが目を向ける先に視線を移す。しかし、何もない。
ユーテリアの視界にはのっぺりとした暗闇が漂うだけだ。
一方、ナディアは本能的に「これは危ないものだ」と、「逃げるべきだ」と感じていた。
ユーテリアには見えていないであろうメイドは耳障りな不快音を変わらず発しながら、徐々に輪郭を崩していった。
(すぐここを出ないと!)
「••••••っ殿下!」
キィィッィィ!!!
先ほどとは比べ物にならないほどの不快音。
例えるなら、ガラスを引っ掻いたような甲高い音だった。
ナディアはたまらず耳を塞いだ。
「ぐっ••••••!!」
「ナディア嬢?!どうした!!」
(これは警告?警戒?なんて音なの!早く出ないと••••••!)
思考を邪魔する不快音を堪えながら、出る算段を考える。
ユーテリアにもそれを伝えないといけない。
――不快音が辺りに響いていて、おそらく警告。その元凶はそこにあるメイドだから早くここから出たほうがいい。なにか、恐ろしいことが起きる前に――
状況をざっくりまとめるも、いまのナディアにはそれをユーテリアに伝える事ができない。
それほど、この音はナディアにとって悪意的なのだ。
しかし、ふと思う。
なぜユーテリアは平気なのだろうか?
これだけの悪意を向けられていれば、どんなに鈍感な人でも何かしらの影響が出るはずだ。
だがナディアの前で柄にもなくオロオロしているユーテリアに異変は見受けられない。
なぜ?
何かあるはずだ。
二人の違いはなんだ?
ナディアにはなくて、ユーテリアにはあるもの。
耳を塞ぎ、苦痛の表情を浮かべるナディアは考えていた。
(性別?髪の色?目の色?能力の有無?なんなの?!)
二人の違いはたくさんあった。
だが、どれも決定的ではない。
何かあるはずだ。なにか••••••。
ユーテリアもナディアの様子から推察していた。
――周りを見ても自分には何も見えない。しかし彼女には何かが見えていて、おそらく何かしらの妨害を受けている。
だが見えなければ対処のしようがない。ならば――。
「ナディア嬢、しばらく我慢してくれ!」
撤退しかない。
灯りが乏しいのでスピードは上げれないが、ここに止まるよりは断然いいはずだと判断したユーテリアが、うずくまるナディアを横抱きにした時だった。
(音が止んだ?)
ユーテリアに抱えられた瞬間、ナディアを苦しめていた音が止んだのだ。
あれ?と思い、あのメイドを見るが変わらずそこにあるのに。
(よくわかんないけど、これならわざわざ殿下に抱えられなくても……!)
「殿下、」
――おろしてください。1人で走れます。――
と、続くはずだった言葉を遮ったの他でもない、ユーテリアだ。
「気にするな、君はそこまで重くない!」
「そうじゃなくて••••••!!」
ナディアをしっかりと抱え、ユーテリアは元来た道へ駆け出した。
二人が来た道。そこにはあのメイドが……。
「で、殿下!!」
「しっかり捕まってろ!」
ユーテリアは真っ直ぐにメイドへと突撃して行った。
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