27 お兄様と殿下の忙しい時期が重なっていたのは偶然でしょうか
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「私の知る限り、この国で火刑に処された貴族令嬢はいなかったと思うよ」
そう言ってお兄様はカモミールティーを口にした。
「何百年か前にクーデターを企てた一族が全員処刑された事はあったね。確かその中に女性もいたけど、火刑ではなかったかな」
「そうですか・・・」
「他に重い罰が課された貴族といえば──」
あの夢が気になった私は、帰って来たばかりのお兄様を捕まえて話を聞いていた。
私が知らないだけで王国中の情報を知るお兄様なら何かわかるかもと思ったからだ。案の定、お兄様は私の知らない歴史を知っていて、書物も見ることなくスラスラと答えていく。兄妹でなんでこんなに頭のデキがちがうんだろう。
でもそんなお兄様でも知らないと言う事は、やっぱりあれはただの夢だったのだろうか。
「ナディア」
「、はい」
考え事をしていたためか反応が遅れてしまった。
お兄様は「ふむ」とつぶやき私をじっと見る。
「今度はどんなことに首をつっこんでいるんだい?」
「いやですわ、お兄様ったら。まるで私を問題児のようにいうなんて」
「ここ数日、朝方までどこかに出かけていると報告を受けているよ」
「えーと・・・そう!私、最近夜のお散歩に目覚めたんです。夜風って気持ちいいですよね!気持ちよくてつい朝方まで帰るのを忘れてしまいますわ!」
「もう冬の気配がする寒空の下を朝まで徘徊したいなんて、ずいぶん変わっているね。それなら明日からナディアの寝室を屋根も壁もないガーデンに移してあげよう。夜風を感じながら朝を迎えられるよ」
「スミマセンデシタ」
この人なら絶対やる!だって目が笑ってないもの!
でもなんでバレてるの?誰にも見つからないように出入りしてたのに。
「油断したね。うちの使用人たちを甘くみないことだよ」
その言葉に思わずお兄様の後ろに控えるライアンを見ると素知らぬ顔で眼鏡をクイッと正していた。あ、犯人こいつだ。ライアン含むうちの使用人たちはとても優秀なのだ。
お兄様はやれやれという表情でお茶を飲むとカップを置いた。
「そろそろ寝よう。いま手がけてる仕事も落ち着いて来たから明日から私も早く帰れる。何かあったらすぐ相談しなさい」
そう言ってお兄様は立ち上がりドアへと向かった。
相談、したいけど何をどうやって相談すればいいのかわからない。夢という不確かな現象を忙しいお兄様の時間を割いてまで話す事でもない。
お兄様が知らないということは歴史上の出来事ではないのだろうし、完全に迷子状態だ。
「ああ、ナディア」
「はい?」
部屋を出る直前のお兄様に声をかけられ顔を上げると、いつもの微笑みを崩さないまま口を開いた。
「書物に残されないだけで我々の知らない出来事はあるんだよ」
「え?」
「歴史とは常に強者が作る。強者にとって都合のいい過去が綴られる。そうして書物に残されたものだけが歴史と言われるんだよ」
「お兄様?」
「じゃあね、おやすみ。ナディアも早く休みなさい」
パタンと閉じたドアを見ながらお兄様の言葉を反芻する。
──書物に残されたものだけが歴史と言われる──
お兄様の言葉の真意はわからないけど、その言葉はずっと私の心に残り続けていた。
■■■■■■
雨が上がり、日差しが戻ったのは2日後のことだった。
「本当にこっちであっているのか?」
「そうですよ。なんですか?さっきから同じような事聞いてきて」
森の中、私と殿下は例の建物に向かっていた。
あの夜と違って太陽が差し込み、不気味さはない。一人ではないのもそう感じない理由のひとつだろう。
隣を歩く殿下をちらりと見る。
さっきからこの道であっているのか聞いてくるのは何故だろう?当の本人は思うところがあるのかずっと思案顔だ。
「そういえば、結局『片付けないといけない事案』ってなんだったんですか?」
せっかくの機会なので気になっていたことを聞いた。
ずーーっと不在だった殿下。『片付けないといけない事案』とやらですべて私に押し付けていたんだから聞く権利はあるはず。以前聞いたときは答えてくれなかったけど今日こそ聞いてやる!・・・と、思ってたのに。
「・・・・・・」
「殿下?」
「・・・・・・」
「殿下ー?聞こえませんでした?」
「・・・・・・」
無言。ひたすら無言。
え、無視ですか?そうですか。そこまでかたくなに言わないなんて逆に気になりますけど?
どんな手を使ってでも自白させますけど、いいですよね?
「物騒なご令嬢だな」
無言を貫く殿下がため息とともに吐き出した。
あれ?私、また声に出してた?
「いい加減、思った事を素直に口にする癖をなんとかした方がいい」
「善処します。で、『片付けないといけない事案』ってなんですか?」
心折れずにひたすら聞いているが答えが返ってくる事なんてないまま、目的地に近づいていった。
「ほら、あそこじゃないか?」
「あ、そうです。あの木々が開けた先に建物がありました」
ほどなくして私たちの前に現れた大きな建物は変わらず存在感を放っていた。
「殿下?」
建物が見えてからずっと無言だった殿下の様子が気になり声をかける。
マジマジと建物の周りを見たあと、来た道を振り返り建物に視線を移すと「やっぱり」と呟いた。
「どうしました?」
「・・・以前、ナディア嬢が聞いたという【青の塔】の怪談は覚えているか?」
「そういえばありましたね。覚えていますけど、それがなにか・・・?」
「そのとき、ここには2つの塔があると言っただろ?そのひとつがこれだ」
「それではここが──」
「ああ、ここが【黒の塔】だ」
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