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26 殿下は腹黒なだけじゃなかったんですね

ブックマークや評価や感想、ありがとうございます!

励みになります。


 窓から外を見ると雨がまだ降っている。

空は朝より黒い雲で覆われ、肌寒さが増しているように感じられた。



「やっぱここが一番ね」



 第1図書館に着いてほっとする。

いつもその時の気分で好きなところに座っているのでお決まりの席というものはない。

それでもこの空間は安心するのだ。



「こんにちは、ナディア嬢」



聞き慣れた優しい声に思わず笑顔になる。ああ、やっぱ司書さんは癒しだ。



「こんにちは、司書さん」


「顔色があまり良くないように見えますが、無理をされていませんか」


「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。休めるときにしっかり休んでいますから」



そうは見えませんけど、と言わんばかりに苦笑する司書さんがふと私の手元に視線を落とし「それは」と声をかけてきた。

なんて言おうか。まさか「見知らぬ建物から思わずパクってきました」とは言えない。



「ああ、これが気になりましたか?」


「ええ。ご令嬢が持つには不釣り合いだなと思い気になってしまいました」


「やはり目立ちますよね。ちょっとしたご縁で手に入れたものなんです」



嘘は言っていない。本当のことを言っていないだけで。

司書さんからこれ以上追求されないようにこちらから質問を投げかける。



「実は調べものがしたくて来たんです。王国の歴史についてなんですがどちらにありますか?」


「歴史関係でしたらあちらです。ご案内しますよ」




■■■■■■




「む〜り〜。もうむ〜り〜」



 先ほどの夢がもしかしたら昔この国で起きた出来事なのではないかと思い、歴史書を読もうとここにきたが早々に心が折れた。


歴史関連の本が多すぎるのだ。


 棚一面分くらいかと思いきや、この広い図書館内の3分の1を占めていた。

そりゃそうだよね、建国から1500年経っているんだからその分の歴史があるよね。大陸どころか世界で3本の指に入るほどの歴史がある国だもんね。一言で歴史って言ってもただ年表があるだけじゃないもんね。著者だって一人じゃないし歴史が古ければ古いほど文献も少なくて解釈だって何通りもでてくるもんね。


しかも調べたいことがなんなのかぶっちゃけよくわかってない。

ざっくりと、ぼんやりと手探り状態でどの時代かもわからない。あ、これ無理だわ。詰んだ。


 目の前には高く積み上げられた本のタワーがいくつも作られている。

どれを見ればいいかわからないが自分が生きている間にあんな事は起きていないし生まれる前でも聞いた事がない。

ひとまずスタンダードな歴史書を読んでみようと思ったがそれだけで机はいっぱいになってしまった。

いやみんなどんだけ細かく書いてるのよ。全部読める気がしない。



「どうしたらいいのよ」


「なにが?」


「ひぅっ!」



びっくりしたー!

自分しかいないはずの場所で呟いた独り言に返事が返ってきたら誰だって驚くと思う。

思わず変な声が出てしまったよ。


うしろを振り返ると、殿下が覗き込むように私を見下ろしていた。



「お、お久しぶりですね、殿下。『片付けないといけない事案』とやらは終わったんですか?」


「あらかた目処が付いたからもう大丈夫だ。それで君は何をしている?珍しく本に囲まれているが」


「ちょっと調べものをしてまして・・・」



(なんだろう、なんだか殿下の様子がいつもと違う気がする。なんていうか・・・晴れ晴れとしてるような)


不思議に思いながら殿下を見ていると、積み上げられた本を手に取り中を見始めた。



「王国の歴史?」


「はい。あ、いえ!そうなんですけどそうじゃなくて」


「? どっちだ?」


「・・・順を追って説明します」



 殿下の微妙な変化は気になるが、私は今までの調査報告と手記について説明を始めた。







「なるほど、事情はわかった。まさかそんな無鉄砲だったとは」


「はい?」


「言いたい事はいろいろあるが話を続けよう」



呆れを含んだ声で続きを促す殿下。

無鉄砲って、何がよ。令嬢らしからぬ行動をしている自覚はあるが今まで何もしていない殿下に言われたくはない。



「それで、それがその手記か?」


「はい。文字とたまに絵が描かれていますけど意味がまったくわからないんです」



そう言いながら手記を手渡す。殿下はその手記をいぶかしげに見ながら開き、何ページかめくると「ん?」と怪訝な声を出して手記を閉じた。表紙の裏表を見比べ、今度は裏表紙から開いて手記を見始めた。

なになに、どうしたの?



「『こ・・・も・・・は会場でいち・・・輝いている。緋色のドレスが鮮やかに舞い・・・しい』」


「え?」



ペラリ

 


「『生憎の悪天候だった。だがその・・・・・・も・・ひかり・・・。』」



ペラリ



「『その美し・・・いつも隣に在る存在は見ない・・・渇望しても、私の望みは・・・知っている』」



殿下が手記を見ながらポツポツと読み上げる。

思わず驚いて固まってしまったが、どういうことよ!?



「で、殿下!ちょっと待ってください!」



手記から目を離した殿下に驚きのまま質問を投げる。



「手記が読めるんですか!?え、なんで?誰の手記です?てか裏から読み始めたのはなんで?なんで殿下は読めるんです?」


「落ち着け。質問が重複してるぞ」



殿下は「一つずつ説明するから」と私を宥めて続けた。



「これは古ミール神語で書かれているようだ。読めないのは仕方が無い」


「こ みーるじんご・・・?」


「およそ600年前まで主に神官たちが使っていた言語で起源は西方にかつてあった国だと言われている。今では読める者はほぼいない。専門家くらいだ」


「なんで殿下は読めるんです?」


「王族に代々伝わる書物には古い言葉で書かれているものが多い。その中に古ミール神語で書かれたものがあったから勉強した」


「はぁ、王族って大変ですね。それでなんで裏から読み始めたんですか?」


「裏じゃない、こっちが表だ」


「え?」


「この言語は右から左に綴られる。だから古ミール神語で書かれたものは本の開き方が通常の左開きではなく右開きになる」


「へ〜」


「現在使われているブルック語は多少形を変えながら続いているが左から右に書くのは昔から変わらない。そのため本も左開きが当たり前になっているから先入観で余計に気づきにくいだろうな」



(何この殿下。すごくない?手記を手にしてまだ数分よ?それなのにこんなに情報でてくるとか、なにこの人)



「てことは、この手記は600年以上前に書かれたってことですか」


「多分違う。劣化が激しくシミやインクの掠れで読めない箇所が多いががそこまで古いものではないと思う。紙の質感から古くても300年ほど前だろう」


「そんなことまでわかるんですか?」


「大体だがな。昔は紙の製造が今ほど精密ではないため不純物も多く厚くてゴワゴワしたものだったが300年ほど前に技術革新で精度が上がりより現代に近い紙を作れるようになったんだ。だから少なくとも300年以上前ではないと思っただけで特別な技能でもなんでもない」



(・・・何この殿下。すごくない?手記を手にしてまだ数分よ?触っただけで何年モノかわかるって、なにこの人。怖いぐらいなんだけど)



 殿下の知識に驚かされながらも感謝の気持ちがわき起こる。

私一人じゃ到底たどり着きそうにない答えを出してくれた。ありがとうございます。

本人には絶対言わないけどね。だってずーっと私が一人で動いて来たんだからね?



「どんな事が書かれているんですか?」


「ちゃんと読み込んでみないと詳細はわからないが・・・」



殿下はパラパラと手記をめくりながら言う。



「ある女性について書かれているようだ」



ドクン



「・・・女性」


「ああ。書き手の主観だと思うが女性を褒め讃えている文言が多いな。『朝日に輝く美』やら『白き山が使わせた女神』やら」


「その、女性の容姿について詳しく書いてませんか?髪型とか」



もしかして膝下まである長い髪では?灰色の髪ではないか?

脳裏によぎるのは、夢に見た『私』の髪。

視線が下を向いて歩く『私』の視界に入って来た、膝まで伸びた灰色の髪。



「そこまで詳しくは・・・。もっと読み込めばどこかに書かれてるかもしれないが」


「・・・そうですか」



ふっと息を吐いた。無意識に力が入っていたようで、肩が下がる。

殿下が手記をめくっていた手を止め私を見ているのがわかったが、何も言うつもりはない。

なんと言えばいいのか、私だってよくわからないんだから。



「この手記、俺がしばらく預かる」


「あー・・・どうぞ?」



私のではないし、私が持っているより殿下が持っていた方が解読も出来るし。

でも言い方がなんていうか、上からの俺様で、なんかなぁ。



「なにかわかったら報告する」


「そりゃそうでしょ」


「なんだと?」


「あれ?口に出してました?」


「しっかりとな」



最近失言が増えた気がする。気をつけよっと。


 殿下が「ひとまずこれはいいとして、」と手記を置きながら顔をこちらに向けた。



「ワーナー嬢に"黒い女"が憑いているのが視えたというのが気になるな」


「そうなんですよね。確かにあの建物に入る前は黒いモヤもほとんどなかったのに」


「今日は視えたか?」


「実はまだ彼女自体を目にしてないのでわかりません。でも仮に彼女に"黒い女"が憑いていたとして、なんで彼女なんでしょうか?確かにパーティーのときは殿下に憑いていると感じたんですけど」



二人して「うーん」と悩む姿は端から見たらどう映るんだろう。

なんとも場違いな考えがよぎったとき、殿下から「その場所は覚えているか?」と問われた。



「ええ、ばっちり覚えていますよ」


「考えても仕方ない。今からそこに行ってみよう」



あ、やっぱりこうなりますよね。

その手記を見つけた場所でもあるし、いつかは行くと思っていたけど今日はいやだな。

雨だし。疲れてるし。だるいし。


そう思った私は、神妙な顔を貼付けて殿下と向き合った。



「殿下、お気持ちはわかりますが今日は日が良くありません。厚い雲に覆われ太陽が見えないだけでなく雨で闇との境界線が曖昧になっています。こんな日は目に見えぬものたちが蠢きやすい。別の日に改めて向かいましょう」


「あ、ああ、わかった」



よし、これで雨の森を出歩くのは免れたよ!

私は心の中で軽くガッツポーズをして、本の片付けを始めた。もちろん殿下にも手伝ってもらって。






読んでくださりありがとうございました。

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