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22 ミリア・ワーナー嬢の調査を開始します

ブックマークと評価ありがとうございます。


※今回の話には少しですが人身売買や残酷な表現がでてきます。苦手な方はご注意ください。


 ミリア・ワーナー子爵令嬢は身寄りのない女の子だった。



 元々は亡くなったワーナー子爵夫人の遠縁にあたる没落した男爵家の令嬢で、両親を失い路頭に迷うところをワーナー家に保護された。・・・というのが誰でも知っているミリア・ワーナー嬢についての話だ。

  


 ここからはちょっと情報に敏感な人なら知っている話。

 


 2年前、ワーナー子爵は愛する夫人を病で失った。

幸い、後継者である息子はすでに成人済みだったため無理に再婚をする必要はなく、少しずつ夫人を失った心の傷を癒していた。

 子爵がミリアという少女を知ったのはそんな時だった。

 亡き夫人の遠縁にあたる男爵家が没落し、両親を失った一人娘が路頭に迷いそうだという話を聞き、失意の底にいた子爵は「愛する妻の遠縁なら私にとっても遠縁だ。これも何かの巡り合わせだろう」と言いその令嬢を引き取った。

 没落寸前の男爵家で育った娘は礼儀作法を学ぶ余裕もなく、ほとんど平民と変わらない生活をしていたらしい。子爵家に引き取られた娘は貴族としての教養をつけるために王立学園に転入することになる。


 ほとんどの人がこの話を聞くと美談だと思うだろう。

普段の振る舞いからは想像できないがミリア・ワーナー嬢の半生はなかなかにシビアで、多少は同情心がでてくる。少しくらいの奇行には目を瞑ろうかと思うかもしれない。



 お兄様が調べた話を聞くと、少し事情が変わってくる。



 ミリア嬢の生家であるマルシャン家は5代前まで男爵家の中でもトップクラスの財力と権力を持つ貴族だった。爵位こそ低いが侯爵家並みの財力と発言力を持ち一目置かれる家柄だったという。

 しかし、当時のマルシャン男爵の娘が不治の病にかかってから風向きが変わった。

 

 マルシャン家は昔から人身売買をして財を成していた。


 この国で人身売買は200年以上前に禁止事項になっている。

当然、マルシャン家が行っていたのは違法行為だ。だが人身売買は裏では多くの人に望まれている商売だった。奴隷や人体実験など様々な非人道的な理由で赤ん坊から年寄りまで売り買いされていたという。


 マルシャン男爵は愛娘を病から救うため大陸中から名医という名医を呼び集めたが娘を救う事が出来る者はいなかった。業を煮やした男爵は医師には頼らず自ら薬の開発に着手する。

 薬の効果を確かめる為、大勢の奴隷がマルシャン家に集められたが誰一人として生きて戻る事はなかったという。効果の確認だけではなく、薬の材料にされた人もいたらしい。被害人数は1000人を超えており、誘拐された子供もいたそうだ。


 なんとしても娘を失いたくない──。そんな思いとは裏腹に娘は亡くなってしまった。


 マルシャン男爵にとっての悲劇はそれだけではなかった。


 娘の病の治療を目的に今まで以上に大規模な人身売買をしたため、その悪行が明るみになったのだ。人身売買だけではなく人間を使ったおぞましい実験や誘拐、不法な薬物の輸入など様々な犯罪が芋づる式に出てきた。不問にするにはあまりにも多すぎる、そして大きすぎる悪行。

 

 当時の国王が与えた処罰は領地と財産そして貴族としての権利の没収だった。行った悪行に対して軽く見えるかもしれないがマルシャン男爵にとっては重い処罰だった。

 トップクラスの男爵家だったマルシャン家。それが一転、全てにおいて最下位の家柄となった。

広大な敷地に建てられた屋敷も寒冷地ながら織物が名産の領地も築いてきた財産も王家預かりとなり、政界への発言力も消滅。唯一残された男爵という爵位がさらに惨めにさせた。

 生活は平民レベルに落ちても貴族という誇りを捨てきれず、過去の栄華を忘れさせず、国民中から非難される一家はひっそりと息をひそめて生きる事となった。マルシャン男爵は娘を、家を、財産を失い絶望の中で亡くなったという。


 

 その末裔がミリア・ワーナー嬢だ。



 ミリア嬢がワーナー家に引き取られた事は周知の事実だが、彼女の生家については出回っていない。

マルシャン家は名前だけの貴族に成り下がったが、先代、つまりミリア嬢の父親が亡くなりミリア嬢がワーナー家に引き取られたことで事実上断絶している。そもそも今から100年近く昔の出来事のため当時を知る人はいないのでマルシャン家を知る人も無いに等しいのだが。


 

 

 (ミリア嬢自身にはなんの罪もないんだけどねぇ)


 前を歩くミリア嬢を見ながらそんな事を思った。


 不幸な生まれだとは思う。でもだからといって何をしても許されるのかというとそうではない。

王族への礼節も貴族令嬢としての教養もおろそかにしていい理由にはならない。彼女が貴族として在りたいのならなおさらだろう。


 

 

 一日中彼女を見ていたが王太子殿下が絡まなければそこまでおかしい子ではなないという印象だった。平民同然の生活をしていたからか、マナーや仕草は洗練されていないがそこまで下品ではない。

相変わらず休憩時間に「どこにいらっしゃいますの〜?」と殿下を探しまわっていたが見慣れてしまったためか気にする人はいなかった。

 どんなに探しても殿下はお休みだよと教えてあげたくなったがそんなことを一介の令嬢が知っているのは怪しまれるので我慢した。目を付けられるのはごめんだ。

 ちなみに殿下は『片付けないといけない事案』とやらで忙しいらしい。



 ミリア嬢の周りにおかしな気配は感じられないし、“黒い女”も視ずに一日が終わった。

調べ始めてまだ一日目。これからなにかしらあるかもしれないし、根気強く調べるしかない。



「くしゅん」


 少し喉が痛い。本格的に体調を壊す前にさっさと治そう。



 すっかり寒くなった空を見上げながら、わたしはもう一つくしゃみをした。



 



 



読んでくださりありがとうございます。

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