21 一方的に働かされる予感がします
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リゼット嬢から話を聞いたあと、お昼寝スポットへとやってきていた。
久々のお昼寝スポットだ。今日はそこまで日差しは強くなくて、少し風はあるが考え事するには丁度いい。
日の光を浴びて心地よい芝生の上に遠慮なく寝転がる。
このあと講義はないからマルッと空いているし、久々にのんびりとできる。
いろいろと濃い日々を過ごしていたからこんなに緩いのは久しぶりな気がする。
「【青の塔】ねぇ」
リゼット嬢に聞いた怖い話はたくさんあったけどやはり気になるのは【青の塔】の幽霊だ。
──その昔、謀反を企てた王族の女性が青の塔に幽閉され、処刑の前日に女性は自害。それ以降、その女性が怨霊となって呪いの言葉を吐きながら青の塔を彷徨っている。
怪談としては特に目立った話ではない。流行っている他の話に比べたら地味な部類のシンプルな話。
でも気になるのは【青の塔】だ。
流行中の怪談はこの学園に関係するものばかりで、実際にある物や部屋が話のメインになっている。
でも【青の塔】なんてこの学園にはない。
当然、リゼット嬢も知らないので話し好きのご令嬢たちに聞いたのだが・・・。
——
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「みなさん【青の塔】について知らなかったんですか?」
「ええ、私に話してくださった方たちは知らないようでしたわ」
「じゃあなぜその【青の塔】とやらの話が出てきたんでしょうね」
不思議に思い首を傾げる私を見ながら、リゼット嬢も腑に落ちないといった表情で口を開く。
「私も気になって怪談話をしていた他の令嬢方にも聞いてみたのですが、【青の塔】がどこにあるのか知らないと言うのです」
「学園内にあるかもわからないんですか?」
「ええ。それどころか皆さん、この【青の塔】の話を誰から聞いたのかわからないそうですわ」
——
—
発生元がわからない怪談話なんてよくある事だ。
同じ話でも話し手や聞き手によって解釈に多少の変化が生まれ、人から人へと伝われば話の内容が大きく変わってしまうことだってある。その過程で同じような話を何人もの人から聞いたら誰に聞いたかわからなくなってもおかしいことではない。
他の怪談話も人によっては誰に聞いたか覚えてないものあるだろうし。
「でもやっぱり気になる・・・」
腕をグイッと伸ばしながら手を空にかざす。
【青の塔】・・・。どこにあるんだろう。
「何が気になるんだ?」
「!?」
「こんなところで油を売っていたとはな。なぜ図書館に来ないんだ」
「で、殿下!?」
突然の来訪者に、思わず起き上がる。
「殿下がなぜこんなところへ」
「君が図書館に来ないから探していた」
「はい?あの・・・なぜ私が図書館に行かないのを殿下が探しているのでしょうか?」
確かにあの図書館は居心地いいけど、たまには外でのんびりしたいときもある。私がどこで何をしようと殿下に咎められることはないはずだ。
「何を言っている。ミサンガをもらった日に約束しただろうが。1週間後に図書館で会おうと言っただろ?」
「はい?」
ちょっと待って、そんな約束したっけ?
あの日のことは実はあまりよく覚えていない。後半は気持ちがふわふわしていて頭が働いていなかったっけ。もしかしてそんな曖昧なときになにか約束してた?
そういえば、殿下が何か言ってたような気はするけど・・・。
無言で考える私を怪しんだ殿下が「まさか」と呟く。
「忘れていた、のか?」
「・・・・・・みたいです」
上の空で王族と約束してそれをすっぽかすって、これもうだめでしょ。さすがの殿下も今回ばかりは怒ってるよね・・・?そう思って殿下を見るけど、怒っている様子はない。
「まったく、君は仕方がないな」
ため息まじりでそう言う殿下は、なんだか晴れ晴れとしている。
「あの、それでなぜ殿下は私と会う約束をしたんでしょうか?」
「昨日まで公務で忙しくて、会えるのが1週間後の今日だったんだ。・・・そんなことより、ナディア嬢に折り入って頼みがある」
「なんでしょうか」
「このままワーナー嬢から逃げ続けるのは現実的ではない。ワーナー嬢も含め、一連の出来事に“黒い女”が絡んでいるのはもはや疑いようがないが俺だけでは太刀打ちできない。だから・・・力を貸してほしい」
はっきりと、私の耳に届いたのは殿下からの協力要請だった。王族からの要請を拒否するなんて私に出来るわけがないから答えは一つしかない、けども。
「それは、命令ですか?」
「違う、俺からのお願いだ」
お願いという言葉に、少しだけほっこりする。
自然と笑みがこぼれた。
「お願いなら、仕方がないですね」
あーあ、関わるつもりなんてなかったのに。
私は自分の事だけを考えていて、王太子殿下もこの国もどうなろうと知ったこっちゃなかったのに。
「では殿下、早速ですが作戦会議でもしましょうか」
やるからには負けは許されない。
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今までの出来事を整理してみたけど、本当に面倒な事に巻き込まれたというのがよくわかった。
殿下は不幸を呼び込む星の元に生まれたのかな?いや、それはむしろ私の方か。
「ワーナー嬢は“黒い女”に操られているのか?」
「そうは思えませんけど、何かしらの干渉は受けている気がしますね」
「ふむ・・・少しワーナー嬢を探ってみるか。ナディア嬢、頼んだ」
「は?私が?」
「俺は彼女に近寄りたくないからよろしくな」
うっわー。サイアクだわ、この王太子。気持ちはわかるけど。
仕方ない、基本情報はお兄様に聞いて少し探ってみましょうか。私が視ないとわからない事もありそうだし。
「はあ、承知いたしました」
「他に気になる事はないか?」
「気になる・・・そういえばいま、なぜか怪談が流行っているのですが殿下の周りでもそうですか?」
「怪談?俺の周りでは聞かないが」
「内容はどれもたいした事ないのですがその中のひとつがどうも気になっていまして」
「どんな話なんだ?」
リゼット嬢に聞いた【青の塔】の話と私の疑問を伝えると、殿下も私と同じ事を思ったようだった。
「確かにそれはおかしいな。この学園には2つの塔があるが・・・」
「塔があるんですか?どこに!?」
「落ち着け。敷地のはずれだから知らない者の方が多い。塔といっても高さはあまりないから気づきにくいしな」
殿下が言うには西側にあるのが【黒の塔】、北側にあるのが【ツタの塔】というらしい。
どちらも特徴がそのままの名前になっているという。
塔があるなんて知らなかったよ。【青の塔】ではないけど確認はしてみたいな。
「見に行ってみたいですね」
「なら行ってみるか?少し歩くが」
「だいじょ・・・くしゅん」
ずっと外にいたから少し肌寒くなってきた。
風がさっきより強く吹いている。
「見に行くのはまた次の機会にしてきょうはもう解散しよう」
「でも」
「気になるのはわかるが塔は逃げない。風邪をひいては元も子もないからな」
身体が冷えたのかゾクゾクする。おとなしく殿下の言う通りにしてきょうはもう帰ろう。
帰ったらジンジャーティー飲んでお兄様にミリア嬢の事でも聞こうっと。
「明日からワーナー嬢について探ってみますが殿下はどうしますか?」
「俺は片付けないといけない事案があるからな。しばらくはそちらを優先する」
「なんですか?」
殿下は私をチラッとみると「今回のことと無関係ではないが・・・」と言ったっきり黙ってしまった。
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