18 生まれて始めての感情の処理に困っています
ブックマークと評価、ありがとうございます。
今回の話はちょっと悩みました。
「はぁ・・・」
自室でクッションを抱えながら、ぼんやりとため息を繰り返す事、1時間。
「はぁ・・・」
ベッドの上を右へゴロリ、左へゴロリ。
「〜〜〜〜〜っ!!」
ため息を零したかと思えば今度はクッションで顔を覆う。端から見たらさぞ滑稽な姿だろう。
でも、それも仕方がないのだ。16年の人生で味わった事のないこの感情を処理するには、キャパが足りないから。
私がこうなった原因は、数時間前に遡る。
————
———
——
それは、氷のように透き通った神秘の蒼に囚われてしまったようだった。
静かな室内に、お互いの息づかいを感じるほどの距離で私たちは見つめ合っていた。
不思議と気まずさも嫌悪感もなく、もう少しだけこのままでもいいと思えるほどの空間。
それを破ったのはどちらでもなかった。
ドサッ
音の正体は本棚から落ちた本。
「あ・・・」
最初に声を出したのはどちらだったのか。
こんなにも接近している事に、急激に羞恥心がこみ上げてきた。
「・・・殿下」
絞り出した私の声に殿下の肩が揺れた。
「す、すまない!」
「いえ・・・」
殿下が気まずそうに手を離す。
下を向いて口元を押さえる姿すらも様になっていて、なんだかずるい。
「あの」
再び沈黙が訪れそうになるのを防ぐため、私は要件を聞く。
「まだ何か、ご用でしょうか?」
「ああ、・・・いや、その」
殿下は少し躊躇してから真っ直ぐに私を見て言った。
「この前はすまなかった」
「え・・・?」
「君にとって、とても大切なことを告白されたのに、おざなりな態度をとってしまった」
なんだ、そんな事か。
私にとっては、そりゃまぁそれなりの勇気はいったけど、今となっては吹っ切れている。
それでもこの事について面と向かって謝罪や反省の態度を示されたのは殿下がはじめてだ。
「どうぞお気になさらないでください。到底、信じられない事でしょう。私は気にしておりま──」
「違う」
何が違うのだろうか?私は本当に気にしていないのに。私たちはお互いを気遣い合う仲じゃないのだから、殿下も気にしなければいいのだ。
私はそう思っていても、殿下は違ったらしい。
「俺には、君の力が本当なのかわからない。そういったものと無縁の人生で、俺は視たことがないから」
喉が詰まる。
これが普通の反応じゃん。そうだよ、なんて事ない。
これが普通なんだ。だから。
今更ショックを受ける事はなにもないのに。
早くここから立ち去りたい。
うつむき加減の私の鼻先に、爽やかなシトラスが香ってきた。
「でも俺は君を信じたい」
「俺は、君を信じる」
少しずつ殿下を見上げた。
——
———
————
家族以外の誰かに、「信じる」と言われたのは始めてのことだった。
じわじわと心を浸食する感情は一体なんだろうか。
今まで感じた事のない言葉に言い表せないもの。
あの後、冷静に「はい、それでは私はこれで失礼します」と言い残して帰って来て今に至る。
・・・・・・なんで冷静に返したんだよ、私!!
もっと言う事あったんじゃないかな?「ありがとうございます」とか「うれしいです」とかさ!
愛想良く出来たよね?もうちょっと愛想良く出来たよね!?
「信じる」とか、聞いた事ないんだよ?もうちょっとなにかあったよね、私!
しばらくベッドの上をゴロゴロしてから、ふとため息をつく。
相手はこの国の王太子。このくらいの距離感が丁度いいのだろう。
・・・そう、そのはずなのになんだか・・・そう思うのは少しだけ寂しい気がする。
「はぁ・・・」
殿下と関わるようになってからため息が増えたのは、気のせいではないだろう。
そういえば去り際に殿下が何か言っていたような?まあいいか。
──今回の事がきっかけで、私と殿下は一連の出来事と“黒い女”に立ち向かう『協力者』として解決に向けて動く事になる。
主人公ちゃんは自分の心境の変化に気づいているのか。
一応、恋愛カテゴリーなんですよ、この物語。
読んでくださりありがとうございます。




