15 カロン伯爵の報告
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前回の更新からずいぶん間があいてしまいすみません。。。
「王国の標にヒューゴ・カロンが拝謁します」
ふかふかの絨毯が敷き詰められた王宮の一室。青で統一されたここは商談などにも使われるため、メインの謁見室よりもこじんまりとした造りになっている。こじんまりとはいえ、大人が100人入っても窮屈さを感じさせない広さはある。
「来たか、カロン伯爵」
ナディアの兄、ヒューゴは最上の礼を解くと頭を上げる。貴族が最上の礼をとる相手、それはこの国で最も高貴な身分な方に対してだけだ。
ナディアから報告を受けた次の日、ヒューゴは国王、ジル・ド・アマデオ・ハンゼンブルグ陛下へ正式に謁見するため王宮へと来ていた。新たに仕入れた商品の紹介という名目だ。
ヒューゴは使用人たちに指示を出し、どんどんと商品を運び込む。あっという間に室内は商品で一杯になった。
「今日はやけに多いな」
「ご紹介したい品がありすぎまして。これでも数を絞りました」
「ふーむ、では順番に聞いていこうか。ちょうど先日の詫びにとライサへプレゼントを考えていたとこだ」
「それはそれは。きっと王妃殿下がお気に召すものがございましょう」
ヒューゴは微笑みを絶やさないままテーブルに置かれた生地を広げた。
「まずはこちらから。これは先日、北の大陸で買い付けた極上の生地で──」
侍従たちが見守る中、『新商品の紹介』は和やかに進められた。
ヒューゴがここに来てから1時間が経過していた。あらかた紹介が終わり国王は侍従にお茶の準備を命じ、一休みすることになった。
「準備が出来たら伯爵以外は席を外してくれ。じっくりと商品を見たいからな」
「承知致しました」
侍従長が「何かございましたらお呼びください」と言い終えると全員退出し、青の部屋には暫しの静寂が訪れた。爽やかな香りのお茶が二人の喉を潤す。
「どれもこれもすばらしい品ばかりだな。さすがはカロン家だ」
「ありがとうございます」
「だがこれだけではないんだろう?」
「もちろんです。陛下のご所望の品をお持ちしておりますよ」
ヒューゴは静かにカップを置くと、手のひらサイズの小箱を国王の前に差し出した。ボルドーのベロア生地の表面を、細かいゴールドの刺繍で彩られた美しい小箱だ。
国王がフタを開けると、見事なイエローサファイアの原石が鎮座していた。
「贔屓にしている隣国の商家が持つ鉱山ですばらしいイエローサファイアが採れまして。40カラットはある原石なのでいかようにも加工できます」
「これほど見事な宝石は久しく見ていないな」
「そうでしょう?もちろん、フタの裏に鑑定書付きです」
ヒューゴの言葉通り、フタの裏をよく見ると小さなくぼみがあったのでそれを引っ掛けて開けると数枚の紙が入っていた。一枚目はイエローサファイアの鑑定書、二枚目はカロン家の家紋とヒューゴの署名、そして──。
「じっくりとお読みください」
国王は数枚に渡る鑑定書の続きを読み始める。鑑定書の続きには、ユーテリア王太子とミリア・ワーナー嬢についての報告が書かれていた。
■■■■■■
30分後、鑑定書を読み終えた国王とヒューゴは新しく煎れたお茶を飲んでいた。
「さすがは伯爵だ。思ってたよりも早く宝石を手に入れてくれたな。鑑定書も的確だったよ」
「お気に召されたようで何よりです」
「鑑定書のおかげでいろいろと安心したよ」
いつ、どこで、誰が、どのような方法で話を聞いているかわからない。平和に見える王宮でも陰謀が渦巻いているのだ。寝首をかかれないためにも用心に越したことはない。
そのため、国王の私室以外の場所で相談をする場合は少々回りくどい方法で行う必要があった。今回はユーテリア王太子とミリア・ワーナー嬢についての報告書を宝石の鑑定書に紛らせたのだ。
ちなみになぜ国王の私室は平気なのか?──いまは関係ないので割愛する。
「さて、この宝石のデザインについて相談なのだが」
「王妃殿下にはもちろん、王太子殿下にも合う宝石ですからね。まずは一度、王太子殿下とお話しされてはいかがでしょうか。いまでしたら学業も落ち着いてらっしゃるようなので建設的なお話が可能かと思いますよ」
つまり、『いまなら王太子は正気に戻っているようなので一度、事実確認を含め話をしろ。以前よりはまともな会話ができるだろう』ということである。
「そうだな、一度話してみよう。それはそうと、この宝石は君の妹にも似合うと思うがどうだろうか」
「ありがとうございます。ですが妹はまだ16歳なので不釣り合いかと思いますよ」
「そうか?ならデザインを考えるにあたって若い女性ならではの感性も参考にしたい。君の妹にもアイデアをもらえないだろうか」
報告書にはもちろんナディアが見聞きし、感じたことも記載されていた。王太子がナディアに言ったという『正気に戻ったきっかけ』と思われることもだ。“黒い女”についてはナディアの能力に関わることなので記載していないが、『妹のナディアは昔からカンが鋭く、嫌な気配を感じることがある』という前提で一連の出来事が書かれている。
つまり、国王は王太子を正気に戻す一助になったナディアに会ってみたいということだ。
「しかも君の妹はユーテリアと学園も一緒だというじゃないか。カロン家の令嬢なら王家と懇意にしていても問題はない。むしろこれから次期国王となるユーテリアのよき相談者となってもらいたいものだな」
「妹はカロン家にしては自由奔放で礼儀知らずな一面がありますので王太子殿下の相談役には少々力不足かと」
(何が何でもナディアを巻き込みたいのだろう。まあ、王太子が正気に戻ったきっかけみたいなものだしなぁ。あわよくば『ナディアの鋭いカン』で悪事を避けさせ、さらにワーナー嬢との仲を壊す当て馬にしたい、といったところかな)
ヒューゴは国王の真意を読み解き冷静に返しながらナディアの話題から逸らした。
「それより陛下、その宝石のデザインについてですが私にひとつ提案がございます」
「ほう、なんだ?」
「私の部下にジュエリーのデザインが得意な者がおります。その者に何パターンか用意させるのはいかがでしょうか?もちろん私も監修いたします」
──『部下に更なる調査をさせ、解決案をいくつか提示するがどうだ?』──
国王は二つ返事で了承した。
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ディナーのあと、国王とユーテリアは国王の私室で向かい合っていた。
ヒューゴの報告通り、以前のユーテリアに戻っていたことに国王は改めて安堵していた。
「王太子としてあのような愚行、どう詫びようとも申し開きのしようがない事と承知しております」
あらかた話しをしたあと、話題は婚約破棄騒動へと移った。前回とは反対に謝罪を述べるユーテリア。それでも決して頭を下げないところに王家の者としての誇りを感じさせた。
「それがわかってくれているのが知れただけでも今日の収穫として十分だ。だが、まだ問題は山積みだな。・・・確認だが、本当にワーナー嬢は意中の相手ではないんだな?」
「絶対にありえません。ワーナー嬢が私の隣にいる未来なんて願い下げです」
「そ、そうか」
ユーテリアが正気に戻っても、考える事は沢山あった。ありすぎてどれから手につけるべきかも迷うほどに。ちなみにイザベラとユーテリアはまだ婚約者同士だ。
「ひとまず、フォールマン家への対応が先でしょうね」
「そうだな」
「あれからイザベラ嬢は休学し、姿を見る事がないと聞き及んでいます。会って謝罪をするにも最近の彼女の様子が分かれば少しは対応策が練れるのですが」
「・・・お前は、本当に・・・。いや、物事を客観的に見るのも、目的のためなら手段を選ばない冷徹さもまさにユーテリアだな」
「やってしまった事はどうにもできませんからね。なら今後について考えるべきです」
不遜に聞こえる発言も、国王にとっては「ユーテリアが元に戻った」という安心材料にしかならない。
「それにピンチはチャンスですよ、叔父上」
にっこりと笑うユーテリアは続けて言う。
「イザベラ嬢とは愛し合う仲でもなかったですし、いい機会です。穏便にすっぱりと婚約解消に向けて動きましょうか」
「・・・・・・とにかく、イザベラ嬢についてはこちらで調べよう。ユーテリアはもうおかしくならないようにカロン嬢に協力を仰ぐといい」
国王は唖然としながらもなんとか声を絞り出した。
心の中で「すまん、伯爵。仕事を増やしてしまったよ」と詫びながら夜は更けていった。
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