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12 あの時をどう説明すればいいですか

ブックマーク・評価ありがとうございます。


すみません 更新が遅れてしまいました。


 わずかな静寂が支配する空間に、古書の香りが充満する。


 私は小さく呼吸を繰り返した。




■■■■■■




 殿下を見るとイマイチ意味を理解していないのか、目を見開いて私を見ている。完璧殿下の一面に苦笑がこぼれた。


 殿下をまっすぐに見つめて口を開く。



「これから話すことを信じろとは言いません。ですが他言無用に願います」


「・・・わかった」


「ここ数ヶ月の間、ワーナー嬢と殿下を黒いモヤが覆っているのを視ていました」


「・・・」


「次第にそのモヤは濃くなっていきました。直感でそれが『良くないモノ』だと思った私はお二人と接触しないよう徹底的に避けて過ごしました」


「それで昨日も逃げたのか」


「はい」



 嘘か本当か見極めているのか、殿下の目が細められている。



「殿下の誕生を祝うパーティーでも、その黒いモヤはありました。一層濃くなっていて・・・」



 脳裏に浮かぶのはあの存在。──“黒い女”のことを人に言うのは初めてだ。



「それは、女の姿でした。」


「女・・・?」


「私は“黒い女”と言っています。禍々しく、一目見たときに体が動かなくなるほどの憎しみを感じました」



 窓から風が吹き込み、静かに二人の間を抜けていった。

 握った手に力が入る。


 

「その女は・・・・・・殿下を、ずっと睨んでいました」



 殿下は何も言わずに、ただ私の言葉に耳を傾ける。



「それまでワーナー嬢に何かが憑いていると思っていました。その何かが常に一緒にいる殿下にも伝染したのだと。でも、その“黒い女”は違います。あれは殿下、あなただけを睨んでいました」


「ボロボロのドレス姿の女」


「全身が真っ黒で、明らかにこの世のモノではないモノ」


「他には目もくれずただただ殿下を睨んで」


「その目は恨んでいるなんてものじゃない」


「もっとそれ以上のなにかを含む」


「・・・あれは『死』そのもの」



 伏せぎみの目を上げて殿下を見る。


殿下は何も言わず私を凝視していた。




■■■■■■




 カチコチ カチコチ カチコチ



 無言が続くなか、壁時計の針の音が響く。



どれくらいそうしていただろうか、外は茜色になっていた。最初に沈黙を破ったのは殿下だった。



「・・・聞いていいか?」


「どうぞ」


「その・・・“黒い女”が俺をおかしくさせた要因なのか」


「私はそう考えています」




「・・・ふぅ」



 殿下は頭を抱えながら考えているようだ。



信じられないんだろな。私だって視えなかったらこんな話されても信じない。頭がおかしいヤツか電波なヤツだと認定して今後一切関わらない。


だから大丈夫だ。

たとえ信じてもらえなくても、私は今度こそ嘘を一つもついていないんだから。



ああ、でも。


やっぱり少しだけ期待してしまったかもしれない。


・・・そんなことない(信じてもらえない)のに。


 過去の苦い思い出がよみがえりそうになって、目を瞑る。

今はそんなことに囚われているときじゃないとわかっているけど、耳の底にこびりついた「バケモノ」という声がよみがえる。



「少し──」



殿下の声にハッと顔を上げる。



「考えさせてくれ」



指先が冷える。こんな突拍子もない話されたら困惑するのは当然だろう。

いくら腹黒でも到底信じられない話だ。理解の範疇を超える現象。だから、殿下にすぐに信じてもらいないからって勝手に失望するな、私。



「ええ、どうぞ」



殿下の目に侮蔑がこめられているのではないかと思うと目を合わせることが出来ない。

これ以上ここにいたくなくて、私は静にソファから立ち上がり礼をする。



「もうじき日が沈むころになりますわ。私はこれで失礼致します」



 王族に対して無礼だとはわかっていたけど、これでどうせ最後だ。

出口に向かって歩き、カウンターにいる司書さんに挨拶をする。



「お騒がせてしまい申し訳ありません」


「お気になさらず。ここは昔ながらの建築で沢山の本に囲まれています。一列挟むと声は聞こえませんから」



司書さんはふわりと微笑む。安らぎを与えるような雰囲気に思わず涙が出そうになるのをこらえた。



「ありがとうございます。失礼致します」



私はいま、うまく笑えているだろうか。




 図書館をあとにし、すっかり夕暮れに染まったなかを馬車止めに向かって歩いていく。




 御者に遅くなったことを詫びて馬車に乗り込むと、背もたれに寄りかかりため息がこぼれた。




 バケモノ────。



 昔のことを思い出すのは久々だ。



 目を瞑り、馬車に揺られながら思い出すのは幼少期の私にとっての日常。

私はまた無意識にミサンガを触っていた。








読んでくださりありがとうございました。

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