プロローグ
ここは、B県某所。その繁華街の一軒の店はから物語は始まる。
その店の名は、「bar beauty men's(バー ビューティー メンズ)」いわゆるオカマバーである。
そのバーのオーナーママのくるみママ、本名 芝原 功樹が一人で経営していた。
開店直後、カウンターで一人たたずんで誰か来るのを待っていた。
「暇ね。」と、ため息混じりに呟いていると、
ギーと、入口のドアが開く。そこには、40代後半スーツ姿の男が入ってきた。
「いらっしゃい。って、なーんだ、岩さんか。」
「おいおい。それはないだろ?ママの顔を見に来たってのに。」
この男性は、岩田 高徳B県警捜査一課の警部であり、この店の常連客である。
「あら。そうなの?こんなところで油を売ってて大丈夫なの?」
「ああ。とりあえず、たいした事件もないし働きづめだとぶっ倒れちまうさ。ここに来るのは、ストレス発散も兼ねているんだよ。」
そういうと、岩田警部はカウンター席に腰を下ろした。
「まぁ。嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ、サービスしちゃおうかな。」
くるみママは、満面の笑みで言った。
「まぁ。それはまた今度ってことで、とりあえずいつもの。」
「いつものね。銘柄は?」
「うーん。そうだな。任せるよ。」
「はいはい。わかりました。」
そう言うと、くるみママはを焼酎とウーロン茶グラスについで出した。
「お待たせ。いつものウーロン茶割。」
「おう。すまないな。」
そう言って、岩田警部は待ってましたとばかりに、ウーロン茶割を口に流し込んだ。
しばらく二人は談笑していると、ふいに入口のドアが開き、二人はドアに目線を向けた。入口には、20代前半だろうか。チノパンに縦じまのシャツといかにも真面目そうな男が入口でキョロキョロしつつ立っていた。
「いらっしゃいませ・・・あら?見ない顔ね?」
「すみません。ここに探偵事務所があるって聞いてきたんですが? ここってどう見ても・・・bar?ですよね?」男は周りを見渡しながら尋ねた。
「当たり前じゃない。ここは、bar beauty men's。あなたの探している探偵事務所だったら、こ・の・う・え・よ。」
そう言うと、くるみママは天井を指差した。
「ああ・・・。そ、そうだったんですね?失礼しました。」
男は深々頭を下げて、店を出ていこうとした。
すると、
「おいおい。ママ。こんな真面目で純真そうな若人を騙すもんじゃないぜ。」
岩田警部が、グラスのウーロン茶割を飲みなから口をひらいた。
「もう・・・。岩さん。口を挟まないで。せっかく面白くなりそうだったのにぃ。」
「それは、わりぃ事をしたな。」
岩田警部は、にやつきながらママに視線を向けており、くるみママは頬を膨らませていた。
入口に立っていた男はポカーンとした表情で「ど、どういうことですか?」
と、叫んでいた。
岩田警部は男の方に向き直り冷静に口を開いた。
「おまえさん。ここに来るのは初めてか?」
「あ、当たり前じゃないですか。」
男は、鳩が豆鉄砲喰らった顔をして答えた。
「じゃあよ。どうやって調べたんだ?この探偵事務所は、宣伝の類い(たぐい)はなにもしていないはずなんだよなぁ?どこで知ったんだ?」
岩田警部は、真剣な顔で男に尋ねた。
どうやら、探求心という職業病のスイッチが入ってしまったみたいだった。
「それは・・・。」男が困惑混じりで回答に困っている所で、
「そんな事は、どうでもいいじゃない。この子が、どんな手段でここを知ったかなんて関係ないわよ。」
くるみママは、怒り(おこり)ながら尋問紛いの行為を止めた。岩田警部の顔から張り詰めた気配が消えて笑顔で、
「おう。わりぃわりぃ。俺は、煮えきらない奴が好きじゃないからよ。ついつい問い詰めちまうんだ。まっ。職業病ってやつだ。すまんな。兄ちゃん。」
我に返り頭をかきながら答えた。
男は、ほっとした表情をし、「いえいえ。大丈夫です。」
と、返事を返した。
「でも、ママも同じようなもんだろ?」
岩田警部は、くるみママに視線を向けて言った。
「まぁ・・・。そうね。中途半端だと寝覚めが悪いけど、私はそこまで追求しないわよ。鬼警部さん。」
ママは、冗談混じりにそう言うと男の方に向き直し改めて自己紹介をした。
「私が、bar beauty men'sのオーナーと上の探偵事務所所長を兼任してる、くるみママこと芝原 功樹よ。私に何か用かしら?」
男は暫く思考が追い付いていない感じではあったが、ハッとして深々と頭を下げた。
「えっ?あっ・・・。はじめまして。僕は、川上海音って言います。
実は、仕事の依頼をしたいと思いまして・・・」
「へぇ。何かしら?とりあえず、こっちに座って。」
と、店の中に入るよう促した。
海音も、促されるまま店に入りカウンターの1席に腰を掛けた。
「とりあえず、これを飲んで落ち着きなさいな。」
と、ウーロン茶をグラスに注いで海音の前に置いた。海音はウーロン茶を一口含み、「実は・・・」と、話そうとしたところ、
「ちょっと待って。」
くるみママは制止して、チラッと岩田警部を見た。
岩田警部は、何かを悟ったかのように、
「はいはい。これ飲んだら退散するよ。」
と、残り少ないウーロン茶割の入ったグラスを見せて、一気にを飲み干して空のグラスと現金をおいた。
「じゃあ、また来るぜ。」
と、言い残してバーを出ていった。
ママは、「ありがとう。また来てね。」と言って、出口までお見送りをした。
岩田警部が帰った事を確認して、
「ここじゃあ、依頼の話はできないわね。今日は、お客も来なさそうだし・・・お店を閉めようかしら。
えーっと。海音君って言ったっけ?話は事務所で聞くから先に行っててくれない?私は、お店を片付けてから行くから。」
と、言ってbarの片付けを始めた。
海音は、「もし、よろしければ・・・僕も手伝います。」
と言うと、一緒に店の中を片付け始めた。
「あらそう?悪いわね。今日は、お客様もいなかったからあまり手伝って貰うこともないけどね。」
くるみママはそう言って、使用したグラスを洗いつつ海音に言った。
「まかせてください。」
そう言うと海音は、テーブルを拭き掃除機をかけ、片づけを手伝った。
店内はすぐに片付き、bar入口のドアに鍵をかけて海音の方に向いて言った。
「ありがとう。助かったわ。じゃあ、事務所に行きましょうか。」
くるみママと海音は二階の事務所に向かった。
バー横の階段を上がると、ドアが現れた。
ドアの横には芝原探偵事務所の看板が掲げられていた。
くるみママがドアの鍵を開けて、
「ようこそ。芝原探偵事務所へ。」
と、言って海音を招き入れた。