7.常識の先へ
前話の主人公側の描写の続きから始まります。
※ゴブリン側描写との対比がメインなので、苦手な方は飛ばしてください。
死の間際にスキルの同時発動をなんとか成功させたアルクは、すんでのところで命を繋ぎ止めていた。
とはいえ、〈身体強化(極小)〉スキルを同時に発動させただけでは、自分の生命活動を維持するのが精一杯であり、身体が自由に動かせるようになったわけではない。
そもそも〈身体強化〉スキルは、その名の通り身体機能を補助する効果はあっても、すでに失った体力を回復するような効果はないのだ。
特にアルクが保有する〈身体強化(極小)〉では、スキル自体の効果が非常に弱く、たとえ満足に動けたところでゴブリンへの対抗手段はないに等しかった。
――ならばどうするべきか。
その答えは簡単だ。
〈身体強化(極小)〉を同時に発動させただけで足りないのなら、それ以上にスキルを重ね合わせればいいという話である。
とはいうものの、仮に普通の人間がこの状況で同じ選択を取ったところで、その領域に辿り着くことはなかっただろう。
決して揺るがぬ強靭な精神力を持ち、たゆまぬ鍛錬を続けてきたアルクだからこそ、その道が開かれたのだ。
◇
(まだだっ! もっと多くの、よりたくさんの力が必要だ!!)
更にスキルを発動させるため、自分の身体に片っ端から魔力を込めていく。
幸い、スキルに必要な魔力は少なく、常にスキルの訓練を続けてきたアルクには、まだまだ膨大な量の魔力が残っていた。
(きたっ! これだ、この感覚だ!)
一度スキルの同時発動を経験したアルクは、日頃から鍛えてきた卓越した魔力操作技術を十全に活かし、ついにスキルの複数発動条件を見極めた。
だが、その合間にもゴブリンは少しずつおばあさんが寝ている小屋へと近づいている。
スキルを三つ、四つと重ねがけしていきながら、まだ重く感覚すらない身体を強引に動かし、よろめきながらもゆっくりと起き上がっていく。
「……ギィ?」
アルクの立ち上がる気配に気づいたのか、そんな間抜けな声をあげてゴブリンが振り返る。
茫然と様子を眺めていたゴブリンだが、しばらくすると口元に薄い笑みを浮かべてアルクめがけて走り出した。
(よし、こっちだ。かかってこい!)
呼吸を整えてしっかりと構えを取ったアルクは、武器も拾わずに口を半開きしたまま突っ込んでくる小さなゴブリンを迎え撃った。