6.スキルの極致
前半は主人公側、後半はゴブリン側の描写になります。
※どちらも三人称視点に変更ありません。
混濁する意識の中、薄目で開かれたアルクの視界には、朦朧と浮かぶ小さな人影が映っていた。
「……ゴブ、リン」
ぽつりと口に出た言葉がアルクの意識を急速に覚醒させていく。
(そうだ、あいつを止めるんだ! 僕があいつを倒すんだ)
なぜか意識が戻る直前までの記憶は抜けていたが、心の底から沸き立つ闘志がアルクの感情を高ぶらせていた。
だが、強まる意志とは裏腹に、傷ついた身体はすでに限界を迎えており、わずかに残った生命力さえも流れ出る血とともに失われていく感覚があった。
(動け! 動け! 動け!)
指先一つ動かない状態でありながら、執念といえるほどの恐るべき精神力で手当たり次第にスキルに魔力を送りながら、無理やりにでも身体を動かそうと試みる。
もはや命は尽きようとしていたが、そのすべてが消え果てるまで、アルクは決してあきらめないだろう。
(動け!! 動け!! 動け!!)
しかし、その努力も虚しく、無情にも時間だけが過ぎていく。
やがて、今にも消え入りそうなほど弱弱しくなった命の火が明滅し、最後の輝きを放たんとした刹那。
――まるで、風に揺られて膨らんだ火先が、火片となって飛び散るように、光源から小さな光が飛び出していく。
そうして最初の命の火が燃え尽きたとき、かすかな光を灯す新たな火種がそこに生まれていた。
それこそが次なる領域と呼ばれるスキルの極致、〈身体強化〉スキルの同時発動に成功した瞬間であった。
◇
「……ギィ?」
草を踏むような小さな物音を聞いて、振り返ったゴブリンは小首をかしげる。
そこには、つい先程返り討ちにしたばかりの少年が、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる姿が見えた。
確かに死なない程度に加減をしていたかもしれないが、動けないくらいには痛めつけたはずだった。
だが、そんな小さな疑問はすぐに頭から抜けていった。
それよりも興味をそそられるのは、未だに希望を失っていないらしいこの少年が、今度はどんな楽しい表情を見せてくれるのかということだ。
「……ゲゲ」
先程まで感じていた愉悦を思い出し、自然と口角が上がっていく。
自分の嗜虐心を満たしてくれるだろう玩具を求め、ゴブリンは少年に向かって走り出した。