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48.魂の残片

 「君自身が襲い、そして襲われた当事者だとするなら、君は殺された兵士ダニロでもあるわけだな?」

 「そうだッ! オレらが殺し、殺され……た? ああそうか、俺は……殺されたの、か」


 そう小さく呟いたあと、悪魔は自身の頬にある複眼の一つを押さえ、苦し気に顔を歪ませた。


 「が、アッ! なんだ、こりゃあ。……旦那ァ、我々に一体何をしたッ?!」


 堪え切れずに片膝をつき、憎々し気にアルクを睨みつける。

 様々な感情が一度に噴き出したかのように、その顔は醜く歪んでいた。


 「オレは何もしていない。ただ、君の中にいるダニロに話しかけただけだ」

 「我々の中のダニロに、だと?! バカな……ダニロの魂はすでにオレらの中に溶け込んで一体と化したはずッ! まさか、あいつの残片がまだ我々の中に残って――ッ!! アガァアア!!」


 頭を抱えて苦しみ悶える悪魔は、顔を押さえている触手の間から覗く小さな複眼の一つでアルクを見つめた。


 「いま、だ。今のうちに、俺に止めを刺して。……俺たちをここから解放してくれ」

 「ああ、任せろ」


 強く地面を踏み抜き、一足飛びに接近したアルクは、逆側の足を振り上げることで強烈な足刀を悪魔の頭部に見舞った。

 足刀を放った左足をそのまま前に踏み出し、すでに構えていた右のこぶしを打ち下ろそうとして――即座に飛び退く。

 その瞬間、寸前までアルクの首があったところを、白銀の瞬きが通り抜けていった。


 首から上を失って力なくへたり込んだ悪魔を庇うように立ちはだかったのは、先程まで傍観していたギルド職員の男である。

 手には彼の得物である短刀を持ってはいるが、特に構えを取るでもなく、自然体でアルクと向き合った。


 「申し訳ございません、アルクさま。今この場で彼を失うわけにはいかないので、少し手を出させていただきました」

 「今度は君自身が相手をしてくれるということかな?」

 「いえいえ、滅相もございません。私自身はもう充分に堪能させていただきましたので。それと、先程のお手並みには非常に感服いたしました。この時代ではすでに消失したはずの知識、明らかに人の領分を超えた技術の数々……私、あなたさまに俄然興味が湧いてまいりました」


 アルクが男と話している間にも、千切れた悪魔の首の断面からはグジュグジュと細い触手が出てきており、再生しているような様子が見える。


 「だったら、そこをどいてくれないかな? その悪魔を生かしておくわけにはいかないんだ」

 「いえ、そういうわけにはいきません。……ですが、もしどうしても彼を殺そうというのであれば、ここで私を倒してからにしていただきましょうか」


 鋭い眼光を向ける男の隣に山羊の悪魔が並び立つ。


 「ここはワタクシにお任せを」

 「いえ、ここは私が受け持ちましょう。私の実力はあなたもご存じの通り、心配はいりません。それにもし、彼だけでなくあなたにケガでもされては、私が【強欲】にどやされてしまいますからね」


 ふっ、と緩く口元をほころばせ、男は短剣に魔力を込めた。

 逆手に持つ短剣の刃に、先程悪魔たちが使った瘴気のような濁った粘性のある煙が纏わりついていく。


 「……君は悪魔とどういった関係にあるんだ? それにその瘴気も」

 「それは戦っていればいずれわかるかもしれませんね。もっとも、その前にアルクさまが死ななければの話ですが」


 瘴気を扱うことから男自身も悪魔のように思えるが、彼には悪魔特有の魔力波長を感じないことから、アルクはその正体を断定できずにいた。


 「さて、始めましょうか。彼らと違ってアルクさまはどんな感情の昂りを見せてくれるのか、楽しみにしておりますよ」


 歓喜に似た狂気を浮かべ、男はアルクへと駆け出してきた。

投稿遅めになっており、申し訳ないです。

次回は9月1日に更新します。

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