47.取り込まれたモノ
「死した悪魔の魂を取り込んで知識や力を得る。その理屈はわかる。だが、君の本来の人格はどこにあるんだい?」
拮抗を嫌い、矢継ぎ早に繰り出される触手の槍をアルクは打ち払うと、属性魔力で強化した脚力で再び肉薄し、三叉槍を薙いで間合いを計ろうとする悪魔の右手を掴み取った。
「チッ! 何をワケのわからねェことをッ」
「今ある君の意識は、本当に君自身のものなのか?」
「オレらの意識はオレらのものだろうが!」
悪魔はアルクの手を振りほどくと、ちょうど月光に照らされて自身にかかっていたアルクの影へと身を潜める。
そして遠くの岩陰から姿を見せた悪魔は、左手の触手を束ね合わせた巨大な腕を引き絞っていた。
「コイツでッ、押し潰れろオオオ!!」
手の甲から覗く一部の触手から瘴気を噴射することで推進力を得たそれは、先程の巨人の悪魔の拳槌を遥かに凌ぐ圧を持って振り抜かれる。
その大きさや加速度から猛烈な摩擦が生じて、熱せられた触手の巨塊はまるで隕石のように赤く発光していた。
大気を熱し、夜空を赤く染め上げ、唸りを上げて迫る巨塊を前にしても、アルクは動じることなく前を見据えて、これまでと同じようにこぶしを構えるのみだった。
「〈疑似スキル:止水〉」
衝突により、吹き荒ぶ爆風のような熱波が周辺の大地を捲り上げ、緩やかな傾斜でできた窪地を巨大な大穴へと変貌させていく。
無数の触手で作られた巨塊は、摩擦と打ちつけたさいの衝撃によって粉々に崩れて見る影もない。
だが、一方のアルクは平然とした様子で打ち合わせたこぶしを突き出している。
〈疑似スキル:止水〉は、相手の攻撃と同威力の攻撃をぶつけて相殺する技だ。
アルクの持つ〈身体強化(極小)〉はスキルの効果が限りなく弱い。そのため大抵の場合、相手と同威力程度の攻撃を出すには刹那の間に一点集中でスキルを重ね合わせる必要がある。
ただでさえスキルの同時発動が極めて難しい技術であるにもかかわらず、それに加え、瞬時に相手の攻撃を見極めて同じ威力で打ち消すには勘や運だけでなく、数多くの経験に裏打ちされた知識や技術が必要だった。
それらを漠然と肌で感じたのだろう、悪魔は苦虫を嚙み潰したような表情でアルクを睨みつけた。
「確かに今の君にもしっかりとした自我はあるかもしれない。だけど、どうかな? 仲間の魂を取り込む前の君は一体何を考えていたんだろうね」
「だからッ、何ワケわかんねェこと言ってんだ!?」
「君はそもそも、取り込んだ悪魔たちを仲間だと思っていたのかな?」
互いに飛び退き、態勢を整える。
悪魔は怒りの形相を浮かべ、感情に任せて魔力を迸らせた。
「当たり前だッ! 我々を殺した旦那に、オレらはこうして怒りを感じているのが何よりの証拠だろうがッ!」
「なら、どうして君は、ほかの悪魔がやられているのを黙って見ていたんだろうね」
「黙って見ていただと?! そんなワキャねェ! そんなワケが……あ?」
反論しようと自らの行動を振り返った悪魔は言葉に詰まり、右手で頭を押さえて片膝をついた。
「うぐッ?! あがッ! 旦那ァ……あんた、我々に何をしたァ?」
「オレは何もしていないさ。だけど、君が苦しんでいるってことは、君自身が語る言葉に矛盾が生じているからじゃないのかな」
「……矛盾だとォ?!」
苦悶の表情を浮かべる悪魔はふらつきながら立ち上がる。
アルクを睨む瞳はわずかに揺らいでいた。
「君たち悪魔と戦っていて何かおかしいとは思っていたんだ。でも、これでようやく理解したよ。君は昨日の晩、リヒト迷宮近くの森で兵士を襲った犯人なんじゃないのかい?」
「リヒト迷宮の近く? オレらが兵士を襲っただと?!」
悪魔は小声で反芻すると身体を小刻みに震わせて、くつくつと喉を鳴らす。
「そうかそうか。いやあ、惜しいねェ。それは合っているとも言えるし、間違っているとも言える」
「どういう意味だ?」
怪訝そうに尋ねるアルクに、悪魔は口角を歪めて笑い声をあげた。
「そりゃあ、我々が襲い、襲われた張本人なんだからなア」




