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46.受け継がれる能力

 鳥の悪魔の胴体から引き抜いたアルクの左腕に、数本の触手が絡みつく。


 不気味な笑みを湛える小さな悪魔は、右手の三叉槍を強引に振り払って距離を取った。

 背中の翼をはためかせることで空中での姿勢を制御し、反撃する間も与えず鋭い突きを繰り出してくる。


 「どうです旦那ア!? 我々の連携も捨てたもんじゃないでしょう?!」


 槍の間合いギリギリから放たれる連撃によって近づくこともままならず、かといって機動力で翻弄しようにも左腕に絡まる触手を振りほどく暇もなく、大きく行動を制限されたアルクは一方的に攻撃を受けざるを得ない状況に追い込まれていた。


 「……なるほど、まだこんな実験を続けていたんだな?」

 「はてさて、一体なんの話でしょうかね」


 アルクは右手のみで連続して放たれる槍撃を捌きながら、やや離れた位置から動向を見守っていた優男に問いかける。

 男はゆるゆると首を振り、わざとらしく肩をすくめた。


 「オレらをッ! 我々をッ、無視してんじゃねえ!!」


 このやり取りに不快感をあらわにしたのは目の前の悪魔だ。

 一段と激しく槍を叩きつけてアルクの動きを止めると、その隙に残る触手すべてをアルクの胴体に巻きつける。


 「おいッ、デカブツ出番だ! オレらごと旦那を叩き潰せ!!」

 「オオオォォ――!!」


 巨人の悪魔が両手を合わせて振りかぶると、土砂崩れで発生する落石を想起させる巨大な拳槌が振り下ろされた。

 ドンと大地が内側から爆ぜるようにひび割れ、天高く土煙が上がっていく。




 「クククッ。さあて、旦那はどうなりましたかねェ」


 巨拳の影に潜んでやり過ごしていた悪魔は、実体を現してすぐに目を剥いた。

 一撃で地形を変えるほどの絶大な威力を誇る拳槌を、右こぶしだけで迎え撃ち、そればかりか一歩も動くことなく受け止めていたからだ。


 完全に動きの止まった巨人の悪魔の腕を掴んだアルクは、まるで背負い投げでもするように、目の前に現れた悪魔に向けて地面を踏みしめる。


 「ヒッ! だ、旦那。いくらあんたでもそいつは無茶ってもんで――」

 「そら、いくぞ!!」


 ズンと右足が地面に沈むと、小山のような巨体がぐらりと傾き始めた。

 そのまま担ぎ込まれるように巨人の悪魔の足が地を離れて宙をかく。


 「ゴアアア」


 轟音とともに叩きつけられた巨人の悪魔の上空に、いつの間にか跳び上がっていたアルクが追撃のかかと落としを食らわせる。

 ぐしゃりと嫌な音を響かせて、頭部を失くした悪魔の血が周辺に降り注いだ。


 「バ、バケモノめ!」


 当たる寸前で影に潜んでいたのだろう、現れた悪魔がアルクに向かって叫ぶ。

 だが、動揺したのはわずかな間であり、すぐに落ち着きを取り戻した悪魔は笑い声を漏らし始めた。


 「――ククッ! 確かに! 確かに、あの巨体を投げ飛ばしたのには驚きましたがねェ。しかし残念ながら、旦那が犯した愚かな行為によって、我々はまた新たな能力を得てしまったのですよォ!!」


 悪魔が両手を広げて見せれば、新たな目玉が作られて、全身の筋肉がボコボコと隆起していく。

 やがて、二回りほど大きくなった悪魔は、足を踏み出すと同時に翼を羽ばたかせて、一瞬にしてアルクの前に現れた。


 「そしてェ! これがその新たなチカラだァァ!!」


 突き出された三叉槍によって、横向きの竜巻にも似た暴風が吹き荒れる。

 瞬く間にアルクを呑み込んだ黒き旋風は、地面を抉り、巨大な岩石や小山を消し飛ばし、穂先の向こう側の何もかもを貫き、巨大な風穴を穿っていく。


 少しすると黒き魔力粒子が散って、漂う粉塵が晴れた。

 繰り出した三叉槍はしかし、正面から打ち合わされたこぶしにより受け止められていた。


 「〈疑似スキル:止水〉」


 そうしてこぶしを合わせたまま、悪魔の瞳を見据えたアルクはある疑問を口にした。

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