45.再来
先程までの見下げたような態度は消え、油断なく身構える悪魔たち。
二属性の魔力を開放したアルクは、わずかに重心を下げて対峙する。
「オガアアアア！！」
最初に動いたのは巨人の悪魔である。
巨木を思わせる腕を振りかぶり、アルク目がけて勢いよく振り下ろす。
初撃と異なるのはその動きだ。
こぶしを引き絞ったり、上体を捻って力を溜めるわけでもなく、振り上げて地面に叩きつけるだけ、という非常に単純で読みやすい動作だった。
難なく避けて次の攻撃に備えるアルクだが、巨人の悪魔は相変わらず掲げた逆のこぶしをなんの工夫もなくただ振り下ろしてくるだけである。
（なるほど、時間稼ぎというわけだな）
巨人の悪魔の連撃によって舞い上がった粉塵により、視界の大部分は遮られた状態だ。
ならば、仕掛けてくるなら鳥の悪魔のほうだろうと当たりをつけ、魔力の網に意識を向ければ、後方から何かが近づく反応が感じられる。
鳥の悪魔の能力は”影に潜む”という特性だ。
触手と三叉槍の合間で虚を突いた刺突は、その能力で砕けた岩の影に移動して繰り出したに過ぎない。
ゆえに種がわかれば対応するのは容易い能力とも言えた。
「なッ！」
巨大な腕の振り下ろしを避けた着地際を狙うように、粉塵の中から突き出された短刀をアルクは右の手刀で弾き飛ばす。
再び奇襲を防がれたことに戸惑いながらも、即座に蹴りを放って距離を取り、徒手空拳に切り替えた手腕は流石のものであった。
巨人の悪魔と連携して、砂塵に実体を潜めながら隙を突いて攻撃を仕掛けるも、そのことごとくが右の手刀だけではね退けられてしまう。
「なぜッ、なぜです……！ なぜ人の身でありながら、我ら悪魔と対等以上に渡り合えるのですかッ？！」
鳥の悪魔に焦燥の色が浮かぶ。
どうやら、共闘や持久戦といった経験は少ないようだ。
巨人の悪魔の一撃ごとに地形が大きく変わっていることもあり、崩れた地面に足を取られた鳥の悪魔はわずかに集中が途切れてしまう。
その一瞬を狙いすましたアルクの左こぶしが、悪魔の腹部を貫いた。
「あぐゥ……ッ！？」
血を吐いて膝をつきながらも、鳥の悪魔は自身の腹部に刺さったアルクの左腕をがっしりと掴んだ。
「ククッ……いい気にならないことですね。あなたが倒した我々は、所詮旧式の型落ちなのですからねエエ！！」
「何を言って――」
目の前の悪魔の言葉に気を取られた瞬間、遠方から大きく薙ぎ払うように振るわれた触手がアルクに迫ってくる。
寸前で右の手刀で打ち返すと、三叉槍を手にした小さな悪魔が猛烈な勢いで接近してきた。
三叉槍が振り下ろされる直前で手首を掴み取り、向かい合う形になった二人の間の地面が、両者から吹きつける魔力の余波によって亀裂が走る。
右手に三叉槍を持つ悪魔の左半身で無数の触手がグネグネと蠢き、もやがかった左側の顔には無数の複眼と二つの目玉が赤く光っている。
「さあ、旦那ッ！ オレらともう一度踊ろうじゃねぇかァアア！！」
そう叫ぶと同時、複眼の一つがボコボコと膨れて目玉へと変化し、悪魔の背中が大きく盛り上がって漆黒の翼が広がった。
