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36.差し伸べられた手

 あまりにも突然の展開に理解が追いつかない。

 ただただ唖然とするばかりの少年に、白銀の髪の少女が問いかけてくる。


 「あなたはこれからどうしたいのかしら?」


 そう問われ、少年は言葉に詰まってしまう。

 少女のその選択を急かすかのような発言は、言葉じりだけをとらえれば、大半の人が厳しいと感じる言い回しである。

 だが、当の少年は全く違った印象を受けていた。


 確かに、最初に青年が提案してくれたときのように、優しい口調で気遣うような言い方のほうが多くの人に好まれるのは事実だろう。

 しかしながら、少年の価値観は普通とは違う。


 少年にとっての甘い言葉とは、すなわち偽りの言葉であった。

 その裏にどんな思惑があるのか、ほかに別の狙いがあるのではないかと疑わずにはいられない。そんな過酷な人生を歩んできたのだ。

 だからといって、少女と同じくきつい言い方でもの言えば信じるのかと問われればそれもまた違う。


 ただ少し、なんとなくではあるが”あの声”に似ている気がしたのだ。

 幼少のころから少年を支えてきた彼らの声に。


 おそらく少女はあの場面であえて少年に選択させることにより、”流れに身を委ねるな””最後の判断は自分の意思で選択しろ”と、遠回しに伝えてきているのではないかと少年は感じていた。

 それは奇しくも、少年を想い、ひたすらに生きろと訴えてくるあの声と重なって聞こえるようで、なればこそ真摯に答えようと、一つずつ言葉を選び紡いでいく。


 「オイラは、今までオイラをバカにしてきたあいつらを、見返してやりたい」


 ようやく絞り出した言葉は本心ではある。

 しかしそれは追い求めた先にあるかもしれない理想の一つであって、それ自体が少年の目指したいところでないのは自分自身でもわかっていた。


 「そのためにどうすりゃあいいのかってのは、オイラにはまだわかんねぇ。けどよ、今のままじゃダメなんだってのは理解してる。それに、オイラ一人じゃここから出られやしないってのもさ」


 現状を変えたい。そう願っても自分一人の力ではどうしようもなかった。

 そんなときに見えた一筋の光明。

 ようやく手の届くところに訪れた好機をわざわざ不意にすることはないのだ。

 だから、せめて自分の足で立てるようになる間だけでも――。


 「あんちゃんたちの力を貸してほしい」


 一度は自分から振り払ってしまった手を今度はしっかりと掴み取るために、少年はまっすぐに青年と目を合わせた。

 断られるのではないかと、一抹の不安が脳裏をよぎる。


 そんな少年の内心を見透かしてか、優しくほほ笑んだ青年は再び手を差し伸べてきた。


 「それじゃあ改めて、オレはアルクだ。これからよろしく」


 「オイラはカイだ。こちらこそよろしくな」


 少年は差し出された手を力強く握り返した。

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