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34.少年の選択

 「オイラたちの、希望の、光……」


 カイは噛みしめるようにその言葉を繰り返した。

 目元からじわりと涙がこぼれていく。


 「あんちゃんたちは、ホントにオイラを助けてくれるってのか? いやでも、オイラはなんも返せるものなんて持ってないし……」

 「お礼なんて気にする必要はないよ。カイ君が助けを求めているのなら、オレたちはそれに応えるだけだ」

 「けどなんでだ? 姉ちゃんがオイラと同じで人族じゃないのはわかったよ。でも、迷宮に囚われてた姉ちゃんと違って、迷宮の外から来たあんちゃんは人族なはずだろ? なのに、なのにどうして?」


 カイがこれほど他人を疑うわけをアルクには痛いほど理解できた。

 これまでカイがかかわってきた人族は、おそらくカイを粗雑に扱ってきたはずだ。ただでさえ亜人に対して差別意識がある上に奴隷とあっては、奴隷商や買い手に不当な扱いを受けるだけでなく、同じ奴隷仲間にすら蔑まれたり、濡れ衣を着せられることも多々あったことだろう。

 だからこそ、救いの手を差し出そうとする相手にも疑いの目を向けずにはいられないのだ。


 アルクはカイが呟くように漏らす言葉を黙って最後まで聞き終えてから、イネスへと視線を移した。


 「イネス、カイ君の奴隷紋を解呪できるかい?」

 「もちろんよ。任せて」


 イネスは一歩前に出ると、何やら呪文を唱えながらカイに右手をかざした。

 すると、手のひらから淡い光が発せられ、それに同調するかのようにカイの肩にある奴隷紋が淡く輝き始める。


 「ちょっ、姉ちゃん何を! うぐっ、やめ――」

 「終わったわ。……カイ、自分の肩の奴隷紋があった場所を見てみなさい」

 「へっ? えっと、奴隷紋があった場所つったって、今もここに」


 戸惑いながらも言われた通りにカイが服をずらせば、確かにそこにあるはずの奴隷紋は消えており、焼け焦げた円形の痕だけが薄っすらと残っていた。


 「う、嘘だろ!? こんなことあるわけ…………もしかしてオイラ、夢でも見てんのか?」


 自分の肩に残る焦げ痕を眺めたまま唖然とした様子で呟く少年に、イネスは慈愛に満ちた表情で告げる。


 「いいえ、これは夢や幻ではなく現実の出来事よ。これであなたは晴れて文字通りの自由になったわ。ここから先はカイが自分で考えて選択すべきこと。アルクの提案に乗りわたしたちとともに来るもよし、一人で迷宮を脱出するもよし、はたまた奴隷に戻るという手もあるわ。……あなたはこれからどうしたいのかしら?」


 「……オイラ、オイラは――」


 カイは答えようと口を開いて言い淀む。

 突然のことに、いきなり受け入れることができないのだろう。


 正直こうなることはイネスにも予想できたはずだった。

 にもかかわらず、なぜ決断を迫るように問うたのか。アルクにその理由を推し量ることはできないが、彼女のカイを見つめる真っ直ぐな瞳に、言い出しかけた言葉を飲み込んだ。


 そうして向き直ったアルクをカイは覚悟を決めたようにじっと見据えていた。


 「オイラは、今までオイラをバカにしてきたあいつらを、見返してやりたい」


 ためらい気味に口にした言葉はしかし、少年の心からの叫びである。


 「そのためにどうすりゃあいいのかってのは、オイラにはまだわかんねぇ。けどよ、今のままじゃダメなんだってのは理解してる。それに、オイラ一人じゃここから出られやしないってのもさ」


 だから、とカイは続ける。


 「あんちゃんたちの力を貸してほしい。……まあ、一度断っといて言えた義理じゃないのはわかってんだけどな」


 そう、最後に申し訳なさそうに付け加えるカイに対して、アルクはゆるゆると首を振ってから優しくほほ笑んで見せた。


 「いや構わないよ。それじゃあ改めて、オレはアルクだ。これからよろしく」


 「オイラはカイだ。こちらこそよろしくな」


 そう言ってはにかんだ少年は、差し出された手を力強く握り返した。

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