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32.崩壊のさなか

 リヒト迷宮第六階層。


 普段であれば、明るい野原が広がるのどかなその階層も、迷宮の崩壊に伴い荒廃した土地へと変貌していた。

 大地には無数の亀裂が入り、場所によっては深い裂け目が生じているところもある。


 そんな危険な階層内を、一人懸命にひた走る小さな人影があった。

 獣の耳にふさふさと揺れる尻尾を持つ、いわゆる獣人と呼ばれる種族の少年だ。

 少年は全身を血に染め足を引きずりながらも、降ってきた瓦礫をすんでのところで跳んで避けた。

 痛みに顔をしかめたのは一瞬で、すぐに立ち上がって再び走り始める。


 「ちっきしょう……あんにゃろうどもめ! 覚えてろよ!!」


 獣人の少年が、なぜこのような場所に一人でいるかと言えば、同じパーティメンバーである冒険者たちによって、魔物から逃げるための囮として残されたからだった。


 冒険者といえど、パーティーに加入する理由はさまざまだ。

 ある者は自分が不得手とする分野を補うために、またある者は安定した収入を得るためなどと理由は多岐にわたるが、望まずして冒険者にされてしまう人もいる。その筆頭にあげられるのが奴隷である。

 奴隷が冒険者になった場合にさせられる仕事の代表例が、”荷物持ち”と引きつけ役”――要は囮役というわけだ。

 つまり少年は、つい先程まで仲間だった冒険者に大量の魔物を押しつけられたあげく、自力で崩壊中の迷宮を脱出しなければならなかった。


 しかしながら、まだ未熟な少年が大量の魔物から無事に逃げ切るだけでも至難の業である。

 獣人とはいえ、身体が成長途上の少年と魔物とでは素の能力に大きな差があり、追いつかれるのも時間の問題かに思われた。


 崩落に巻き込まれて同胞を失いながらも、しつこく追ってくる魔物の集団を後ろ目に確認していた少年が前方を向き直すと、行く手にまばゆい光が広がっていた。



 ◇



 ときはわずかに遡る。


 アルクたちは迷宮から脱出するために隠された転移魔法陣を探していた。それはイネスが同族によって、迷宮の主として封じられたさいに偶然耳にした情報だった。

 そこで迷宮主の部屋の入り口にある門の周りを入念に調べた結果、情報通り片方向の脱出用魔法陣を見つけられた。

 試しに魔力を送ってみると魔法陣が正常に起動したため、そのまま転移を実行したのだ。


 転移した先でアルクの目に飛び込んできたのは、獣人らしき少年が大量の魔物に追われて、こちらへ向かってくる光景だった。


 「イネス、援護は頼んだよ」

 「ええ、任せてちょうだい」


 地を蹴って一足で間合いを詰めたアルクは、獣人の少年の背後に迫ったオーガの顔面を殴りつけた。

 反応すらできずに殴り飛ばされたオーガは、追駆していたほかの魔物を巻き込みながら転倒していく。

 そこへすかさず放たれた一筋の閃光が炸裂し、集められた魔物を一掃した。


 「「ギャオオオォォ!」」

 「助かる」


 アルクは混乱に乗じて集団の中心へ飛び込むと、屈強な魔物たちを次々に叩き伏せていった。

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