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30.迷宮の役割

 「迷宮産のスキル?」

 「あら、知らないの? ……って、まあそうよね。一般人にまで知れ渡っていたら色々と問題がありそうだし」

 「待て待て、一体なんの話だ?」


 ぶつぶつと一人で納得し始めたイネスをアルクが止める。


 「迷宮産のスキルっていうのは、迷宮の核を壊した者だけに贈られる神々からの褒賞のようなものよ。アルクは迷宮がなんのために存在するのか、とか考えたことある?」

 「……いや、ないな」

 「まあそうよね。わたしは魔族側の知識しかないから、一つだけ断言できることを言うわ。たとえるなら、迷宮は神々が創った”世界に溜まった(よど)みを取り除くための巨大な浄化器官”のようなものとでも思っておけばいいわ」

 「……浄化器官、か」

 「そう、わたしたちの身体にある臓器と同じよ。澱みは放っておけば悪性化して、世界を蝕む毒となるの。わかりやすく例をあげれば、魔物なんかがそれに当たるわね。で、その最たる例が悪魔よ」

 「じゃあ、その悪魔にならないように、魔物の段階で生み出してるってわけか」

 「正確には違うけど、その解釈でも問題ないわ」


 イネスの言うように、澱みを原因とすれば、魔物の発生や迷宮の存在にも説明がつくだろう。ただし、その理屈だと一つおかしな点が出てくる。


 「なるほど、なんとなくわかってきたよ。でも、仮にその通りだとして、なんで浄化器官であるはずの迷宮の核を壊したらスキルが貰えるんだい?」

 「今話したのは、小さいころに魔人の常識として両親に教わった知識だから、これ以上の情報は知らないの。ただ、疑問だったからわたしなりに考えてみたんだけどね。たぶん、わたしたちの細胞と同じようなものだからじゃないかなって思うのよ」

 「というと?」

 「わたしたちだって、自分の身体だからってすきなようにいじくり回せるわけじゃないじゃない? 澱みが多い場所に迷宮が創られるんだとしたら、澱みが減った場合はどうなるのかなって」

 「ああ、そうか! 溜まった澱みで魔物が自動的に作られて、それに応じて報酬が用意される仕組みだとすれば、澱みが少なくなったら放置されるかもしれない。いつまでも浄化できずに澱みが溜まったままのほうがよくないってことか」

 「あと、対策として思い浮かぶのは、〈神託〉のスキルかしら。あれで、一部の信心深い人間だけにその事実を伝えて、迷宮の減少を防いでいるのでしょうね」

 「ははあ、なるほどなあ」


 アルクが腕を組んで思案にふけっていると、その顔を覗き込むようにしてイネスが声をかけてきた。


 「ねえ、考えるのもいいけど本題を忘れてないかしら」

 「本題……迷宮のことじゃなくてか?」

 「迷宮産のスキルよ! わたし、さっきからすごーく気になってるのよ!」

 「あー、すまない。悪かった」


 頬を膨らませたイネスが抗議の声をあげる。

 アルクは慌てて謝るものの、これまでからは想像もつかないようなイネスの仕草に思わず顔が綻んでしまった。


 「むぅ……。ま、まあいいわ。それで何が書いてあったの?」

 「えー、〈魔素吸収(小)〉だそうだ。それなりに使えそうな感じはするが……どうした? 何か知っているのか?」


 顔を上げると、イネスが得も言われぬ表情で立ちすくんでいた。

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