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26.実力差

 アルクとイネスの戦闘は、より一層激しさを増していく。


 一見すると、互角の戦いを繰り広げているようにも見える両者であったが、徐々に身体能力や保有する魔力量などといった部分で自力の差が現れ始めていた。

 戦いを始めた時点から常に全力でスキルを使い、ときに魔力を振り絞って猛撃を凌いできたアルク。片や覚醒状態に至り、一段と攻撃の鋭さや重さが増したイネス。

 当然、時間をかけるほど不利になるのはアルクのほうである。にもかかわらず、当の本人は意外なほど落ち着いていた。

 それを不思議に感じたのはイネスだ。


 「あら、割と余裕があるみたいね。何か妙案でも思いついたのかしら?」

 「……余裕はないさ。ただ、焦っても仕方ないからね」


 イネスの突きを左脇へ逸らしつつ、回し蹴りを放ちながらアルクは答える。

 上体を右向きに倒しつつ左足を振り上げたイネスは、そのまま流れるように身体を後方へ回転させて間合いを取った。


 「……ふーん。それなら楽しみに待ってるわね」


 同様に後ろへ飛び退き距離を空けたアルクは、息を整えてこぶしを構える。


 「ああそれと、君が気遣って攻めの手を緩めてくれているのはありがたいが、そろそろ全力を出してもらって構わないよ」

 「……本気?」


 思わず疑いの眼差しを向けるイネスに、アルクは困ったようにほほ笑み返した。


 「もちろんだ。いや、むしろそうしてくれないと困るかな」

 「……それじゃあ、遠慮なく」


 重心を下げて床と平行になるまで上体を沈めたイネスは、その動作の間に溜めた闇を一気に後方へ噴射して、まさに砲弾のごとく飛び出してきた。

 アルクは咄嗟に両腕を交差して攻撃を防ごうとするも、いつの間にか身体の前面で構えていたはずの両腕が頭上に弾かれている。それを認識したときにはすでに、がら空きになった胸部にイネスのこぶしが打ち込まれていた。


 もんどりを打って後方の瓦礫にぶつかったアルクは、血を吐いてその場に倒れる。

 全身から溢れる闇によって宙に浮いていたイネスは優雅に地面へ舞い降りると、心配そうな視線をアルクに向けた。


 「大丈夫……よね?」

 「……ああ、問題ない」


 よろよろと立ち上がったアルクは、返答とともにこぶしを構え直す。

 実際に、イネスの打撃を受ける直前で後ろに身を退いていたため、身体の損傷という意味ではある程度緩和できていた。とはいえ、一歩間違えれば致命的な深手を負っていたであろうことは否定できない。

 だが、それでも勝機があるとすれば、()()にかけるしかないとアルクは考えていた。


 アルクは手のひらを上に向けて右手を前に出すと、クイクイと手招きをした。


 「言ったはずだ。出し惜しみはせずに、全力でもってかかってこい」

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