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24.極限の攻防戦

 岩盤に囲まれた広間の中を二つの人影が飛び交う。

 両者が交差したあとには、耳をつんざくような連続した打撃音が響き渡り、複数の衝撃波によって空間に一時的な歪みが生じている。


 常人では見ることさえかなわない超高速で行われる戦闘の余波だけで、広間のあちこちが崩れ落ちていった。




 両者は向かい合うと、再び空中に飛び出した。

 右腕に漆黒の闇を纏ったイネスは、飛翔の勢いを乗せてこぶしを振り抜く。

 アルクはそれを素早く身を反らして避けながら、イネスの頭部めがけて右足を振り上げた。

 イネスは眼前に迫る蹴りを左手のみで受け止めると、伸ばした右手を手刀に変えて打ち下ろす。

 姿勢を崩したアルクは手刀をまともに受けざるを得ず、そのまま下方へ落下していく。


 地面すれすれで風を起こして体勢を立て直したアルクは、追撃にかかるイネスの魔力刃を半身で躱しつつ、すれ違いざまに左のこぶしを繰り出した。

 こぶしはイネスの魔力障壁に防がれるも、一瞬視界から外れた隙に距離を取ったアルクは、魔力を練り直しながら迎撃の構えを取る。


 背部から闇を噴射したイネスは、両手に魔力刃を纏って一気に肉薄してきた。

 アルクが真横に薙がれた右手の刃を避ければ、イネスはそれに対応して左手の刃を斜めに斬り下ろす。

 畳みかけるような連撃に対して、アルクは限界寸前まで引き出した身体能力で、振るわれた手刀を両手で掴み取った。


 雷と風の魔力を迸らせるアルクを押し切ろうと、イネスが両手の刃の反対側から闇を噴出させたところで、逆にアルクが踏ん張っていた足の力を緩める。

 必然的に身体を宙に浮かせる形となったイネスの腹部に向けて、アルクは右足を蹴り込んだ。


 「う゛っ」


 ど派手に吹き飛んで瓦礫の山へと突っ込んだイネスは、周囲の瓦礫を魔力波ではね飛ばした。噴き出す炎のような黒き魔力は今までよりも濃さも量も遥かに増し、より深くなった漆黒を全身に揺らめかせてゆっくりと立ち上がる。

 いつからか額にある”第三の眼”は大きく見開かれており、そこから膨大な紫電が溢れ出していた。


 「……ハア、ハア。ふふ、さあ()()()、ここからが本番よ。せいぜい殺されないようにしっかり足掻くことね」

 「……ハァハァ。もちろんだよ。()()()も、うっかり殺されないように気をつけることだね」




 笑みを浮かべて対峙する二人に、闘志はあっても不思議と殺気はなかった。

 その理由を語るには、イネスがアルクの提案を受け入れた直後まで遡る必要があるだろう。

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