23.提案
「それは、どういう意味だ?」
「どうもこうもないでしょ……。そもそも、あなたはこの迷宮を攻略しに来たんじゃないの? それなら迷宮の主を倒すのは当たり前じゃない」
アルクのとぼけた反応に、イネスがすかさず指摘する。
それはこの部屋でアルクがイネスと会話を交わしてから、考えないようにしていたことであった。だが、もし本当に目の前の少女が迷宮の主であるのなら、倒さなくてはならないのは道理である。
「いや、だが……」
「だがもへったくれもないわよ。第一、階層主を倒さないと、ここから出られないでしょうに」
「……」
イネスの言う通りである。
だが、アルクは諦めきれない様子で再び口を開いた。
「”倒される”というのがどういうことか、わかって言っているんだね?」
「……わたしはここで死ぬ運命なの。遅かれ早かれ、ね。……でも、せめて自分の死に際ぐらいは自分で決めたいでしょ」
それは、消え入りそうな声だった。
先程までの何にも臆することなく堂々としていた態度はなくなり、今アルクの前にいるのは、年相応のか弱い少女でしかなかった。
そんな姿を目にして、アルクは意を決したように言う。
「それなら、一つ提案がある」
「……提案?」
予期せぬ言葉を受けて、イネスは小首をかしげた。
「迷宮の核を破壊して、ここから一緒に出よう」
◇
「あなた……それは、本気で言っているの?」
イネスがようやく絞り出した声は、ひどく弱弱しいものだった。
信じられない言葉を聞いた、とでもいったような反応である。
そんなイネスを安心させるようにアルクは優しくほほ笑んだ。
「もちろんだ。君さえよければ、だがね」
即答するアルクの顔を、イネスはじっと見つめる。
「階層主がいる状況で、迷宮の核だけを破壊するなんて無茶よ」
「そうかもしれないが、可能性はあるだろ?」
「迷宮の核を壊せば、この迷宮はなくなるし、お宝も手に入らないわよ」
「そうだな」
「……わたしは魔族で、それも忌み子なのよ」
「ああ」
どんな言葉を投げかけても、アルクはまっすぐにイネスの目を見つめ返したまま、一切表情を崩すことなく淡々と答えていく。
そんなアルクの様子に、イネスは根負けしたかのように深くため息をつくと、正面に向き直した。
「あなた、バカなのね」
「……そうかもしれないな」
頭をかいて苦笑するアルクに、イネスはほほ笑み返す。
「だけどいいわ。あなたのその提案、乗ってあげる」




