2.救いの手
家を追い出された少年は当てもなく彷徨い歩き、道端に捨てられた食べ物を拾いながら何とか命を繋いでいた。
だが、そんなことが長く続くはずもなかった。
フラフラと歩いていたアルクは、何もないところで足を取られて道の真ん中で転倒した。
そして、そのまま動かなくなった。
「坊や、大丈夫かい?」
声をかけてきたのは、優しい声音をしたおばあさんだった。
「……あ、あ」
返事をしようと顔を上げかけたところでアルクの意識は途絶えた。
◇
アルクを救ったのは、街はずれの小屋に住む白髪のおばあさんだった。
小屋の周りには小さな畑があり、そこで収穫したものを露店で売って生計を立てているのだという。
町の人からは魔女だのなんだのと噂になっていたのだが、実際にはそんなことは全くなく、非常に温厚で物腰柔らかな女性という印象をアルクは感じた。
彼女はアルクから事情を聞くと、目に涙を浮かべながら、いつまでもここにいていいと言った。
食べ物を恵んでもらい、住む場所さえも与えてくれた。
そんな彼女に少しでも恩を返そうとアルクは懸命に働いた。
◇
「ふう、こんなもんかな」
一通り畑の手伝いを終えたアルクは、日課である〈身体強化〉スキルの鍛錬に励んでいた。
〈身体強化〉スキルは、極めれば同時発動という技術が習得できるらしく、〈身体強化(中)〉の達人が、〈身体強化(大)〉の若者を返り討ちにするのは珍しくない話である。
だが、中位スキルですら、達人の域に達してようやく上位のスキルと渡り合うことができる程度なのだ。アルクの〈身体強化(極小)〉では、どうあがいても冒険者になることさえ絶望的といえるだろう。
けれど、アルクは決してあきらめなかった。
スキルに慣れていない初めのうちは、繰り返し〈身体強化〉を発動することで、ひたすらに魔力総量を上げた。
そのあとは、スキルの維持や発動速度を鍛え、さまざまな技能を習得していった。
身体の強化する箇所を集中することで部分的に強化幅を上げたり、睡眠中もスキルを発動し続けることで魔力を増やし続けた。
だが、そこまでしても努力ではどうにもならないことがある。
〈身体強化(極小)〉はいくらスキルを磨き続けようと、スキル自体が強くなることがなかったのだ。
スキルの出力は一向に増えず、同時発動の気配はまるでしない。
その事実に直面してもなお、アルクはくじけず希望を捨てることはなかった。
理由はいくつかあったが、何よりもおばあさんを喜ばせたい一心で、運命に抗おうと覚悟を決めた。
◇
あくる日、アルクはいつもと同じく畑を耕そうと、鼻歌まじりに家を出た。
平穏な日常に、黒い影が忍び寄っているとも知らずに。