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19.暗闇の激闘

 足元から立ち上っていた強烈な光が消えると、視界は一変して、辺りは暗闇に閉ざされていた。

 ひんやりと湿り気のある空間のそこかしこから、ズルズルと何かが地を這うような音が聞こえてくるばかりで、五感だけではそれ以上に周囲の状況を窺い知ることはできない。


 (ここはどこだ?)


 おそらくまだ迷宮の中にいるのは間違いないだろうが、迷宮内は地上と同じように多種多様な環境が存在する。人間にとって危険な場所に飛ばされていたとしても不思議はなかった。

 アルクはすぐさま周囲に魔力を巡らせると、反射してくる魔力の波を感じ取って周辺の様子を把握していく。




 (ここは、洞窟か。それとは別に、この地を埋め尽くすような反応の正体は……)


 そうしてアルクが自分の置かれた状況を掴みかけたときである。

 今までアルクの足元にいながらも、足に当たるのを避けるように常に一定の間隔を空けて周りをグルグルと回っていただけの無数の何かが、突然示し合わせたかのように動きを止めると、一斉に飛びついてきた。


 アルクは咄嗟に両腕を胸の前まで引き寄せるも、何かが身体を這い上がる速度は想像以上に速く、あっという間に全身を雁字搦(がんじがら)めに縛られてしまう。


 (こいつらは全部蛇だったのか! ……くっ、なんて力だ!)


 驚くべきことに、巻きついてくる蛇の一匹一匹が、大型魔獣すらも締め殺せるだけの力を持っているのを感じる。

 蛇の身体と自分の胴体の間に腕を早めに差し込んだことで、わずかではあるが隙間を残せていた。その小さな空間を利用して、強力な締めつけに抵抗するだけの力を発揮できているのは幸いだといえるだろう。

 アルクは下半身の防御に使っていたスキルの数を耐え凌げる最低限まで減らすと、残ったスキルを両腕へと集中させていく。


 「はぁぁあああ!!」


 両方の腕に三十ずつのスキルを重ねつつ、更に魔力を全力で開放して、胸元に寄せていた腕を強引に左右へ広げていく。

 多くのスキルと大量の魔力により、〈身体強化(大)〉相当にまで底上げした腕力に対しては、さしもの蛇たちも押し負けていき、関節が外れて落ちていくものや、ブチブチと音を立てて胴体が引き裂けてしまうものすらあった。

 だが、それでも巻きついた蛇は離れようとせず、周辺からはほかの蛇たちが続々と集まってきていた。


 両腕を肩幅まで開いて若干の余裕が生まれたアルクは、即座に放出する魔力の性質を風の属性魔力へと変換する。

 途端に物理的な干渉力を得た魔力の突風が吹き荒れて、かろうじて腕に巻きついていた蛇や付近の蛇たちをまとめて宙に巻き上げていった。

 アルクは自由になった右腕を素早く頭上へ上げると、火属性に変化させた魔力を纏わせる。


 「はあ!!」


 振り下ろしたこぶしが地に接した瞬間、猛烈な爆風が生じた。

 下半身を縛りつけていた蛇や舞い上がった蛇たちをいっぺんに吹き飛ばすとともに、飛び散る火の粉が洞窟内をほの暗く照らし出す。

 微弱ながらも火片が光源になったことで、スキルにより強化した目がわずかな光を捉え、夜目が効いて視界が確保された。


 (あれは……!)


 洞窟の奥から感じる恐ろしく強大な気配。

 その気配の主と視線が交わった直後、ねばつくような不快感が全身に絡みつき、パキリと小さな音を立てて何かが砕けた。

 アルクは膨大な量の魔力をひたすら放出し続けることでその不快感に抵抗する。


 (石化の魔眼かっ!)


 洞窟の奥にいたのは、小さな家を丸呑みにできるほど巨大な大蛇だった。

 とぐろを巻いて悠々と佇むその姿は、圧倒的な強者の風格を漂わせている。




 「シュルラァァ!!」


 鋭い牙の並んだ巨大な(あぎと)を開き、威嚇をする。

 ただそれだけの行為で空気が震え、洞窟全体が大きく振動した。


 立ちすくむような威圧を真正面から浴びせられ、身体に痺れが走る。

 それでもアルクは一切の間を置かずに駆け出した。

 ここまで尋常ではない量の魔力を湯水のごとく使い続けたことで、人並み外れた魔力量を誇るアルクにも限界が近づいてきていたのだ。

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